2017年01月02日 12:02 弁護士ドットコム
「これ、みんなにお土産だよ」「いただきま~す」。東京・新宿区内の居酒屋で、隣の席から聞こえてきた会話に、ゆう子さん(30代)は、のけぞった。「お隣は30代くらいの4人でした。大学のゼミの先輩・後輩関係だったようで、1人が出したのが、台湾土産の定番『パイナップルケーキ』。みんなで美味しい、美味しいと言いながら食べていました」。
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すると、グラスを持ってきた店員に見咎められ「持ち込みはお断りなんで」と注意を受けた。しかし、客側は、「なぜですか」などと、抵抗していたという。結局、メンバーの1人に促されるかたちで、片付けていたそうだ。
ゆう子さんは「マナー的には完全にアウトだと思います。でも、法的には問題ないのでしょうか?」と気になっている様子だった。高橋裕樹弁護士に聞くと「似たような質問を、何度かされたことがあります。意外と勘違いされている方が多いようですね」。どういうことなのだろうか。高橋弁護士に、詳しく聞いた。
「私たちは、飲食店で料理や飲み物を買っているわけではありませんし、店内の座席をお金で買っているわけでもありません。私たちが買っているのはそのお店の提供するサービスです。簡単にいうと『お店の提供する料理を、店内で食べるサービス』を買っているのです。
そして、店側にはこのサービスの内容や条件を自由に決める権利があります。客は、店側の設定したサービス内容や条件を了承した上で、お金を支払って『サービス』を受けているのです」
では、店側が「持ち込み禁止」と言えば、交渉の余地はないのか。
「店側が飲食物の持ち込み禁止を決め、そのサービスを受けることを了承した客は、持ち込み禁止に従わなければなりません。これに反すれば退店、すなわち店内でサービスの提供を受けられないことになります。ですので、交渉をして店側が特別に持ち込みを許可する場合以外は、やはり持ち込みできません。
同様の問題として、余った料理の持ち帰りがあります。これも店側が、提供する料理の持ち帰りを禁止していれば、客はこれに従わなければなりません」
ホテルなどでは、「保健所の指導により」などと理由をあげ、持ち込み禁止をしている施設もあるようだ。
「食品衛生法は、飲食物の持ち込みを禁止する根拠にはなりません。食品衛生法は、簡単にいえば『ホテルや飲食店のような食品等事業者は、自らが提供する食品の安全性を確保しなさい』という法律です。
持ち込まれた飲食物は、ホテルや飲食店が自ら提供する食品ではないので、その飲食物が原因となって客が体調を崩したとしても、食品衛生法を根拠とした責任は負いません。
ホテルなどが『保健所』『食品衛生法』などを根拠とする理由としては、以下のようなことが考えられます。
・もし持ち込まれた食品が原因となって客が食中毒になるなどした場合、原因となった食品の特定が困難な場合もあることから、ホテルの提供した食事によって食中毒が発生したかのような風評被害が出る可能性がある
・保健所に持ち込みの可否を確認したところ『持ち込みはあまり望ましくないのではないか』という意見を実際に言われたため、これを反映させた
・『持ち込みを許さないサービスの悪いホテル』というイメージを持たれないためのエクスキューズ
いずれにせよ、飲食物の持ち込みが禁止されているのに、あえて持ち込んでトラブルを起こしたりすると、ホテルや飲食店から賠償請求を受けることもあり得ます。
離乳食のようにやむを得ない事情があれば店側も黙認するかもしれませんが、海外の食べ物や生鮮食品などは食中毒や感染症のリスクもありますので、控えた方がよいと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
髙橋 裕樹(たかはし・ゆうき)弁護士
無罪判決多数獲得の戦う弁護士。依頼者の立場に立って、徹底的に親切に、誰よりも親切でスピーディな、最高品質の法的サービスの提供をお約束! でも休日は魚と戦う釣りバカ弁護士!
事務所名:市川船橋法律事務所
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