6名ものウイナーが生まれ、例年以上に見どころが多かった2016年の世界ラリー選手権(WRC)をAutosport誌のラリー編集者であるデイビッド・エバンス(@davidevansrally)が統括。今年のドライバーをランキング形式で紹介する。
今回は第5位~第1位までをご紹介。第10位~第6位まではこちら!
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■第5位:アンドレアス・ミケルセン(フォルクスワーゲン・ポロR WRC)
所属チーム:フォルクスワーゲン
2016年出場回数:13戦
優勝回数:2勝
シリーズランキング:3位
ミケルセンは過去にもセバスチャン・オジエに匹敵する速さをみせる場面が時おりあったが、今年は1大会を通して、そのポテンシャルを発揮してみせた。
オット・タナクが圧倒的なパフォーマンスを発揮した第7戦ポーランド。競技2日目を終えた時点で、ミケルセンはタナクから21.3秒もの遅れをとっていた。ミケルセンが操るポロR WRCは、タナクのフィエスタRS WRCを圧倒する性能を持っていたが、それよりもタナクが履くDMACKタイヤのアドバンテージが大きかった。
そして競技最終日、ミケルセンは猛烈な追い上げをみせてプレッシャーを与え続けて、タナクをパンクに追い込み劇的な勝利を手にしてみせたのだ。
また、最終戦オーストラリアでは、チームメイトである“先輩”オジエを相手に接戦を展開。ここでも王者をねじ伏せる走りを披露してシーズン2勝目を挙げた。ミケルセンには高いパフォーマンスを発揮する“魔法の力”が備わっていることは間違いない。
■第4位:ティエリー・ヌービル(ヒュンダイi20 WRC)
所属チーム:ヒュンダイ
2016年出場回数:13戦
優勝回数:1勝
シリーズランキング:2位
今から18カ月前、私はヌービルのドライバーとしての“頂点”は過ぎ去ったと感じていた。ヒュンダイのエースはヌービルから、オーストラリア出身のパッドンに移ったと考えていたのだ。
しかし、今年はヌービルにとって復活の年だった。第6戦イタリアで挙げた22カ月ぶりの勝利はヤリ-マティ・ラトバラとの激戦を制したものというよりは、偶然の産物といった印象が強いかもしれない。しかし、ヌービルが勘を取り戻すには、それで充分だった。
第6戦イタリア以降、ヌービルは最終戦までの全戦でトップ4フィニッシュを達成している。この成績は終盤5戦で連続表彰台を獲得したオジエに匹敵するものと言えるだろう。
ヌービルがふたたび“絶頂期”を迎えたことは疑いようがない。あとは、これをどこまで維持できるかが重要になってくる。
■第3位:オット・タナク(フォード・フィエスタRS WRC)
所属チーム:DMACK
2016年出場回数:13戦
ベストリザルト:2位
シリーズランキング:8位
Mスポーツを指揮するマルコム・ウィルソンは、頻繁にタナクをサテライトチームに送り込むべきだ。2016年はサテライトチームから参戦したタナクは、さらなる速さを身につけ、舞い戻ってきたのだから。
正直に言って、タナクのスピードに疑いを挟む余地はない。しかし、彼にはトラブルを避けたり、トラブルを抱えながら走りきるスキルが欠けていた。今年、タナクはそれを学習し始めている。
しかし、このランキングでタナクを3位に据えた最大の理由は、第7戦ポーランドで近年まれに見る激戦を繰り広げたことにある。
タナクはオープニングから圧倒的な速さでリードを広げ、勝利を確実なものとして競技最終日に臨んだ……。タイヤのパンクという劇的な幕切れを迎えるまでは。
勝利を逃したものの、オジエを抑えた上に自身最高位となる2位表彰台は喜ぶべきものだったはずだ。それでもタナクは涙を浮かべながら「2位には何の意味もない」と静かに言い放った。
WRCはドライバーに試練を与え、それを乗り越えた者のポテンシャルを引き出すのだ。
■第2位:クリス・ミーク(シトロエンDS3 WRC)
所属チーム:PHスポール/シトロエン
2016年出場回数:7戦
優勝回数:2勝
シリーズランキング:9位
2016年シーズン、ミークがみせた成長は、彼が10年以上前から手にしたいと望んでいたものだ。彼は世界各地を転戦するのではなく、じっくり腰を据えて走り込める機会を望んでいた。今回、そのチャンスを得たミークは大きな進化を果たした。
今年はシトロエンがWRCフル参戦を見送ったことで、ミークはライバルより優位な出走順を得た。また、プライベーターとして参戦したことで、チームタイトルのことを考えずに済んでいた。
その点を考慮すれば、より多くの勝利を手にしているべきだったかもしれない。
しかし、彼がドライブしたDS3 WRCは、少なくとも2シーズンは改良が施されていない上、たとえばダンパーなどは、10年以上前のクサラWRCから大きく変わっていないことも忘れてはならない。
ミークの進化は、去年の成長を凌駕するものだった。ドライバーのスキルとマシンのパフォーマンスが問われる第5戦ポルトガルと第7戦フィンランドで、ミークは完璧とも言える戦いぶりだった。
(フィンランド名物の)オウニンポウヤでの走りはリチャード・バーンズやコリン・マクレーを彷彿とさせるものだったが、それ以上に強烈な印象を残したのは、第10戦ツール・ド・コルスの競技最終日に35秒ものギャップをつけてみせたことだ。
■第1位:セバスチャン・オジエ(フォルクスワーゲン・ポロR WRC)
所属チーム:フォルクスワーゲン・モータースポーツ
2016年出場回数:13戦
優勝回数:6勝
シリーズランキング:1位
オジエにとって、2016年シーズンはWRCドライバー史上2番目に悪い1年だった。年間6勝という成績は、フル参戦初年度の2011年シーズンの年間5勝に次いで悪いものだ。
また、フォルクスワーゲンでのシーズンに限っても、移籍初年度に次いで少ない優勝回数になっている。
数字は嘘をつかない。オジエは今年、これ以上勝利を収めることは不可能だった。2016年シーズン開幕前に、出走順に関するルールが変更されたことが、オジエを勝利から遠のかせる最大の要因となった。
FIAが規則を変更した理由は明確だ。チャンピオンシップリーダー(例えばオジエ)を競技最初の2日間に先頭走者とすることで、シリーズの魅力を高めようとしたのだ。その結果として2016年は近年まれに見るほどの多くのウイナーが誕生した。
こういった逆境のなかでも、オジエは力強さを発揮。彼は過去最高の速さと安定性をみせつけた。
シーズン中にオジエがミスをしたのは、わずかに2回のみ。優勝回数は少なかったものの、抜群の安定感で4度目の王座を手にしてみせた。これがオジエを2016年ベストラリードライバーに選出した理由である。