トップへ

ビッグ・イン・ジャパンで何が悪い! 『バイオハザード』、シリーズ最高の出足

2016年12月29日 17:41  リアルサウンド

リアルサウンド

『バイオハザード:ザ・ファイナル』場面写真

 今年の正月映画の本命として、12月16日に『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』が、翌17日に『映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!』が公開されたわけだが、昨年同様、年明けまで1ヶ月以上この2作品がワンツーを独占すると思いきや、思わぬ伏兵が現れた。12月23日に公開された「バイオハザード」シリーズの6作目にして完結編『バイオハザード:ザ・ファイナル』が、先週末の土日2日間で動員40万1000人、興収6億1900万円を記録して1位を奪取。公開初日から3日間の累計成績は動員64万4000人、興収9億7800万円。シリーズ最高興収となった4作目の週末3日間興収を約10%上回るという結果に。5作目に一度落ちた成績を、シリーズ最終作で見事に盛り返してみせた。


参考:繰り返される『スター・ウォーズ』vs『妖怪ウォッチ』対決! しかし今年は異変も……


 ご存知のように、「バイオハザード」シリーズの原案となっているのは日本のゲームメーカー、カプコンのゲームソフト『バイオハザード』。本国の製作・配給はスクリーン・ジェイムズ社という(ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメントの一部である)コロンビア・トライスター・モーションピクチャー・グループの子会社で、主にB級作品を多く手がけている映画会社だ(ちなみに世界各国で今年最大のサプライズヒットとなり、現在日本でも少ない公開館数ながらスクリーン・アベレージで驚異的なヒットを飛ばしているスリラー作品『ドント・ブリーズ』も同社の製作)。つまり、日本ではエンターテインメント大作的の宣伝がされているが、本国アメリカでは製作費的にも興収的にもあくまでもB級の人気シリーズといった位置づけとなる(それでも2作目から5作目まで、4作品連続して公開週には全米1位になっているのは立派だが)。


 ちなみに、2002年に公開された1作目のドメスティック比率(世界興行の中でのアメリカ国内興行の比率)は39.2%だったが、2012年に公開された5作目のドメスティック比率は17.6%と激減。「バイオハザード」シリーズの人気は、アメリカ国内での停滞を、日本を中心とする世界興行が支えているといった構造で成り立ってきた。


 ここで前作(5作目)までの数字しか挙げていないのは、本作『バイオハザード:ザ・ファイナル』は現在世界中でシリーズの人気が最も高い日本でしかまだ公開されていないからだ。アメリカでの公開日は2017年1月27日。これまで世界各国でサマーシーズンやウィンターシーズンといった書き入れ時を避けて公開されてきた同シリーズだが、今回は日本だけ独自に正月シーズンにぶつけるという勝負に出て、その賭けに勝ったわけだ。


 世界最速で日本公開、そして中高生からの支持と地方興行の比率が高い日本での『バイオハザード』の興行を見て思い起こすのは、かつて音楽の世界で「ビッグ・イン・ジャパン」などと揶揄されながらも、日本のレコード会社の周到なプロモーション計画によって日本独自の大ヒットを飛ばしてきた洋楽ヒットのことだ(記憶に新しいところではスキャットマン・ジョンとか「恋のマイアヒ」のO-Zoneとか)。残念ながら、現在の日本のレコード会社の洋楽部にはかつてのような「ビッグ・イン・ジャパン」なアーティストを生み出すエネルギーがなくなって久しいが、映画の世界ではまだ「ビッグ・イン・ジャパン」ドリームは残っているということなのだろう。


 「バイオハザード」シリーズは日本の配給会社からの働きかけによって4作目と5作目に中島美嘉、そして今作ではローラをキャスティングして、それも大いに日本での作品の話題性に貢献してきた。もっとも、シリーズの最後に数字が跳ね上がるのは他のシリーズ作品にも見られる傾向なので、ローラ効果がどれほどあったのかは、1月末から2月にかけて公開される世界各国での結果を見てから最終的に判断する必要がある。(宇野維正)