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“解散”を迎えられたことは幸せなことでもあるーー『バンド臨終図巻』著者座談会

2017年01月01日 15:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(文藝春秋)

 『人間臨終図巻』(山田風太郎著)に倣い、1960年代から現在に至るまでのバンドやグループの解散の経緯をまとめた『バンド臨終図巻』。2010年の初版から6年経った2016年12月1日、文庫版『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』が文藝春秋より刊行された。同書ではタイトル通りビートルズからSMAPまで、古今東西のバンド191組の解散エピソードを網羅。また、文庫化にあたり、時代の流れとともに変化した各バンド・グループの状況やエピソードが更新され、内容が一部再編纂されている。よって、新たに興味を持った読者はもちろん、単行本をすでに読んだ読者も改めて楽しむことができるだろう。


 今回当サイトでは、同書を執筆した速水健朗氏、円堂都司昭氏、栗原裕一郎氏、大山くまお氏、成松哲氏を迎えて座談会を行なった。現代における“解散”、バンドやグループの終わりとは何なのかを、著者5名が改めて語り合った。(編集部)


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<解散と再結成は「継承」を巡る問題>


円堂:僕の担当はプログレやハードロックなど、やたらメンバー交代したり分家ができたり、解散しているようでしていないような、ぐちゃぐちゃした感じが多かったです。まあ、完全な“臨終”だけでなく“臨死体験”や“仮死状態”も扱った本なので。今回、新規で担当した中で印象深いのは、FUNKY MONKEY BABYS。例のファンキー加藤さんの不倫騒動が入稿後に起きて、当初それ自体は解散と関係ないと思ってスルーしていましたが、ソロ活動を始めるにあたり、アンタッチャブルの柴田さん(後の不倫相手の夫)と飲んで「頑張れよ」と励まされていたというエピソードが出てきてしまったので加筆しました。


速水:最新情報が反映されて良かったということで。SMAPの情報もギリギリまで入りましたからね。企画の段階では1月の解散騒動の頃だったのかな。あれよあれよと状況は変わっていき……入稿が遅れたことで対応できたので、遅れた甲斐ありです(笑)。


円堂:とはいえ、ゲスの極み乙女。も不倫騒動は起きていましたけど、活動自粛という展開になるとは思ってませんでした。だから、本では触れていません。


栗原:自分の担当分で印象深かったのはZONE。2011年の東日本大震災復興支援ライブをきっかけに期間限定で再結成したんですけど、再結成後にドラマチックな展開があって、単行本のときはどうってことない話だったのが一気に面白くなりました。悲惨なので面白いと言っては語弊があるんだけど。


速水:単行本の刊行後は特に東日本大震災を機に復活や再結成したバンドが多く、書き換えないといけない状況にすぐになってしまったので、僕らのチームも震災後再結成のパターン。しかも、2016年は宮崎駿が引退すると思ったら続けるとか、天皇の生前退位をめぐる議論とか、「継承」が問われてもいる。解散と再結成はまさに「継承」を巡る問題。


成松:ロックは本来、若者の文化なんです。例えば、昨日今日『君の名は。』を観に行って、初めてロックというものを聴いて感動した若い子がRADWIMPSのCDを買うということは、ものすごい幸せな出会いだし、そういうふうにあって欲しい。しかし一方で、伝統芸能の域にある世界というか、なかなかバンドってなくならないものだったり、死を迎えて活動を終えるということもあって。


円堂:それこそ生前退位しないで頑張ってずっとキーボードを弾いてきたエマーソン、レイク&パーマー(ELP)のキース・エマーソンが、手が病気でよく動かなくなって、演奏への悪口をネットに書かれ自殺したということが今年はじめにありました。


栗原:でも、アイドルは器(グループ名)を残してよく中身(人)が変わるじゃないですか。バンドも中身が変わって器が残ってもいいっちゃいいんですよね。


円堂:その点、人名をバンド名にしちゃうとね……。今回の文庫版を出した後、ELPでは12月にグレッグ・レイクまでガンで死んでしまった。で、残ったカール・パーマーが最近、個人でやっているバンドの名前がCarl Palmer's ELP Legacy。この本が“臨終”ってだけあって遺産相続みたいな例もあるわけです。イエスでは名前の使用権を持っていたベーシスト、クリス・スクワイアが死んだ後も、過去にいたメンバーを入れて活動を続けている。クリスは白血病で闘病期間があったから、自分が死んだ後のことをきちんとした形で言い残していったはず。だから、問題なくイエスのツアーは続いたんだと思う。今年の日本公演では、黄金期からのドラマーであるアラン・ホワイトが来日前まで腰の手術で休んでいたから、大部分は代役が叩き、後半の2曲半だけアランが担当しました。このバンドは、代役を使うことになれてるから。


