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ピクサー日本人クリエイターが語る、『ファインディング・ドリー』制作の裏側と日米アニメの違い

2016年12月31日 12:51  リアルサウンド

リアルサウンド

(左から)原島朋幸氏、小西園子氏

 『ファインディング・ニモ』の続編『ファインディング・ドリー』のMovieNEXが11月22日に発売された。リアルサウンド映画部では、米カリフォルニア州エメリービルに位置するピクサー・アニメーション・スタジオを訪問。複数回にわたって、『ファインディング・ドリー』を中心とした取材記事をお届けする。


参考:『ファインディング・ドリー』監督&プロデューサーが語る、ピクサー作品成功の秘訣


 第2回は、ピクサー・アニメーション・スタジオに務める2人の日本人クリエイター、テクニカル・ディレクターの小西園子氏とキャラクター・アニメーターの原島朋幸氏にインタビューを行い、ピクサーでの仕事や日米アニメの違いについて語ってもらった。


■原島「ピクサー作品の魅力はキャラクターにある」


ーーまず、ピクサー・アニメーション・スタジオでのそれぞれの役職について、具体的な仕事内容を教えてください。


原島朋幸(以下、原島):キャラクター・アニメーターというのは、一言で言えばキャラクターに命を吹き込む仕事です。大きなスクリーンの中でキャラクターがどう動くかを考えながら、その動きを作っていく。キャラクターが自ら意思を持って動いているように見せることを心がけています。


小西園子氏(以下、小西):私は、原島さんをはじめとするアニメーターの方々がつけたアニメーションに、さらに動きをつけるシミュレーション作業を行っています。例えば、人間の髪の毛や服、水のエフェクトなどのような細かい部分ですね。アニメーターの方々が作ったアニメーションに動きを付け加える作業になるので、アニメーションそのものの素材を壊さないように、かつ本物に見えるようことを意識しています。


ーーそれぞれのセクションにはどれぐらいの人が関わっているのでしょうか?


原島:作品によって異なりますが、『ファインディング・ドリー』の場合は、ピーク時で70~80人が関わっていました。少ない人数でスタートして、どんどん人数が増えていって、作業の終盤でまた人が少なくなっていってという感じです。


小西:シミュレーションに関しては、今回は結構少なかったですね。ピーク時で13人ぐらいでした。


原島:そんなに少なかったんですね(笑)。実は、アニメーションとシミュレーションは密にやり取りをすることも多いんです。例えば、タコのハンクの吸盤の動きなどはアニメーションでも多少はできるんですけど、最終的にはシミュレーションじゃないとできない部分でもあるので、アニメーションのほうから「実際とは異なるけどもう少しこういうシェイプにしてほしい」とシミュレーションに伝えたり、逆にシミュレーションのほうからは「ここまでいってしまうとシミュレーションがうまくいかなくなるから直してほしい」というやり取りが発生することがありますよね。


小西:ご要望はよく聞いています(笑)。でも、これは同じ部内でもよくあることなのですが、完成した作品を観て、「これはどうやったんだろう?」と関心することがよくあるんです。ピクサーは社員の関係性がすごく透明で、その間に壁がないので、情報や技術をお互いにシェアできるんです。


ーー『ファインディング・ドリー』の制作で特に苦労した部分は?


小西:今回は海の塵やプランクトンなどの細部にわたるまで、千何百ショットもシミュレーションで動きをつけたんです。その作業が技術的に大変で、開発段階ではすごく時間がかかりましたね。特にハンクは吸盤があって独特の動きをする上に、足が7本もあるので、チェックも含めてとても大変でした。


原島:アンドリュー(・スタントン監督)によく言われたのが、「キャラクターなんだけど、魚であってほしい」ということでした。もちろんアニメーションなのでキャラクターではあるのですが、きちんと水の中で泳いでいる魚であることが前提なんです。なので、よく「『ナショナルジオグラフィック』っぽく」と言われましたね。リアルな世界を描いているので、魚もきちんとした動きをしていないと、それだけでストーリーから引き離されてしまうということなんです。それと、ピクサーの作品って、やっぱりキャラクターがすごく魅力的なんです。それは見た目だけではなくて内面も。それぞれのキャラクターが何を考えているのかを、監督やスーパーバイザーたちがすごく掘り下げている。その掘り下げ方は、ほかのスタジオと比べてもレベルが違うなと感じます。もちろん、ジョン・ラセターが“Story is King”と提唱するように、ストーリーが大事ではあるのですが、そのストーリーをサポートするキャラクターがいないとダメで。キャラクターの考えていることがストーリーにも繋がっていくので、そのキャラクターが何を考えているのかを常に考えていなければいけない。それはすごく楽しい作業ではありますが、同時に大変でもあるんです。


小西:あとは前作の『ファインディング・ニモ』があったから、その世界観を崩してはいけないというのは初めからすごい言われました。前作から13年も間が空いているので、全員が『ファインディング・ニモ』に関わったというわけではなくて、その後に入った新しい人もいるので、その辺りはすごく教育されていましたね。


■小西「日本のアニメーションの弱い部分は“シナリオ”」


ーー日本とアメリカのアニメーションについて、違いを感じることはありますか?


原島:アニメーションという同じカテゴリではありますけど、別物だと思うんです。アメリカではきちんとストーリーを伝えることが重視される一方、日本のアニメーションは受け手に委ねる部分がある。『エヴァンゲリオン』なんかもそうですが、「あれはどういうことだろう」と議論が生まれるものが好まれる。アメリカ人は、善悪がはっきりしているものやハッピーエンドなストーリーを好むので、逆にそういうものは受け入れられにくいんですよね。あと、日本のアニメは、画は止まっているんだけどセリフとナレーションで話が進んでいくものや、動きはすごいんだけど、何が起こっているのかがわからないようなものが多い気がします。それはそれでまた違う分野だとは思うんですけど、アメリカではそれがNGだったりする。監督が観客に観てほしい部分が必ずあるので、それ以外のところが動いていて、そこに目がいってしまうようではダメだと言われてしまう。観てほしい部分に視点がいくように、カメラワークなども全て計算して作るのがアメリカ式なんです。その辺りのギャップを感じることはありますね。


小西:日本の技術はすごく高いと思います。ただ、これは最近気づいたことなんですが、ピクサー作品が幅広い世代に愛されている理由は、絶対にシナリオにあると思うんです。そこが日本の弱い部分じゃないかなと。言ってしまえば、考え方としては実写の映画と同じなんですよね。ピクサーでアニメーション映画を作っていると言っても、もともとは実写映画の脚本を書いていた人やライブアクションのエデイターをしていたような人がほとんどですから。ピクサーは何もないところから作品を立ち上げるので、まさに劇を作るような感じ。アクターがたまたまCGのキャラクターで、そのキャラクターを演出したりCGのセットを動かしたりしているということなんです。なので、日本でアニメーションを作っている人も、常にシナリオを念頭に置いて作業をするとより良いものになると思います。(宮川翔)