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パスピエ、5人の存在感で見せたバンドの現在地とこれから 5th Anniversary Hall Tourレポ

2016年12月29日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

写真=鳥居洋介

 5周年のアニバーサリーイヤーを迎えたパスピエによる東名阪ホールツアーの最終日、東京・中野サンプラザ公演。2015年12月の日本武道館公演以降を“改めて自己紹介する時期”として捉え、シングル3作(『ヨアケマエ』『ハイパーリアリスト / 永すぎた春』『メーデー』)をリリースするなど精力的な活動を続けてきた5人。ソールドアウトとなったこの日のライブでパスピエは、5年間を総括するようなセットリストを軸にしながら、バンドの現在地とこの先のビジョンを明確に示してみせた。


 ライブは成田ハネダ(Key)の独奏から始まった。楽曲はもちろんドビュッシーのベルガマスク組曲・第4曲「パスピエ」。洗練と抒情が溶け合う旋律とともに、カラフルなレーザーライトが放射され、ステージ後ろのスクリーンに人のカタチーー大胡田なつきが手がけるアートワークーーが描かれていく。そして大胡田が登場するとレーザーが消え、舞台の後ろには彼女が描いた巨大な絵画が現れる。最新の技術とオーソドックな芸術を融合させた演出に圧倒されているとオープニングナンバーの「ハイパーリアリスト」が響き、観客席から大きな歓声が起こる。続けて「とおりゃんせ」「うちあげ花火」「つくり囃子」を披露。クラシックの素養に裏打ちされた高度なアレンジ、80sニューウェイブ感覚に溢れた音像、“和”をモチーフにした歌詞。このバンドを構成する要素が強く反映された楽曲が次々と放たれ、パスピエの音楽世界が大きく広がっていく。最初のピークは「チャイナタウン」。結成当初からライブ・アンセムとして知られていた楽曲だが、露崎義邦の強靭なベース、やおたくやの起伏に富んだドラムを中心にリズムが強調され、ダンスミュージックとしての機能が確実に向上していた。


「今回のツアーは5周年を感じられる内容。私たちとあなたが初めて会ったときを思い出してほしいです」という大胡田の言葉に導かれたのは、2011年11月にリリースされた1stミニアルバム『わたし開花したわ』の1曲目に収録されている「開花前線」。「トロイメライ」(2ndミニアルバム『ONOMIMONO』/2012年)、「あの青と青と青」「トーキョーシティ・アンダーグラウンド」(2ndアルバム『幕の内ISM』/2014年)、5周年の始まりを告げたシングル「ヨアケマエ」。5年間のキャリアのなかで獲得してきた音楽的な進化を生々しく体現するバンド・サウンドも素晴らしい。多彩かつ緻密なリズムを描き出すやおのドラム、骨太なグルーヴと洗練されたメロディを共存させた露崎のベースライン、華やかな速弾き、正確なカッティングで楽曲に彩りを与える三澤勝洸のギタープレイ、そしてバンド全体をコントロールしながら、ソリストとしての才能もしっかりと示す成田ハネダの演奏。このアンサンブルの質の高さは現在のバンドシーンのなかでも完全に際立っていると断言したい。5年前はほとんど棒立ちで演奏していたが積極的に前に行き、オーディエンスとコミュニケーションを取る姿も印象的だった。


 さらに注目すべきは、大胡田の存在感だ。和テイストを取り入れた個性的な衣装、日本舞踊を想起させるような動き、どこか中性的な手触りを持つ声質を含め、彼女のスタイルはまさに唯一無二。最近のインタビューで大胡田は「私がやったことがそのままパスピエがやったことになると思っています」と語っていたが、彼女のなかに宿ったフロントマンとしての矜持は、この日のステージからも強く感じることができた。


「ライブを意識して作った曲。ぜひ楽しんでほしい」(大胡田)と紹介された最新シングル「メーデー」からはライブは後半へ。「YES/NO」では「YES/NOのメリーゴランド/メリーゴーランド さあ、輪になって」という大合唱が生まれ、パスピエ流のディスコチューン「シネマ」では観客が楽しそうに身体を揺らす。本編ラストの「MATATABISTEP」における強烈な一体感は、MV、CDジャケットなどのビジュアルでメンバーの顔出しを解禁し、より肉体的になったステージングを端的に象徴していたと思う。


 アンコールでは、原曲よりも明らかにテンポが速い「トキノワ」、「声出せ!」と大胡田がドSぶり(?)を発揮した「S.S」を披露。鳴り止まない拍手と歓声に応え、ダブルアンコールで演奏されたのは2017年1月25日リリースのニューアルバム『&DNA』の収録曲「スーパーカー」。エレクトロ的な疾走感に溢れたこの曲は、新作に対するオーディエンスの期待をさらに膨らませたはずだ。


 2017年3月から5月にかけて全国ツアー『パスピエ TOUR 2017“DANDANANDDNA”』の開催も決定。「次はこう来たか?! と思われるようなことをどんどんやっていきたい」(成田)という意志とともに次のフェーズに向かっているパスピエ。5周年のアニバーサリー、そしてアルバム『&DNA』から始まる新しいパスピエをぜひ堪能してほしいと思う。(文=森朋之)