成松:今年の2月に下北沢GARDENでベイ・シティ・ローラーズのレスリー・マッコーエンが来日公演をやった時は、昼間から年齢層高めな方々がバッチリメイクでがっつり来てましたよ。伝統芸能になってはいるけど、お客は呼べている感じがしました。


速水:単行本の刊行以降、日本の一番ビックな再結成、もしくは解散ってなんでしょう。


栗原:解散はSMAPでしょう。


速水:SMAPは解散にかこつけたビジネスが一切行われていないので、ガチな解散ですよね。普通だったら解散ツアーなどのビジネスをやるところですけど、デビュー35周年記念公演もなかったので極めて珍しいかたちです。


大山:メンバー同士の関係が問題視されたじゃないですか。紅白に出ないのも不仲が原因だと言われていたりして。それが本当だとしたら、フリッパーズ・ギターとよく似ています。彼らも解散が決まってからツアーを取りやめて、ビジネスを一切やらなかったので。


速水:SMAPの場合は、解散原因として事務所の内紛だよね。“大人の都合系”での解散事例。ファンは本当に不憫。その逆は、THE BOOM。主には、体力的に続けることが無理というのが大きかったんですけど、SMAPとは反対に良いかたちで迎えられた解散でした。解散コンサートだけでなく、彼らのルーツであるホコ天に近い渋谷公会堂でファンイベントまでやって「僕たちは日本一幸せなロックバンドでした」って言って解散した。ファンも幸せだったと思います。


大山:ビジネスの状況が悪くなってとか、仲が悪くなってとか、切り捨てられて解散というのも多いのですけど、そうではないものもあります。僕が新規で担当したBerryz工房は惜しまれて解散しました。アイドルはだんだん高齢化していて、20代の女子がアイドルをやっているのも普通です。でも、Berryz工房は基本的に10代で終えるというのが暗黙の了解でした。彼女たちの解散には潔さのようなものを感じましたね。


円堂:高齢化というと僕が担当したバンドは高齢が多かったですね。60代半ばをすぎたら、本人たちだってどこまでやれるかわからない感じになると思うんです。スコーピオンズなんて解散ツアーと言ってライブをやったら、客の受けがいい、自分たちも意外にやれるなと気分が良くなって、2010年に解散を撤回しましたから。


成松:あれは幸せな解散しないパターンです。音楽活動は定年がない商売だから、楽しく演奏して喜んでくれる客がいれば、その関係を死ぬまで持ち越し続けるのも美しいかなと思います。


円堂:あと、病気持ちも高齢バンドには多いですね。イエスやブラック・サバスなどがそうだったし、エアロスミスもガンで手術したメンバーがいるほか、今年はジョー・ペリーが楽屋で一時心停止になった。エアロは次にやるツアーがファイナルだと言ってみたり、否定してみたり……本人たちも先のことをわかっているとは思えない。


速水:THE BOOMの健康解散じゃないですけど、なにか名前をつけたほうがいいかもしれませんよね。健康状態が不安定であるゆえに存続できなかった、“後期高齢解散”みたいな(笑)。


円堂:単行本から文庫本が出るまでの間に伝記を出したミュージシャンも多かったです。人生を振り返るモードになっちゃって。


成松:ロックミュージシャンはそういう年齢の人達になったんですね。


円堂:で、1つのバンドで複数のメンバーが書いていると、もちろん発言が食い違う。


大山:伝記書いたばっかりに喧嘩して解散とかありそうですね(笑)。


<日本と海外、アーティストと事務所の関係性の違い>


円堂:ソロに転身する際、恋人や妻が応援するというか煽るパターンもありました。そういえば、ハードロックから遠ざかって奥さん(キャンディス・ナイト)とブラックモアズ・ナイトをやっていたリッチー・ブラックモアが久しぶりにレインボーを再結成したと思ったら、バックコーラスにキャンディスがいたのには白けましたね。女房の監視付きかよって。


