2017年01月03日 10:42 弁護士ドットコム
年末年始、配偶者の実家に子連れで帰省する人もいるだろう。そんな時に問題になるのが、義父母とのトラブル。インターネット上の掲示板「ガールズちゃんねる」には、幼い孫にアレルギー食品を食べさせる義父母に困っている人からの書き込みが多数寄せられている。
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Aさんの娘は卵と乳製品のアレルギーがあるという。ところが、アレルギーについて知っている義母が「乳酸菌飲料」を飲ませてしまい、蕁麻疹を発症。義母は苦しむ孫を見ても事の重大さが分からず「ちょっとだけだったの」 、義父は「アレルギーなんて気のせい」と言っているそうだ。
卵アレルギーの息子を持つBさん。しかし義父は、アレルギーの怖さを説明しても「ちょっとずつ食べさせればいずれ治るんだから食べさせろ、アレルギーで死ぬ奴なんかいない」と理解してくれないという。
食物アレルギーは、人によっては通院・入院が必要なほど重症化したり、ひどいときは死に至る場合も。アレルギー物質を無理に食べさせる行為は、何らかの犯罪にあたるのか。泉田健司弁護士に聞いた。
アレルギー物質を無理に食べさせる行為は、「傷害罪」にあたる可能性があります。傷害罪が成立するかどうかは、「アレルギーとは知っていたけど、(無知で)大丈夫だと思っていた」との言い分が通用するかどうか、つまり故意の有無が争点になると思います。
これは個別具体的な事情によるとしか答えようがありません。たとえば、祖母が孫にアレルギー物質を食べさせたというケースでは、孫に傷害を負わせようとまで思っていたとは考えにくく、故意が否定される方向に向くでしょう。
他方、以前から「孫が●●を食べてアレルギー症状が出た」という話を聞いていたのに、その食品を食べさせた場合は、故意が認められる可能性が高まります。
私見ですが、昨今、アレルギーの人が増えてきており、アレルギーによって重篤な症状を呈することがあることは社会常識といってもよいでしょう。したがって、基本的には故意が推認され、傷害罪になるのではないかと思います。また、重篤な事案では殺人罪や殺人未遂罪、逆に比較的軽微な事案では過失傷害罪や強要罪なども検討の余地があると考えられます。
ただし、あくまでこれは、犯罪になりうるというだけの話であり、実際には、親族を警察に訴えるということは考えにくいですし、結果が重篤で態様が悪質な事案でもない限り現実に事件とはならないでしょう。そのため、私の知る限り、現実に事件になったというケースはこれまでありませんでした。
ところが、最近になって、母親が牛乳アレルギーのある5歳の女の子に牛乳を飲ませアナフィラキシーショックを起こさせたとして、殺人未遂罪で逮捕されたというニュースが飛び込んできました。この事案には複雑な事情が絡んでいるようで設問のケースとは全然違いますが、アレルギーと知りながらアレルギー物質を与えるということは、十分、犯罪となりうるということです。
アレルギー物質によって何らかの症状が出た場合、食べさせた人に故意や過失が認められるならば、治療費などを請求できるでしょう。
例えば、「アレルギーとは知っていたが気付かずに食べさせてしまった」という事案では、気付かなかったことに過失があれば、食べさせた相手に損害賠償請求も可能でしょう。
具体的なケースとしては、レストランの予約の際にアレルギーがあることを伝えて、店側が予約を受け入れたにもかかわらず、店側が食材のチェックを怠り、気付かずにアレルギー物資の入った食事を客に提供したような場合には、治療費などの損害賠償の対象となりうると思います。
ただ、食べさせた人が、相手にアレルギーがあると知らなかった場合、基本的には、民事・刑事とも責任を問われることはないでしょう。しかし、知らなかったことに過失がある場合、刑事的には過失傷害罪、民事的には不法行為による損害賠償請求が成立する余地があると思います。
アレルギーの知識の深さも人それぞれです。卵を調理したフライパンを洗って、その後、同じフライパンで卵を使っていない料理を作って食べたとしても、重篤な症状の方は、アレルギーを引き起こすことがあります。
よく食品の表示に、原材料に卵が含まれていない場合でも、「製造工場では卵を含む製品を生産しています」という注意書きがされていることがありますが、それはこのためです。学校教育などでもっとアレルギーについて、学習する機会が増えるとよいと思います。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
泉田 健司(いずた・けんじ)弁護士
大阪弁護士会所属。大阪府堺市で事務所を構える。交通事故、離婚、相続、労働、企業法務等を中心に地域一番の正統派事務所を目指す。
ブログ:http://ameblo.jp/izuta-law/
事務所名:泉田法律事務所
事務所URL:http://izuta-law.com/