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【2016年F1分析】ロズベルグの“早すぎる”引退の功罪(2)その潔さで守った、大きなもの

2016年12月30日 08:41  AUTOSPORT web

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2016年F1第21戦アブダビGP ニコ・ロズベルグ(メルセデス)、妻ビビアンさんと初タイトルを祝う
ニコ・ロズベルグは、F1タイトルを手にしてチャンピオンとなった日からわずか5日後に、「マシンを降りる」ことを発表した。状況はだいぶ落ち着きを取り戻したが、果たしてこれは正しいタイミングでの決断だったのだろうか? 英AUTOSPORTの編集者スコット・ミッチェルが考察する。パート1「F1と本人が被るダメージ」に続き、今回はパート2をお送りする。

■F1タイトル獲得直後にF1を去ったドライバーはわずか5人

 ロズベルグ以前、タイトル獲得直後にF1を去ったドライバーは4人しかいない。マイク・ホーソーン、ジャッキー・スチュワート、ナイジェル・マンセル、そしてアラン・プロスト。ホーソーンは病に苦しみ、リタイア後の生活を長く楽しむことはできなかった。引退したわずか数カ月後の1959年1月に自動車事故でこの世を去ったのだ。

 スチュワートは、チームメイトのフランソワ・セベールがアメリカGP予選走行中の事故で死亡した影響で、同GPの決勝を欠場し、そのまま引退した。
 マンセルはインディカーへと転向(ただし1994年にウイリアムズからF1に復帰し、翌年にはマクラーレンへ移籍)。プロストは1年の休養を経て復帰した1993年に4度目のタイトルを獲得、その年の終わりで完全に引退した。彼らは皆、本当に満足した状態で引退したわけではなく、複雑な思いを抱いている。

■2度目のタイトルは家族に負担を強いるほどの価値を持たない

 ロズベルグには意欲が足りないと考える者もいるかもしれない。けれどもそれは、悲しむようなことでない。2016年のロズベルグのように全てを投げ打ってきたのならば、結果はそれを反映したものになるべきだ。以前の彼はチャンピオンではなく、エリートクラブの一員でもなかった。その状況を変えたということが、彼にとっての褒美だったのだ。

 あと一回勝ったところで、何も変わりはしないだろう。ロズベルグにとって再度のタイトル獲得は、まだ2歳に満たない娘のアライアを育てる妻のビビアンを置き去りにするほどの価値はない。引退発表にあたって、ロズベルグはこんなコメントを残している。

「僕と関わってきた全ての人々とともに、全方位において死にもの狂いで頑張った。家族も含めて、みんなが大いなる犠牲を払ってくれた。たとえば妻は、僕が家にいるときには休息が必要だと理解してくれていた。だから夜には何もしなくてよかったし、娘の世話もしなかった。難しいことは何ひとつ、やらなくてよかったんだ。彼女はできるかぎり楽をさせようとしてくれたけど、それは僕ら全員がしてきたことの、一例にすぎない」


 31歳のロズベルグと、2016年でレギュラードライバーの座から降りた36歳のバトンを比較するならば、違いは明らかだ。バトンのキャリアは自然な形で終わりに向かっていた。ロズベルグより5歳年上のバトンは、その分の5年間で何を失っただろう? 彼には娘はいないし、望むのであれば今からでも子供の成長を見守ることは可能だ。一方でロズベルグは、家族思いで有名だ。そして彼には、ふたつの思いがある。F1のタイトルを追い求めることと、妻と娘。前者を達成した彼にとって、引退という選択はまったくもって当然のことなのだ。

「子供のころの夢を成し遂げたいま、もう1年こんなふうに身を投じる意欲は持てないし、だからといって4位やそこらになることにも興味はない。僕はファイターであり、(やるからには)勝利を収めたい。でもそれを再度やってみることに面白みを感じないし、やりたいとも思わない」とロズベルグは語っている。

■人生をかけた大きな決断を誇りに思っていい

 ロズベルグは、ふたつの間でバランスを取ることは不可能だと考えている。けれどもおそらくは、可能だ。チャンピオンとして波に乗り、コース外での仕事を大幅に抑えて家族と過ごす時間を取り、この先の2年間で1000万ポンド(約14億3千万円)以上の額をポケットに納めることだってできたはずだ。

 だがそれはあまりいいこととはいえないだろう。現役チャンピオンであるロズベルグ本人やメルセデス、F1にとっては最悪の事態ともなっただろう。気持ち半分でタイトル防衛に臨むことは、F1やスタッフに対して中指を立てるのと変わりない。そして彼自身の気持ちをくじき、評判を落とすことにもなるだろう。

 何年か後にレースが恋しくなったとしても、ロズベルグが選択肢に困ることはない。F1での夢を叶えるために大きな犠牲を払ってきたのだから、いくらかのご褒美を得るには最適な時期だと言える。

 F1はビジネスであり、スポーツであり、エンターテインメント業界だ。だが単にそれだけのものだ。ロズベルグがF1に人生を掛けてきたことは明らかだが、それが何よりも大事なことというわけではない。彼は常にケケの息子であり、ハミルトンのチームメイトであり続けてきて、おそらく自分だけの力でタイトルを獲得したと認められることはない。

 F1での妄想から脱出することは容易ではないし、自分の思うがままにそこから離れることは、もっと難しい。だからこそ、それらをやってのけた手柄のすべては、ロズベルグだけのものだ。