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“ヒット曲”が久しぶりにテレビに帰ってきた レジーが年末音楽特番から考察

2017年01月05日 19:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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・「ヒット曲」が年末のテレビに帰ってきた


 「オリコンのシングル年間チャートをみんなで揶揄する」というのがここ数年の年末におけるインターネット上の恒例行事となっている。「握手券のランキング」「どの曲も聴いたことがない」というもはや聞き飽きた感のあるツッコミが大量に投下され、「こんなチャートは意味がない」という結論でまとめられることが多い。「正確な順位を知りたい」などと言うネット民は、CD売上以外の指標も反映されている総合チャート「Billboard Japan Hot 100」には目もくれずにひたすらオリコンをバッシングする。


 「オリコンの年間ランキングはあてにならない」という類の論は、そこから「今の時代はヒット曲というものが存在しない」というような話に展開していくことが多い。確かにそう言わざるを得ない年がここ最近あったのは事実であるが、こと2016年に関してはだいぶ状況が違う。「その年を代表するヒットソング」とでも言うべきものが多数生まれたのが、2016年の音楽シーンの特徴だった。


 映画『君の名は。』のヒットとともに日本中に知れ渡ったRADWIMPS「前前前世」、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)およびそのエンディングで披露されるダンスによってちょっとした社会現象を巻き起こした星野源「恋」、お笑い芸人が音楽の領域でもヒットを飛ばしたRADIO FISH「PERFECT HUMAN」とピコ太郎「PPAP」、大復活を遂げた宇多田ヒカル「花束を君に」、CMソングとしてかなり多くの人の耳に届いた浦島太郎(桐谷健太)「海の声」とAI「みんながみんな英雄」、デビュー曲ながら話題をさらった欅坂46「サイレントマジョリティー」。どれも「CDは売れているけどほとんどの人は知らない」というような評価が当てはまりづらい楽曲である(配信リリースのみの楽曲も一部含まれている)。バンドにソロにアイドル、お笑いにCMの企画もの、デビュー作に復活作と、いろいろなタイプの楽曲が広く支持されていることからも2016年はメジャーシーンの音楽シーンが元気だったような印象を受ける。


 2016年の年末、これらの楽曲の多くがテレビでたくさん流れることとなった。星野源は本当にいろいろな番組で目にしたし、「恋」演奏時の観客の反応でこの楽曲とダンスが幅広い層に浸透していることがよくわかった。「PPAP」は番組ごとにあらゆるアレンジが施されており、そんな演出に対して時には自らの他の曲(ネタ?)も交えながら最終的には面白く仕上げてくるピコ太郎からは人知れず積み重ねてきたキャリアの重みを感じた。そして、ここで挙げた楽曲すべてが大晦日の『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)で披露された。


 『紅白歌合戦』の視聴率は、全盛期よりは低いとは言えいまだ40%を誇る。インターネットだけでは到底リーチし得ない数字である。音楽が世間の共通の話題とならなくなって久しいが、それでも年の最後には多くの人が音楽を聴くためにNHKにチャンネルを合わせる。その背景には、「みんなで音楽の周りに集まって1年を締めくくりたい」というような欲求が存在しているのではないか。そして、そんな欲求に正面から応えられる楽曲が2016年に多数生まれ、様々なタイミングも相まって(おそらくこの連載で以前指摘した「テレビを毛嫌いせずに活用しよう」というシーンの風潮も影響していると思われる/参考:http://realsound.jp/2016/01/post-5816.html)、いずれの楽曲も『紅白歌合戦』で聴くことができた。J-POPファンとしては非常に楽しい年越しであった(2016年の紅白の演出に関する是非についてはまた別の話ではあるが)。


 ちなみに、“「みんなで音楽の周りに集まりたい」というような欲求”は、2011年の東日本大震災以降の社会において強く顕在化した印象がある。そしてそういった人々の気持ちを正面から受け止めてその音楽で日本中を勇気づけたのが、他ならぬSMAPという存在だった。人々の共通の話題となり得る新しいヒット曲が多数生まれた2016年に、SMAPはその輪に入ることなくひっそりとその活動に幕を下ろした。この結末についてはいろいろ気になることもあるが、今はただひたすらに悲しいとしか言いようがない。


