トップへ

AKB48グループと乃木坂46・欅坂46、“特性の違い”より明確に 2016年の活動から見えたこと

2017年01月01日 18:02  リアルサウンド

リアルサウンド

欅坂46『二人セゾン』(初回限定盤A)

 2016年を締めくくった『第67回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)では、AKB48グループが「紅白選抜」としてスペシャルメドレーを、また乃木坂46・欅坂46の“坂道シリーズ”はそれぞれ、2016年の代表的なシングル「サヨナラの意味」「サイレントマジョリティー」を披露した。AKB48グループが投票による選抜という、グループ内でおなじみのスタイルを「紅白」に溶け込ませ、一方で坂道シリーズは乃木坂46だけでなく、デビュー1年に満たない新興グループの欅坂46も「紅白」に選ばれて勢いを示した。


 かねてから「AKB48の公式ライバル」を謳ってきた乃木坂46に姉妹グループができ、それがシリーズ化して厚みを見せたことで、“AKB48グループに拮抗しようとする坂道シリーズ”という対比がかつてよりも自然なものになった。


 昨年11月27日の「チャート一刀両断!」で、柴那典氏はAKB48と乃木坂46の直近シングル『ハイテンション』『サヨナラの意味』の対比を行なった(参考:http://realsound.jp/2016/11/post-10316.html )。この記事で柴氏は、AKB48『ハイテンション』のキャッチコピー「ノレよ、日本。」なども参照し、「教室の真ん中で声を張り上げる“戦う女の子”」と「教室の隅でうつむいている“戦えない女の子”」のライバル関係という構図を用いながら、双方の特性を解いてみせている。


 この「ノレよ、日本。」というフレーズがさらに示唆的なのは、AKB48というグループの歩みが、本来仲間内でのみ展開していたイベントの渦の内側に、日本社会全体を強い力で巻き込みながら進化してきたという側面を持つためだ。グループ内で次作のフォーメーションを決めるためのトリッキーな企画だった「選抜総選挙」は、いつしか多くのマスメディアをたびたび賑わす、アイドルシーンを超えた一大イベントとなった。そして、その選抜総選挙の結果を反映したシングル表題曲で「恋するフォーチュンクッキー」や「心のプラカード」という、世間を「踊らせる」タイプの楽曲を生み出してきたことにもあらわれているように、AKB48はグループのダイナミズムを駆使した企画をアイドルファンの外側にまで浸透させながら勢力を保ち、女性アイドルグループというジャンルが社会に定着するための基盤を作り続けてきた。


 他方、2016年春にデビューした坂道シリーズの新鋭・欅坂46がまずインパクトを残したのは、デビュー曲「サイレントマジョリティー」のミュージックビデオだった。大規模なイベントの開催もまだなく、個々のメンバーが有名タレント化する前の段階で、既存の48・46ファンの外側にまでリーチできたのは、まずはこのMVの力によるところが大きい。楽曲や衣装、歌詞、振付にいたるまでのコンセプトの一貫性が、このMVの完成度の高さを支えている。それは、AKB48のように外側の社会を自らの構造に取り込んでいくベクトルではなく、プロダクト単位での物語性・世界観を純度高く完結させる方向が功を奏したといえよう。


 この欅坂46の成功は、坂道シリーズの先達・乃木坂46がデビュー以来、ドラマ性の高い映像作品の精度を上げ続けるなどの蓄積をしてきた、その先にあるものだ。乃木坂46もまた今年、「サヨナラの意味」MVでは柳沢翔、湯浅弘章、山岸聖太ら、これまでグループのMVのドラマ作りを支えてきたスタッフを集結させ、ここまでの蓄積の集大成的な映像を制作した。フロントメンバー橋本奈々未の卒業に際してのセンター起用というイベント化しやすい要素を持ちながらも、これまでグループの映像作品が基調にしてきた物語世界の作り込みによって完成度を上げる方向性は変わらず保っている。


 このようにして見るとき、ともに大きな支持を得て2016年の「紅白」に出演したAKB48グループと坂道シリーズという2つの組織は、相似形の二者が拮抗しているというよりは、社会に向けた機能や影響の持ち方において大きく性質の違う者同士が、それぞれの特性をもって巨大な存在になってきたというべきだろう。


 乃木坂46および欅坂46は、一つ一つのプロダクト内で完結する物語世界を丁寧に紡ぐことで、ブランディングを強めていった。欅坂46の誕生もあって、乃木坂46の結成以来、組織全体で過去最高にインパクトを残した2016年の勢いが、「紅白」までの道程につながったといえる。他方、AKB48グループは、これまでも「紅白」をメンバーの卒業発表やグループの歴史を振り返ってみせる場として用いるなど、自らの組織のダイナミズムを絡めながら、「紅白」という“世間”に接近してみせた。


 そして今回の紅白でAKB48グループは、自前の恒例企画である「投票」という一大イベントを、「紅白」という自らが主導できない場、さらにいえばファンの間で流通する文脈や論理が必ずしも通用しない場に持ち込んだことになる。これがAKB48グループと総選挙イベントになにがしか意味の変化をもたらしていくのかは、今年以降の展開を待つほかない。AKB48グループは今年、STU48の始動を控える。もともと、全国への姉妹グループ展開自体が、「自らのダイナミズムに世間を巻き込んでいく」スタイルの代表的な施策であった。さらにその手を広げる48グループの動きはどうなっていくのか。一方では欅坂46が2年目を迎え、乃木坂46のフロントメンバーにも変化が生じていく坂道シリーズが、これまで蓄積してきたプロダクトの強みをどう進化させていくのか。2017年の両者の動きを見るとき、それぞれが持つこれらの特性は、ひとつの指針となるはずだ。(香月孝史)