成松:ソロをやりたがる人は、バンドとの音楽性の違いがあるのかもしれない。バンドじゃないところで新しい表現をしたいんじゃないかな。


大山:僕が担当した安全地帯なんかは、玉置浩二の機嫌で活動が再開したり玉置のソロになったりの繰り返しですけど。


円堂:ボン・ジョヴィはバンド名の付け方として良かったですよね。ジョン・ボン・ジョヴィさえいればボン・ジョヴィだから。


成松:フロントマンや名ソングライターの発言力が大きくなって解散、というパターンもありますけど、エレファントカシマシや安全地帯のように、誰かを頂点に置いた君主制で文句を言わないのが国(バンド)を維持する方法かもしれませんね。


速水:ABBAも権力の差ができたケース。元々男女2組のカップルでできたグループだったんですけど、離婚して解散。その後、男2人が『マンマ・ミーア』のプロデュースで大成功して、ものすごいお金持ちになった。それで再結成はないといわれていたのが、去年急に再結成を言い出した。それは4人が揃うという意味ではなく、「最先端テクノロジー」を駆使したABBAの再生らしいんだけど、詳細は謎という。


大山:あと、結構強烈な仲違いで解散して再結成もしていないのは、僕が担当したオフコース。小田和正以外の4人は会っているし、小さなステージにも一緒に立っているんだけど小田和正だけは連絡が取れないそう。小田和正は鈴木康博といる時はビジネスを度外視して仲間として活動していたけど、鈴木康博が抜けてからはビジネスになってしまったようです。


成松:今回加筆したものでいうと、やはり再結成ものが多かったんですよね。


速水:再結成もので印象深いのはレベッカ。元々大して期待はしてなかったのね。ボーカルのNOKKOは、それ以前にテレビで歌ったりしても、声が出てなかったし。でも、再結成ライブは素晴らしかった。いきなり1曲目が「RASPBERRY DREAM」で、しかもNOKKOが全盛期のコンディションに戻っていて。あれはすごかった。


大山:レベッカは阪神大震災でも再結成してましたよね。解散していた時も別に仲違いしていた感じでもなかったし、世間的なニーズもあって、2015年には横浜アリーナでコンサートをやったり、紅白にも出ました。


速水:東日本震災後に再結成したビッグネームの中でも、もっとも話題を集めたのはプリンセス プリンセス。これはファンも驚いたと思う。かつて彼女たちは、再結成はしないって言っていたので、それが震災後のメンバーのやり取りの中で再結成が決まり、一瞬のお祭りではなく、夏フェスにも出て、ツアーもやってと、がっつり活動を再開した。


成松:あと、マネージャーが思いきり裏から糸を引いていたというバンドもいましたよね。SEX PISTOLSは、それで逆に解散できなかったという話でもありましたけど。


大山:事務所と揉めた解散で言うと、僕が担当したKARAですね。どんなに売れていてもメンバーは半年で10万円ぐらいしか貰っていなかった。「KARAは解散はしていない」とリーダーのギュリは言っているんですけど、活動は停止しています。デビューするまで事務所がほとんど親代わりでお金をかけて育てていたからそのぐらいは当たり前という考え方で、結局事務所と揉めて全員が段階的に契約を解除して、誰も事務所に残らなかったという状態でした。これは、グループの器を維持するかどうかの問題でもあるんですけど、例えば、単行本の時に書いたジャニーズの男闘呼組。事務所が付けた名前で事務所のものだから、本人たちがどうあろうが1人メンバーをクビにしてツアーも全部中止にしておしまいと決める。本人たちが主体ならば残せるんです。でも、SMAPも多分そうで、事務所がだめだって言ったらおしまいなんですよ。


速水:アイドルはそうなるね。ベイ・シティ・ローラーズなんかは、在籍したことがあるメンバーが、皆ベイ・シティ・ローラーズを名乗って活動を始めて大混乱した(笑)。


大山:でも、事務所が名前の権利を持っていて、本人達がいないところで勝手に辞めることを決めたり、存続したりするのは誰からも支持を得ない方法でしょう。


円堂:海外だと、例えばイエスを辞めたメンバーが『イエス・ミュージックの夜』とツアータイトルに付けて、自分のバンド名と同じくらい字を大きくして広告を出すことがあるじゃないですか。ホワイトスネイクがディープ・パープルのカバー中心の『パープルツアー』をやったり。日本ではそういうことがあまりできないということですよね。


成松:契約形態が海外のアーティストとは違いますから。あくまで日本は事務所所属が主流であり、エージェント契約ではない。海外だとマネージャーをクビにしたり、エージェントを解体してスタッフを新しくすることが可能ですもんね。


