トップへ

上地雄輔、“やんちゃ”なアウトロー役が似合う理由 『土竜の唄』緩急の効いた演技を読む

2016年12月28日 09:51  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016フジテレビジョン 小学館 ジェイ・ストーム 東宝 OLM (c)高橋のぼる・小学館

 映画『土竜の唄 香港狂騒曲』で前作同様、全身ヒョウ柄の刺青を入れたヒットマン・クロケンを演じている上地雄輔。1999年に俳優としてデビュー以来、テレビドラマや映画に数多く出演し、爽やかな好青年から、時代劇、さらに青年実業家などさまざまな役柄を演じてきた。そんな中、映画『クローズ ZERO』シリーズや、『ドロップ』、『漫才ギャング』そして本シリーズでみせたような“やんちゃ”な役を演じている上地には何とも言えない魅力がある。


参考:中村倫也、古川雄輝、柾木玲弥……新鋭の“塩顔”スターたち 俳優としての強みと個性


 俳優ばかりでなくバラエティや歌手としても活躍している上地だが、知名度を上げたのは「クイズ!ヘキサゴンII」などのバラエティ番組だ。そこで彼はいわゆる“おバカ発言”を連発し、一躍お茶の間の人気者となる。


 メディアを通じて伝えられる上地は、明るく人懐っこい笑顔で先輩・後輩問わず愛されているイメージ。さらに高校野球の強豪・横浜高校でレギュラー捕手を務めていたスポーツの実力も相まって、爽やかな印象が強い。実際、映画の舞台挨拶やイベント等でも、共演者から慕われている様子が伝わってくる。そんなパブリックイメージにあった“誠実な良い人”という役柄の上地もナチュラルで魅力的だが、本作でみせるアウトローなキャラクターも実にはまる。


 ヤンキー映画やアウトロー映画に登場するキャラクターには、色々なパターンがある。見た目が恐ろしく、実際も恐ろしいパターン、全く人に危害を与えなさそうな見た目なのに、実はメチャクチャ恐ろしいパターン、見た目が恐ろしいのに、優しいパターン、そのハイブリッド型などなど……。


 上地の場合、これまでの作品では、ドレッドヘアーにしたり、全身刺青にしたりと外見的にはスタイリッシュでクールなアウトローの佇まいをしているが、内面の柔らかさが所々から見え隠れする。これは決してマイナスではなく、緩急の利いたアウトローというパターンを演じる場合、抜群にはまるのだ。いわゆる茶目っ気と人間味のあるやんちゃな人。


 『クローズ ZERO』シリーズで言えば、綾野剛演じた漆原や、金子ノブアキ演じた成海などは、“静”から“怒”への緊張感ある脅威だが、上地演じる筒本は“柔”から“怒”へのギャップが利いている脅威となる。こういった存在は、物語に緩急をつける立ち位置として非常に有効だ。


 『土竜の唄 香港狂騒曲』では、前作で反目に回っていた生田斗真演じる玲二とタッグを組み、敵対する相手に立ち向かう。本作の特徴は、おかしなキャラクターたちが、徹底的にバカなことをやり倒す痛快なアクションエンターテインメント。上地のほか、登場するキャラクターたちは、みな強烈すぎるほど個性的なだけに、全身ヒョウ柄の刺青でにらみを利かせるヒットマンというビジュアル的に最もインパクトがある役柄を演じる上地の立ち位置は難しい。しかし、三池監督の絶妙なさじ加減が前提にあることは言うまでもないが、出すぎず引きすぎず、上地演じるクロケンは、物語に非常に良いアクセントを与えている。


 次回作になるが、園子温監督の『新宿スワンⅡ』にも上地は森長千里役で出演している。役柄は、綾野剛演じる白鳥龍彦と敵対するスカウト会社の幹部だったものの、意気投合して共通の敵に立ち向かう、暴れん坊だが義理人情にあつい男だ。以前「イメージを裏切るような役柄をやっていきたい」と話していたことがある上地だが、緩急の効いたアウトロー役を演じる上地の姿はしばらく見ていたいと思えるほどの安定感だ。(磯部正和)