朝日新聞に1月4日付けで掲載された編集委員・原真人氏の「経済成長は永遠なのか 『この200年、むしろ例外』」という記事が物議を醸している。経済成長を追い求める風潮を諫め、低成長を受け入れようと呼びかける内容だが、ネット上では反論が相次いでいる。
原氏は同記事で、金融政策で右肩上がりの経済を取り戻そうとする政府の方針を批判。「財政出動を繰り返してきた結果が世界一の借金大国である」と書く。
ミシュラン三ツ星店が増えたのは豊かになった証拠?
その上で、「ゼロ成長はそれほど『悪』なのか」と疑問を投げかける。この「失われた20年」の間にも生活は豊かになっているというのだ。
「(この20年で)日本のミシュラン三つ星店は世界最多になったし、宅配便のおかげで遠方の特産生鮮品が手軽に手に入るようになった。温水洗浄便座の急普及でトイレは格段に快適になった」
こうした日常生活の利便性の向上は国内総生産という指標では見えないとする。しかも経済成長には環境破壊などの弊害もある。また、安倍政権は経済成長からのトリクルダウンで、中間層や低所得層にも恩恵が行くとしていたが、原氏は「現実にはそうなっていない」と指摘する。
その上で、そもそも経済が成長を続けた産業革命以降のこの200年は長い目で見れば「むしろ例外」にすぎないとし、次のように結んでいる。
「成長の鈍化はむしろ経済成長の『正常化』を意味しているのかもしれない。少なくとも成長は『永遠』だと思わないほうがいい」
朝日新聞の使命は「賃金上げろ!労働環境改善しろ!」と訴えること
新年に出す記事としては若干憂鬱になる内容の記事だが、主張に対して、ジャーナリストや研究者から批判の声が上がった。
ジャーナリストの菅野完氏はツイッターで「『経済成長は、弱者救済の最低条件』と言い切れない連中は、目を噛んで死ねばいいと思う」と原氏を痛烈に批判。
「朝日の使命というか、社会的に求められる期待というか、役割は、『低成長をみんなで受け入れよう』と呼びかけることではなく、『賃金上げろ!労働環境改善しろ!』と訴えることだろう。そして、賃上げ、労働環境改善、財政出動こそが、成長に繋がるんだ。他の国にできて、日本にできんことないだろう」
そして、朝日新聞の社会的役割を踏まえ、「『朝日が経済成長に懐疑的になる』ことは、社会的な害悪なのよ」と訴えた。また、労働法政策に詳しい濱口桂一郎氏も、原氏の論説を「腹ふくれ満ち足りたブルジョワの息子の手すさびみたいな議論」だと酷評している。
仮に低成長を受け入れるとしたらどう貧困対策をしていくのか
ネット上でも、「ほんとうに次世代のことを考えたり、貧困対策をしたりしたいのなら、経済成長は必須でしょう」という意見が続出した。
「失われた20年と言われたその間も、私たちの豊かさへの歩みが止まっていたわけではない」という一節に対しては、「その間にどれくらい若者の雇用が失われましたかね」という声もある。
経済成長が必ずしも貧困を削減するわけではないが、貧困削減には経済成長が重要であると考えている人がやはり多いようだ。また、朝日新聞社の平均年収は1000万円オーバーと言われているが、こんな声も出ていた。
「結局ブルジョアの立ち位置にいる新聞やメディアがこういったこといくら言おうが、『いやお前ら経済成長の恩恵受けて高給取ってるくせに何言ってんの? 』って感じで一切説得力がないんだよなぁ……」
記事は「低成長を受け入れよう」と呼びかけることで、安倍政権の政策を批判したかったのかもしれないが、結果として貧困をどうするのかという問題を無視することになってしまったともいえる。
目の前の貧困にどう対応するのか、経済成長は貧困対策に必要ではないのか、もし低成長を免れないのならばそのなかで貧困削減を行うことはできないのか。これこそが改めて考えなければいけないことではないだろうか。