大山:僕がエピソードとして好きなのはHOUND DOG。大友康平がバンド名の商標登録を独占しようとして裁判所に棄却されるという。今ではメンバー全員をクビにしているのでHOUND DOGは大友1人しかいないですけど。


速水:人は金が絡むとめんどうなことになるっていう教訓の一例。


大山:バンドの私物化が上手くいっているのが、THE 虎舞竜の高橋ジョージ。まさにバンドを自分のものにして自由自在に使っています。


円堂:ビジネス的に面白みがあるのは、KISSですね。KISSはもはや企業ですから。


栗原:オリジナルメンバーで再結成したんだけど、エース・フレーリーとピーター・クリスは臨時雇用されたかたちで。期限付きで、本当に非正規雇用契約。


円堂:バンドのラインナップが複数あるという例では、エイジアが2つ存在していて、オリジナルメンバーが中心になっているエイジアと、不遇な時代を支えたジョン・ペインという人がやってるエイジア・フィーチャリング・ジョン・ペイン。彼はちゃんと公式に認められたかたちで活動をしています。家系ラーメン的な暖簾分けです。


大山:ネーミングライツをシェアしているんですね。


円堂:昔、ディープ・パープルを初期に脱退したメンバーが勝手にディープ・パープルを名乗ってツアーをやって法廷闘争になりましたけど、ジョン・ペインはそこらへんをクリアにしたかたちで活動しているんです。


速水:再結成にまつわるノウハウがしっかり刻まれている。


栗原:スティクスは、追放されたオリジナルメンバーが、自分がいないのにスティクスを名乗るのはまかりならん!と訴訟を起こした。ドアーズも名前については揉めてたよね。


<解散は“儀式”として大事なこと>


大山:この本を頭から読むと、GSが始まった、バンドブームが始まった、という音楽の変遷も遠くに見えますね。


成松:デビュー年でまとめているから、誰と誰が芸能界的に兄さん姉さんなのかもわかるというのは面白いですね。邦楽と洋楽が並列になっているのも面白いと思います。解散の経緯をまとめて改めて思っているだけのことかもしれないし、これを初めて手に取って頂く方的には解散の理由に興味があるかもしれないですけど、再結成は増えた感じがします。


大山:僕が個人的に好きだったのは、栗原さんが書いた甲斐バンド。何度も何度も再結成してその度に『NEVER END TOUR』をやるというのには笑ったんですけど、頻繁な再結成が特別じゃなくなっていますよね。


栗原:昔に比べると、解散自体が少ないのかもしれないです。


速水:やっていることはバンドのフロントマンの個人活動でも、グループを存続したほうが名の通りも良いとなったら、解散する理由がないですもん。


大山:本人たちとファンが良ければ、解散しようと活動休止だろうか再開しようが自由なんです。
速水:ファンが続いてほしいと思うのは常だけど、ほとんど何もしないままファンクラブの会報だけ届いたり、ファンクラブだけ解散を決めたりするのが、一番中途半端。SMAPファンが本当に不憫でならないのは、区切りの気持ちの持って行き場がないというところ。せめて直接声が聞こえる場で解散しますという言葉を生で聞かないと成仏できませんよ。


大山:だからCDを買ったり新聞に広告出したりするしかないんですね。


速水:SMAPのベスト盤はファン投票で曲が選ばれましたけど、1位が「STAY」。悲痛です。


円堂:最近の解散ですごいなと思ったのは、モトリー・クルー。モトリー・クルーはドラムソロの時に、ドラムセットが回転する有名な演出があるんですけど、ラストライブでは最後の大仕掛けで、ジェットコースターが客席の上に伸びていて、そこをドラムセットが移動して観客の頭上で回転してました。


成松:だから、そうあるべきなんですよ。それ見たらファンも納得しますもん。


速水:ライブというより儀式に近い(笑)。


大山:活動休止でも解散でもどっちでも良いといった時に、解散を選ぶのは一種の男気でもある。
栗原:甲斐バンドみたいに完全終結宣言しちゃうと再結成したときに具合悪いですしね。


速水:そういえば、元19の2人が最近ラジオに出ていて、何で俺たち辞めたんだっけみたいな感じになってました。


大山:高齢化とも関係あるけど、年を重ねるとみんな丸くなって、もう一回やっても良いかなと思う人も大勢いるんでしょうね。ないだろうと思ったザ・ルースターズも再結成していますし、THE YELLOW MONKEYも再集結しました。今、解散や活動休止みたいなことがあると、ちょっとがっかりするけど、ある程度の年齢になったバンドだったら、またいつかあるかなとファンの皆さんは思うかもしれないですね。実際、再結成して細々とやっているバンドも多いです。フェスに出て、500ぐらいの規模でライブをやって……JUN SKY WALKER(S)もそうなんじゃないですかね。


