モータースポーツ・ジャーナリスト今宮純氏によるシーズンオフ特別企画、期待していた結果や状況に対してもの足りなかった――イマイチだった各部門賞をノミネートする『今宮純のF1ゴールデンラズベリー賞2016』。今夜はパート2の発表だ。
☆コースレイアウト:ヨーロッパGP
なぜか『ヨーロッパGP』タイトルで初開催されたアゼルバイジャン共和国での第8戦、バクー・シティー・サーキットは前代未聞の高速公道レイアウトと言えるだろう。全長6003mの3分の1以上の2Kmがストレート、長ければいいというものではない。
セクター1はグイッとこじるだけの直角コーナーばかり。セクター2のターン8から10はコース幅7.6m(公称)、実際はもっと狭く、まるで路地裏だ。セクター3はやや曲がっているが、延々と長いストレートでル・マン並みの最高速360キロオーバー。良く言うと3つのセクターは変化に富んでいるけれども全体的なリズム感に欠ける。
ドライバー達には契約上、批判できない縛りがあっても本音コメントはネガティブ。スタンドも少なく観客の盛り上がりもイマイチ……。昨年復活したメキシコGPの、古くても新しさがあるコースに比べるとバクーは漠然としたコース、ちなみにその新メキシコGPもここバクーもロズベルグがきっちり勝利した。
☆イベント:ドイツGP
先月末に17年ドイツGP消滅が決定。2年ぶりに第12戦としてホッケンハイムで復活したが……。決勝日観客5万人強はあまりに寂しすぎた。金曜には1コーナースタンドを『ROLEX』の巨大看板で埋めるなど上海、中国GPのよう。伝統あるドイツGP、伝説のホッケンハイムがそこまでやらなければならないとは。
10数年前は週末に20万を超える大観衆がひしめき、サーキット周りの森の中はキャンプ客であふれ、テントには飲んだビール缶が山のように吊るされていた。BBQの匂いと酔っ払いが叫ぶ「シューミー!!」の声、スタンド裏は渋谷スクランブル交差点のような人間渋滞。
コメンタリーブースまで移動するのに何分もかかった(それが懐かしいホッケンハイム)。今年はトラックリミット問題が持ち上がるなど、コンペティションの本質から遊離した話題が……。レーシングイベントとしてさまようドイツGP、母国王者と母国最強マシンが揃っているのに人気低迷に歯止めがかからない。あまりに偉大すぎたミハエル・シューマッハがあのようなスキー事故に遭ったことも、少なからず関連しているのかもしれない――。
☆ルール:一貫性のないFIA
朝令暮改、ルール変更の混乱が相次いだ今シーズンを表現する四文字熟語。もう忘れかけているが開幕2戦に“新予選ルール”が導入された。その詳細フォーマットは省くが、ほぼ10年ぶりの変更は大失敗に終わった。
タイヤのセット数に限りがあり、Q1~Q3計測時間中に何度もアタックできるはずはなく、スリルなど無いままコース上は静かに。第3戦中国GPから元の予選方法に戻された。他にもトラックリミット解釈をめぐる論議、その取り締まり方法やペナルティなども話題に。またモータースポーツの原点ルールと言うべきイエローフラッグ順守もひと騒動に。
ダブル・イエローが振られたらそこで最徐行するのはこのスポーツの大原則。いまさら最高峰F1でそれが論議されること自体、いかがなものか。また、審査委員会(4名)のスチュワード裁定も普遍性を欠き、ペナルティ量刑が不公平だと騒がれた。
ドライバー出身者を交えたメンバーは毎戦変わり、判断基準がどうしても曖昧になる。こうしたルールに関する数々の案件をクリアにしないとスポーツ性が損なわれていく。単純明快でシンプルなルール、公平かつ迅速で分かりやすいジャッジをと、「最近F1を観なくなった」方々からよく言われる。
☆ピットワーク:ドイツGPにおけるメルセデス
奇妙な時がピットで流れた。ドイツGPの44周目、ロズベルグがフェルスタッペンとの絡み合いで5秒タイムペナルティを科せられピットイン。静止したまま4、5、6、7秒……。いつまでたってもそのまま、何が起きているのか一瞬判断できなかった。
なんと、無敵のチャンピオンチームは5秒ストップをちゃんと測れなかった(!)。結局ロスタイム約12秒、ストップウォッチひとつあればできることができないとは。以前、ジャン・トッド監督がフェラーリを率いていたころ、常に胸にはストップウォッチを下げていた。コンピュータ・タイミング時代なのにピットにいる間はいつもそう、その姿を見て「やはりラリーのナビゲーター出身者は違う」と思った。
自分も以前コースサイドで“定点観測”するときは必ずストップウォッチを持ち、目視でコーナー通過タイムを計測していた。そんなことを思い出させるあのメルセデスの、珍プレー的なピットワークであった。
☆タイヤ:ピレリの技術力
はっきり言うと、あのブラジルGP程度の雨でアクアプレーン現象から何台もスピンするのに驚いた。ウェット・タイヤはグリップがなく、インターミディエイトは排水性が不十分。大事故が発生せずに済んだのは“警鐘”と受けとめるべきだろう。
ドライタイヤも作動温度領域が狭く、摩耗した破片ゴムが飛び散り、ダウンフォースが乏しいマシンは使いこなせないのが実情だ。速さが急に落ち込み、長持ちしないからいままでなかった戦術“アンダーカット”が、11年からしきりに言われるようになった。24日間、1万2000Kmテストした17年タイヤ開発の成果を大いに期待しよう。ドライバーとマシンが競い合うF1を支えるのはタイヤにほかならないのだから。
PS:ご愛読に感謝、よいお年をお迎えください。 今宮 純