2016年12月31日 10:32 弁護士ドットコム
勤務先の不正について通報した人を不利益に扱うことを禁止した「公益通報者保護法」の見直しの議論が続く中、消費者庁の検討会が12月上旬、最終の報告書を取りまとめた。
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報道によると、従業員からの通報などを受け付ける窓口を消費者庁に設けることなどが盛り込まれた。通報した従業員を解雇するなどの不当な処分をした企業に対する罰則については、具体的な提言は見送られたという。
これまでの法律については、通報した経験がある人や有識者から、実効性を疑問視する声もあがっていたという。これまでの公益通報者保護法にはどんな問題があるのか。今回の報告書に提言されたことが実現すれば解消されるのか。消費者庁での制度検討に携わり、公益通報者保護法や内部通報制度に詳しい大森景一弁護士に聞いた。
公益通報者保護法は、公益性のある通報をした者を保護することなどを目的に2004年に制定された法律ですが、制定当時から、「保護されるかどうかがわかりにくい」「保護される範囲が狭い」「結局は裁判をしなければ保護されない」など、その実効性については疑問が呈されていました。
そして、立法当初から、法律の施行後5年を目途として、施行の状況について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものと附則に明記されていました。
その後の検討はなかなか進んでいませんでしたが、法律の施行から10年経った今、消費者庁の検討会が法改正を提言する報告書をまとめたことには大きな意義があります。
しかし、この報告書は、法改正に向けた議論を喚起して、法改正の内容を具体化すべきとしているにすぎません。
多くの事業者・事業者団体は、通報者の保護、特に事業者外部への通報を保護することについては消極的であることを考えると、どの程度の改正が実際になされるのか、これからも注視していく必要があるといえます。
今回の報告書では、退職者や役員にも保護の範囲を拡大することなど、これまで不十分だった点のいくつかを是正することを提言しています。
しかし、違反した企業に対する行政的制裁は盛り込まれたものの、通報者の権利回復・保護という点での抜本的な改正の提言がなされたわけではありません。
結局、通報者が不利益を被った場合には、通報者が訴訟を提起して裁判をしなければならず、しかも、その訴訟で勝訴することには困難が伴うこと、そのようなリスクをおそれて実際には多くの者が通報に至らないことなどは変わらない可能性があります。
この報告書の提言に基づく改正がなされれば公益通報者の保護は一歩前進することになりますが、それで全ての問題が解決するわけではなく、公益通報が大幅に活性化するとも考えにくいかもしれません。
公益通報は違法行為を内容とするものであることが要求されていますので、正当な秘密を漏洩することとは異なります。公益通報は、通常の方法では発覚しにくい組織内部の違法行為の是正のために大きな意義があるものです。公益通報により、違法行為による被害の発生・拡大を防止することができれば、社会全体にとって大変有益であることはいうまでもありません。
それだけではありません。公益通報とは、事業者内部への通報(内部通報)も含む概念です。それを保護することは、事業者にとっても、内部通報制度を実効性あるものにして、ひいては不祥事を未然に防止するために不可欠なのです。そして保護を保障するためには、法律で規定しておかなければならない場合もあるのです。
このような公益通報者の保護の重要性については、さらに理解を広げていく必要があると思います。
なお、最近、消費者庁の公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドラインも改正されていますので、事業者は、法改正の動きだけでなく、このガイドラインを押さえておくことも必要です。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大森 景一(おおもり・けいいち)弁護士
平成17年弁護士登録。大阪弁護士会所属。同会公益通報者支援委員会委員など。
一般民事事件・刑事事件を広く取り扱うほか、内部通報制度の構築・運用などのコンプライアンス分野に力を入れ、内部通報の外部窓口なども担当している。著書に『逐条解説公益通報者保護法』(共著)など。
事務所名:安永一郎法律事務所
事務所URL:https://omori-law.com/