英AUTOSPORTが「2016年トップ50ドライバー」を発表した。これは毎年恒例の企画で、さまざまなカテゴリーから、その年に優れたパフォーマンスを発揮したドライバーを50人選び、順位をつけるというもの。
2002年から行っているこの年末企画のランキングは、リザルトのみを考慮して決められるわけではなく、各カテゴリー担当記者が結果には表れない部分を含むさまざまな要素を考えあわせて評価、議論を戦わせて順位を決めていくと、英AUTOSPORTは説明している。
2016年のトップ50はどういうメンバーで、誰がベストドライバーとしての評価を受けたのか。今回は第2弾としてトップ10を紹介する。
ドライバー名に付記されたのは、選出において主に考慮されたカテゴリー。また、2015年の順位との比較も添えた。それでは10位からカウントダウンしていこう。
10.カルロス・サインツJr.
(29位アップ)
F1 ランキング12位
マックス・フェルスタッペンの陰から抜け出したサインツは、F1参戦わずか2年で、しっかり結果を出す能力を持ったグランプリドライバーに成長したと評価された。サインツは、「フェルスタッペンがチームから去ったことで集中し直すことができた」と言われることを嫌い、自分のアプローチには何の変化もなく、経験を重ねながら、真価を証明しようと心がけただけだと述べている。
9.サイモン・ペジナウ(再エントリー)
インディカー・シリーズ チャンピオン
ペンスキー・レーシングへ移籍して2年目の2016年、インディカー・シリーズで自身初のタイトルを獲得した。2015年は1勝もできなかったにもかかわらず、翌年に状況を好転させて王座に就くことができたのは、彼を長年支え続けているエンジニア、ベン・ブレッツマンの存在が大きいと英AUTOSPORTは考える。
単に仕事上の関係だけでなく親友でもあるというブレッツマンは、ペジナウのすべてを知り尽くしており、新加入したチームでドライバーに自信をつけさせ、チーム内の立場を確立することに力を尽くし、それが2年目に大きな結果をもたらしたと述べている。
8.ルーカス・ディ・グラッシ(13位アップ)
フォーミュラE ランキング2位/WEC LMP1 ランキング2位
参戦したどちらのシリーズでより優れた走りをしたと思うかと聞かれたディ・グラッシは、WECを選んだ。アウディとの3シーズンを経て、ドライビングスタイルを確立し、トラフィックでのテクニックも向上、ミスをほとんどせず、パフォーマンスレベルを常に向上させていくことができたのだという。「いつかまたル・マンに戻ってきて優勝したい。それが僕にとっての大きな目標のひとつだ」とディ・グラッシは述べている。
7.セバスチャン・ブエミ(9位アップ)
フォーミュラE チャンピオン/WEC LMP1 ランキング8位
ル・マン24時間レースでつかみかけていた勝利を失った時のことについて、ブエミは次のように語った。
「ものすごく腹が立って、2日間は受け入れられなかった。あれを運命と言えばいいのかどうかもよく分からない。なぜ24時間後ではなく、23時間55分の時点で起きたのか……。来年同じ状況になったら、最後のラップをどう走りきればいいのか、分からない」
タイトルを獲得したフォーミュラEについては、最終戦でタイトルを争うディ・グラッシに追突されたことに「あれほど素晴らしいドライバーがあんなことをするなんて悲しい」と嘆く。しかし、自分の貢献もあってマシンをライバルより良くすることに成功したのはうれしいと述べている。
6.フェルナンド・アロンソ(7位アップ)
F1 ランキング10位
「マクラーレン・ホンダが総力をあげて戦ってはいるものの、フェルナンド・アロンソは中位グループに埋もれている。残酷なほどの才能の無駄遣いだ」と英AUTOSPORTの寸評には記されている。
「彼は10年もタイトルを獲得しておらず、3年もレースで勝っていない。表彰台にもこの2シーズン、上がれずにいるのだ(ジェンソン・バトンとともに記念撮影をした時のことは除く)。それにもかかわらず、アロンソは今も強い決意を抱き、高い士気を維持して戦っている。現在の成績にもかかわらず、F1のなかで真の精鋭のひとりと考えられており、それは正当な評価といえる」
5.ニコ・ロズベルグ(1位ダウン)
F1チャンピオン
「子供のことからの夢をかなえ、ルイス・ハミルトンを破ってタイトルを獲得することができたのは、彼自身の功績だ」と寸評には記されている。
「彼は常にファイターだった。自分の弱点を認める強さを持ち、それでいてその弱点や、ハミルトンという突出したドライバーと同じマシンで戦うことで心に生じるであろう劣等感に屈することを拒み、戦い続けた」
「ハミルトンと競うなかで、今年のロズベルグはより一層努力を積み重ねていった。しかしハミルトンに勝つにはさらに自分のレベルを上げる努力が必要であり、それがロズベルグのエネルギーを奪い、プレッシャーを高めていった」