・コラボレーションは「テレビの武器」か、「手垢のついた手法」か


 『紅白歌合戦』を筆頭に、年末は大型音楽番組のラッシュである。思いつくだけでも『輝く!日本レコード大賞』(TBS系)、『ベストアーティスト2016』(日本テレビ系)、『2016 FNS歌謡祭』(フジテレビ系)、『ミュージックステーションスーパーライブ2016』(テレビ朝日系)と枚挙に暇がないが、個人的に一番印象に残っているのが12月23日深夜に放送された『クリスマスの約束2016』(TBS系)である。小田和正がホストの特番も今年で16年目。『紅白歌合戦』では中継での出演だったが宇多田ヒカルが実際に収録の会場に登場したことからも、この番組の特別さが感じられる。


 『クリスマスの約束』の初回となった2001年の放送では、小田和正が多くのアーティストに出演を依頼する手紙を書いたにもかかわらず誰一人として出演が叶わなかった。そこから少しずつ他のアーティストも出演するようになり、今年はついに宇多田ヒカルの出演に至った(彼女も2001年の際に出演依頼の手紙を受け取っていたアーティストの一人である)。ここ数年では和田唱(TRICERATOPS)をフィーチャーしたり、桜井和寿(Mr.Children)と曲作りを行ったりと、他の音楽番組とは一線を画した取り組みを行っている。


 小田和正のソロステージだった『クリスマスの約束』が今ではアーティスト同士のコラボを見せる番組になっているのが象徴的な変化のように思えるが、「テレビにおけるアーティストコラボ」が一般的なものとして定着しているのが2010年代の音楽シーンの特徴のひとつと言える。『クリスマスの約束』ではゼロ年代半ばからコラボを行っていが、こういった流れがより一般的になったのはおそらく2010年の『FNS歌謡祭』あたりだと思われる。それまで『僕らの音楽』(フジテレビ系)で行っていたその日限りのコラボ企画のノウハウをうまく発展させて、J-POPを取り巻く「みんなが知っている歌がない」という状況を懐メロの活用やアーティストの組み合わせの妙で突破した(ちょうど「CDランキングじゃなくて握手券ランキング」というような話が出始めたタイミングである)。


 それ以降、様々な音楽番組が「コラボ」の手法を日常的に取り入れるようになった。今年の年末の音楽番組に関しても、『FNS歌謡際2016』が同様の企画を継続させているだけでなく、『ベストアーティスト2016』ではジャニーズのグループがドラマ主題歌というテーマのもとに立て続けに登場し、『日本有線大賞』(TBS系)では48各グループと乃木坂46による「恋するフォーチュンクッキー」が披露された。また、この手の企画とは比較的距離を置いていた感のある『ミュージックステーションスーパーライブ2016』でも、小室哲哉とHYDEによる「DEPARTURES」、スキマスイッチと奥田民生による「全力少年 produced by 奥田民生」というリリース済みのコラボ楽曲がパフォーマンスされた(2013年のスーパーライブでも、EXILE HIROのMステラストステージとしてGLAYとのコラボ曲「SCREAM」が披露されている)。


 音楽番組におけるコラボ企画は、インターネットに対するテレビの明確な優位性のひとつである。それぞれのメディアがフラット化し、インターネットで提供されるコンテンツの質が高まったとしても、名のあるアーティスト同士を一緒にパフォーマンスさせることができるのは現状ではおそらくテレビだけである。こういった企画は、音楽シーンに対して音源のリリースやライブ、フェスとは異なる角度から話題を提供してくれる。


 一点留意しておきたいのは、コラボというもの自体へのありがたみは徐々に薄れてきている可能性が高いことである。『FNS歌謡祭』の視聴率はコラボ路線に大きく舵を切った2010年以降右肩下がりになっており、必ずしも今の路線が100%受け入れられているとは言い難い。様々な番組で比較的似たようなコラボが乱発されている中で、意外性や必然性が見えてくるコラボ以外は「いつものやつ」という感じで流されていく。


