2016年12月30日 11:22 弁護士ドットコム
忘年会や新年会など、酒を飲む機会が多い年末年始。調子に乗って飲みすぎて気分が悪くなり、電車の中や駅のホームで嘔吐している人を見かけることもある。
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ネット上の掲示板では、酔っ払った男性が電車の中で「マーライオンのように」豪快に吐いたという目撃談や、「終電帰りで満員電車の中で後ろにいた女性に吐かれてしまいました」という被害体験が見られた。
駅のホームや電車内で嘔吐した場合、何かしらの法的問題が発生するのだろうか。他人の吐いたものが洋服などにかかった場合、弁償を要求できるのだろうか。大久保誠弁護士に聞いた。
「まず、法的責任以前に、自分で後片付けをしなければなりませんね。それをしないで鉄道会社が後片付けをした場合、特にそのための清掃費用が生じたのであれば、その賠償義務があります」
大久保弁護士はこのように述べる。
「さらに、人の衣服に嘔吐物がかかった場合は、少なくともクリーニング代の支払をしなければならないでしょう。汚れの程度が酷くてクリーニングもできないようであれば、衣服の時価額の賠償をしなければなりません」
駅のホームや電車内で嘔吐することが、犯罪になる可能性はあるのか。
「『酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律』というものがあります。この第4条1項は、『酩酊者が、公共の場所又は乗物において、公衆に迷惑をかけるような著しく粗野又は乱暴な言動をしたときは、拘留又は過料に処する』とあります」
酔っ払いが嘔吐することは、この条文に抵触するのだろうか。
「いいえ。嘔吐は確かに公衆に迷惑をかける行為ではあります。しかし、『著しく粗野又は乱暴な言動』とまではいえません。
また、軽犯罪法の第1条5号には『汽車、電車・・・その他公共の乗物の中で乗客に対して著しく粗野又は乱暴な言動で迷惑をかけた者』は、拘留又は過料に処するとあります。こちらも同様です。ですから、電車ホームなどで吐いたとしても、犯罪が成立することはないでしょう」
嘔吐によって、電車の座席や他人の洋服を汚すことが、器物損壊罪にあたる可能性はあるのだろうか。
「損壊とは、物理的に破壊することに加えて、広くその物の効用を失わせる行為も含まれます。したがって、クリーニングもできないような状況であれば『損壊』にあたりうるでしょう。
しかし、器物損壊罪は故意犯です。酩酊をしている人には、果たして他人の洋服や電車の座席だということを認識して損壊するという故意があるのかは微妙ですね。その意味で器物損壊罪が必ず成立するとも言い難いところです」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大久保 誠(おおくぼ・まこと)弁護士
ホームページのトップページに写真を掲載しているように、野球が趣味です。
事務所名:大久保法律事務所
事務所URL:http://www.ookubolaw.com/