「ロズベルグは将来の復帰の可能性を完全に否定している。自分を犠牲にし、大きな苦痛に耐える……世界一の仕事で成功を収めるためには、それほどのことが必要なのだ」
4.セバスチャン・オジエ(1位ダウン)
WRCチャンピオン
「4年連続WRCチャンピオンの座に就いたオジエ。2016年は勝利数だけを見れば、6勝“のみ”で、WRCキャリアのなかで2番目に悪いシーズンとなった。イベント最初の2日間はチャンピオンシップリーダーが1番手でステージを走行しなければならないという規則により、オジエはグラベルイベントで特に苦しむことになった。それでもメキシコ、アルゼンチン、ポルトガル、サルディニアで表彰台を獲得、それがタイトル獲得につながった」
「オジエには、理論上タイムを見つけられるはずのないところからタイムを見つけ出す能力がある。現在の現役ドライバーのなかでそれに匹敵する力を持つ者は誰もいない。今年、彼は愛してやまないスポーツに一時は絶望しかけていた。しかしあらゆる面で自らを律して戦った2016年は、オジエにとっておそらく最高のシーズンになったと言えるのではないだろうか」
3.マックス・フェルスタッペン(7位アップ)
F1 ランキング5位
「2016年シーズン途中にトロロッソからレッドブル・レーシングに移籍すると、フェルスタッペンは、先輩ドライバーたちに衝撃を与えた」
「人にインスピレーションを与える走りをするか、悲惨な状況に陥るかの境目を見極めるのは非常に難しい。フェルスタッペンほど、その点においてうまくバランスを取れるドライバーはめったにいないだろう。その最もいい例は、雨のブラジルGP最後の16周で、14位から3位に浮上した時の走りだ」
「防御のやり方がライバルたちから非難され、レギュレーションの明確化がなされた。レーシングカーに乗り始めてからまだ3年しかたっていない彼は、時に衝動的になり、特にミスをしたり不利な状況に陥った直後には、冷静でいられない」
「フェルスタッペンのギャンブルを主導するのは本能であり、かつてのアイルトン・セナやミハエル・シューマッハーのように、規則を限界ぎりぎりまで押し広げ、それに対する批判を恐れない」
「彼を『マッド・マックス』と呼ぶ者もいる。しかし、彼は自分がしていることを理解している。そして2016年、彼はその走りで、何度となくビッグネームたちのプライドを傷つけた」
2.ルイス・ハミルトン(1位ダウン)
F1 ランキング2位
「最終的に4度目のタイトルを5点差で逃がしてしまったが、ハミルトンは見事な走りをした。ポールポジションを12回、優勝10回というのは、チャンピオンの座にふさわしいパフォーマンスだ」
「不運なメカニカルトラブルに見舞われることなく、何度かスタートをしくじってもいなければ、メルセデスでの3連覇を成し遂げていたことだろう」
ハミルトン自身は、2016年を振り返り、「ロズベルグよりも優勝回数もポールポジション回数も多かった。それはすごいことだ。僕はドライバーとして成長した。担当メカニックたちとの絆を深めたから、それが来年、僕をもっと強くしてくれるだろう」と語っている。
1.ダニエル・リカルド(5位アップ)
F1 ランキング3位
2014年に続く2度目のベストドライバー賞受賞となったリカルド。2015年はレッドブルの不振により不本意なシーズンを送ったが、2016年はフェラーリを退けて、王者メルセデスに最も近い存在になった。
2016年に勝ったのはマレーシア1度だけ、それもハミルトンがエンジントラブルでリタイアしたことで得た勝利だったが、レッドブルの戦略とピット作業がよければ、スペインとモナコでも勝っていたはずで、そうであれば2014年に並ぶ優勝回数だった。
しかもリカルドは2014年よりも多くのポイントを稼いでおり、2016年にメルセデスドライバー以外でポールポジションを獲得したのは彼だけだ。
「いつも笑顔のリカルドだが、その裏には強い決意と、鋼のような闘志が隠れている」と英AUTOSPORTは記している。
「彼は、自分が好きなミツアナグマに似ている。パッと見はおとなしそうなのに、追い詰められると自分よりもずっと大きな相手に向かっていく、世界一怖いもの知らずの動物だ」
「今年の彼は、マシンの力に限界があるなかで素晴らしい仕事をし、2015年と異なり、フラストレーションにとらわれることがなかった。ドライバーのパフォーマンスにおいて、精神状態は非常に重要だ。リカルドは精神面でいい状態を作り上げるための方法を見つけ出し、それによって、確実に結果を出す能力と安定感という面で最も優れたF1ドライバーといえるレベルに到達した」
リカルド自身、2016年は自分にとってキャリアベストのシーズンだったと認めている。受賞を受けてリカルドは「タイトルを取らなくても、パフォーマンスが優れていたと認めてもらえるなんて、すごいことだ。ものすごくうれしい」と語った。英AUTOSPORT誌の特集号の「表紙に僕のヌードを載せる?」と言い出したが、編集部は丁重に断り、2016年話題になった“シューイ”のポーズを特別に取ってもらった。