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2016年は“誰も予想していなかった”ヒット曲が生まれた? 「前前前世」「恋」「PPAP」から考察

2016年12月30日 19:01  リアルサウンド

リアルサウンド

RADWIMPS『君の名は。』(通常盤)

 2016年、音楽がカルチャーの話題の中心になることが多かった。その中でも特に注目したいのが、映画『君の名は。』の大ヒット、ジャスティン・ビーバーがTwitterで取り上げたピコ太郎、そして『逃げ恥』ことドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)と「恋ダンス」ブームだ。それぞれの現象の真ん中には、RADWIMPS「前前前世」、ピコ太郎「PPAP」、星野源「恋」があった。


(関連:RADWIMPSが『君の名は。』で発揮した、映画と音楽の領域を越えた作家性


 この3曲は今年のヒット曲と呼んで間違いないだろう。多くの人々が、これらの楽曲を耳にし、話題に出し、一緒に楽しんだ。では、これらの楽曲はどう画期的であり、世間に広く浸透することになったのだろうか。今年11月に『ヒットの崩壊』(講談社現代新書)を上梓した音楽ジャーナリストの柴那典氏に話を訊いた。


「まず、『前前前世』は『君の名は。』の主題歌なのですが、多くの人が見過ごしていると思うのは、この曲がちゃんと映画の“主題”を表現している曲だということです。『君の名は。』のストーリーにおいては「過去の書き換え」と「縁を結ぶ」というモチーフが重要な鍵をもっています。そしてこの曲の<君の前前前世から僕は 君を探しはじめたよ>というサビは、そういう映画の主題と深いところでしっかりと結びついている。主題歌が文字通り物語の“主題”を表現しているというのは、星野源の『恋』に関してもまったく同じことが言えます(参考:http://realsound.jp/2016/12/post-10717.html)。その上で、『前前前世』も『恋』も、曲自体のキャッチーさと魅力がとても大きい。さらに言えば、これまでの映画やドラマのタイアップの一般的なあり方では、主題歌は映像制作とは別の工程で作られ、あとから付け加えられるものでした。そのため、作品自体に影響を与えることは少なかったわけです。しかし、『前前前世』は新海誠監督の作風にも影響を与えたし、『恋ダンス』はドラマの演出とブームの拡大に大きく寄与した。楽曲が映画やドラマの作品性を左右するということが起こりました」


「『PPAP』のブームはある種偶発的なものでした。ただ、この成功は、2017年以降への種まきに繋げられる可能性もあります。というのも、『PPAP』は“お笑い”という枠組みの中で消費されるのではなく、SpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービス、つまり“音楽”の枠の中で流通している。しかも、これらのサービスは再生数が多いほど収益があがる仕組みなので、こういった曲と相性がいい。プロデューサーである古坂大魔王はもともと“音楽×お笑い”という分野でいろいろなことをやってきた人なので、次に向けて考えていることも沢山あると思います。次なるピコ太郎を生み出すこともできるし、今後、お笑いレーベル的なものを作ることもできる。そういった新たな可能性を持ったプラットフォームが生まれるきっかけを作ったのではないでしょうか」


 また、「恋」は、テレビを出発点としてブームになった曲だ。その理由は、テレビとネットの共存にあるという。


「人々の趣味嗜好がバラバラになったことで、話題を共有するためのアーキテクチャとしてのテレビの強さが改めて示された一年でした。特にTwitterを始めとしたリアルタイムで話題を共有するサービスと、テレビの相性はとてもいい。Twitterのトレンドにも、テレビ番組関連のハッシュタグがたびたび登場します。10年前は『ネットがテレビを駆逐する』と言われていましたが、今はテレビとスマートフォンが共存する視聴環境となり、ウェブメディアもテレビの話題を追いかけるようなニュースを多く配信するようになってきた。テレビを出発点としたヒット曲が多いのも、テレビとネットの関係性が変化したことの一つの表れかもしれません」


 スマートフォンの普及率の上昇が、テレビの見方、そしてヒット曲のあり方にも変化を及ぼしているようだ。最後に、同氏は2016年のJ-POPシーンを振り返ってこう総括した。


「今年のJ-POPシーンはとても面白かったと思います。5年前は『音楽が売れない』『アーティストはどうやって生き残るか』などのようなネガティブなことばかりが言われ、シーンに閉塞感があった。しかし、今年のムードはそうではなかったと思います。一年を通して、何が起こるか予測のつかないワクワク感があった。『ヒットの方程式』みたいな言葉もありますが、そもそも何が“当たる”のかが方程式のように事前にわかったら面白くない。今はヒットが“当たるも八卦、当たらぬも八卦”の世界に戻ってきたような気がしています。『PPAP』はその象徴ですし、『前前前世』と『恋』も、これほどの社会現象になるとは予想していなかった。つまり、“誰も思っていなかった”ことが起きたことが、今年のヒット曲のキーワードだったと思います」


 音楽、映画、ドラマ、お笑い、テレビ、ネット。それぞれが垣根を超え、クロスオーバーすることでヒット曲が生まれた2016年。さて、来る2017年はどうだろうか。予想できるものでは決してないが、今年を上回る勢いで様々なところで音楽が話題にのぼり、音楽やそれを取り囲むカルチャーが多くの人々をエンターテインさせてくれる、そんな一年であってほしいと思う。(取材・文=若田悠希)