速水:そうであるなら、いつかは高杢とフミヤが仲直りしてチェッカーズも再結成して欲しい。いや、高杢抜きでもいいけど(笑)。


大山:柴 那典さんがTwitterで『ヒットの崩壊』と『バンド臨終図巻』は相補完していると言っていました。特に再結成のトピックに関してはそうです。別にヒットとか関係ないし、スタジアムでやるとか、活動的に上り詰めていく必要もない。社会と関係なく100人のファン、信者がいればいつでも復活できるんですよね。


成松:ヒット曲が数曲あればフェスに呼ばれて、そこで一見の客をわーっと盛り上げることができたら、そこでまとまったお金が入ります。あとは、自分のライブを小さい箱でやって、物販と入場料でやっていけるんだったら、幸せじゃないですか。


大山:もちろん高齢化してみんなが丸くなるということもあるけど、バンドが置かれている環境自体が変わっていることが再結成多発につながっているんじゃないですか。


速水:すごいお金が動くわけでもないけど、みんなそれで納得いける額があるならやろうか、という存続の仕方ですよね。


円堂:極端な例だとグレッグ・レイクの晩年のソロ活動は、カラオケ流してギター1本で歌うだけでしたからね。演歌の流しみたいな状態。プログレって本来は高度な演奏が売りものなのに、そういう商売もありますからね。


栗原:ファンの忠誠心ってすごいですよ。何十年経っても見守り続ける人が必ずいる。


大山:そうやってスモールビジネスでも良いから活動を続けていくのが、今の音楽活動のモデルなんでしょうか。ひょっとしたらインディーズの若い子でもそういう子達がいるのかも。


成松:華やかな感じで、ちゃんとメジャーで活動しますというTHE YELLOW MONKEYのようなタイプの再結成バンドも減っていくんでしょうね。BiS的な、話し合いしてもう一回やろうぜ、戻ってきちゃいました、というノリで、でもちゃんとビジネスは維持していくというのが多いかもしれません。


速水:こうして考えても、やっぱりバンドの寿命は伸びてますよね。


栗原:特にロックに関しては現状の布陣がずっと変わらない可能性があるよね。20年先も『ROCKIN’ON』の表紙がローリング・ストーンズとかありえる。


速水:ビートルズはメンバー全員死んだらどうなるんだろう、とは思いますよね。死んでもまだまだビートルズビジネスは続くでしょうけど。


円堂:ジョン・コルトレーンとかが表紙になっていた、一時期のジャズ雑誌みたいになるのかな。
速水:マイケル・ジャクソンが死んでも、プリンスが死んでも、ビジネスとしては終わらせてくれない。『サザエさん』とか『ドラえもん』に近い存在になっている。


大山:興味があるのは、ジーン・シモンズが死んだ時に、“株式会社KISS”は残るのかですね。


円堂:残ると思います、そこらへんの話題は単行本のほうのコラムにちょっと書きました(文庫版には未収録だがこちらで読める)。まぁ、彼らの場合はメイクさえしちゃえばね(笑)。


大山:ビジネス面でも誰かが継ぐんですね。パフォーマンスだけじゃなくて。


栗原:バンドの死=ビジネスが終わった時ということなのでしょうかね。スケールの大きいバンドは利権が残るから。


成松:そう考えないと見誤る感じはありますね。ビートルズやローリング・ストーンズはメンバーが亡くなっても、ビジネスは半永久的に続く気がするので。


大山:成松さんが、単行本が出てから公式サイトに解散声明を出しているバンドを調べていたら、アクセスできなくなっているサイトがだいぶあったと言ってましたよね。それもひとつの死になるんでしょうか。


速水:切ないですね。レンタルサーバー費の支払いが、バンドの存在のすべての意味って言う。


成松:この本を書いておいてですけど、バンドの死って何をもって言うんでしょうね。


栗原:ビジネス的に死んでる大半のバンドは、解散じゃあ死ねないという。


速水:解散はやっぱり儀式として大事。まだ惜しんでくれるファンがいて、グループの実体があるからできるんだよね。その意味では、この本で取り上げた臨終しているグループは幸せかもしれない。