・クリエイティブな瞬間を生み出す源泉としてのコラボレーション


 2016年においても年末に限らず様々な音楽番組においてたくさんのコラボが行われた。愚にもつかない企画も多い一方で、鮮烈な印象を残したものもたくさんある。そういったコラボを振り返ると、2016年の音楽シーンの動向がうっすらと見えてくる。


 前述の『クリスマスの約束』で宇多田ヒカルが小田和正とともに歌った「Automatic」は、日本のポップミュージックにおける異なる文脈が重なり合う貴重な瞬間だった。彼女は自身のアルバム『Fantôme』でKOHHなどの尖ったミュージシャンをフィーチャーしているが、ポップフィールドの最前線に戻ってくるうえでは小田のような大衆と向き合ってきた歌手との接触も必要なプロセスだったのではないかと思える。


 『Fantôme』にも参加していた椎名林檎は、『紅白歌合戦』での自身のステージにおいて東京事変を「復活」させるという想像の斜め上を行くコラボを見せた。ここでパフォーマンスされた「青春の瞬き」は『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)の通常放送のラスト(2016年12月19日)でも披露された楽曲で、SMAPの口から<時よ止まれ 何ひとつ変わってはならないのさ>と歌われるシチュエーションの重さは、一言では言い表せないものだった。また、その『SMAP×SMAP』ではSMAPがウルフルズやTHE YELLOW MONKEYといった一度は活動休止や解散を経験しているアーティストと共演するなど(特にTHE YELLOW MONKEYとの共演では再びバンドを始めることについての想いを歌った「ALRIGHT」が選曲された)、グループの解散に対する何かしらの意思表示と思わずにはいられないコラボが多数行われた。


 『SMAP×SMAP』に関する話題は年末が近づくにつれて解散絡み一辺倒となってしまったが、2016年3月にはSMAPとceroの共演という非常に興味深いコラボもあった。(参考:http://realsound.jp/2016/03/post-6875.html)国民的スターのフックアップによってceroのアルバム『Obscure Ride』はリリースから1年近く経ってiTunesのチャートで1位を獲得。地上波テレビの影響力の大きさを実感するとともに、今の日本で最もクールなバンドのひとつでもあるceroの音楽性ともナチュラルに共振するSMAPのセンスの良さ、懐の深さを再確認することができた。


 『FNS歌謡祭』関連では、夏に行われた『2016 FNSうたの夏まつり』における48・46それぞれのグループのメンバーによる「サイレントマジョリティー」が強烈だった。最も後輩格である欅坂46の楽曲がファン投票で選ばれ、センターを乃木坂46の生駒里奈が堂々と務め上げるとともに、その周囲ではそれぞれのメンバーが最大限のパフォーマンスで火花を散らす。各グループ、各個人の内包する物語が一気に交錯して爆発したかのようなこの日のステージは、2016年のアイドルシーンにおけるハイライトのひとつとなった。また、年末の『FNS歌謡祭』の第1夜では華原朋美とともに登場した西島隆弘(AAA)がその歌唱力で大きな話題を呼び、第2夜では歌いながら踊る三浦大知とギターを弾きまくるMIYAVIのステージ上での対峙がテレビ番組とは思えない迫力を放っていた。ジャニーズとLDH以外の場所で活動する男性パフォーマーが徐々に注目を集め始めている昨今、西島隆弘と三浦大知はそういった評判に恥じない実力をはっきりと証明した。


 こうして見ていくと、優れたコラボ企画というのは「そのコラボの意味が時代の大きな流れの中で見えてくるもの」と言い換えられるのかもしれない。単純に「うまかった」「かっこよかった」という以上の意味を持つコラボこそ、見ている人にとってその場限りではないインパクトを残す。


 こういった音楽番組でのコラボは滅多なことがない限りパッケージ化されることはないし、ネット上に動画がアップされたとしても削除されることも多く、結果としてなかなかシーンの「正史」には残りづらい。しかし、2010年代のテレビでのコラボ企画はクリエイティブな瞬間を生み出す源泉のひとつとなっており、そういった取り組みがシーンに奥行きを与えているのもまた事実である。2017年も、見るものをはっとさせ、かつそのアーティストの持っている文脈をくっきりと浮かび上がらせるような魅力的なコラボ企画を期待したい。(文=レジー)