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東京スカパラダイスオーケストラが貫いてきた「日本人によるスカバンド」という軸

2016年12月27日 18:21  リアルサウンド

リアルサウンド

『Paradise Has No Border』ツアー新木場公演の様子。

 会場で沸き起こるスカダンスの嵐。1960年代にジャマイカで生まれたスカが、これほどまでに日本の聴衆を熱狂させることを、東京スカパラダイスオーケストラは私に見せつけた。それは、彼らがライブハウスツアーを選択したからに他ならない。東京スカパラダイスオーケストラのライブハウスツアー『Paradise Has No Border』は、2016年11月23日に新木場Studio Coastの東京公演で中盤を迎えた。


 新木場Studio Coastを埋め尽くす超満員のフロアにザ・スカタライツの「Reburial」が流れると、メンバーがステージに登場。彼らの演奏で踊るフロアは、さながら「日本のスカシーン」を体現するものだった。そう、1989年にアナログ盤『TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA』をリリースしてから27年、どんなにヒットを飛ばしても彼らは「スカバンド」であり続けてきた。この日は「ちょっとただごとではない」と感じるほどの熱気だったが、そこにライブハウスツアーを行った意義はある。聴衆が自由に踊れるのだから。


 ライブの随所には「沖祐市の世界」という、キーボードの沖祐市によるジングルのようなコーナーも挿入されていた。そして、今回のライブハウスツアーは、ひとつの公演が4つのセクションにわけられており、会場ごとにそのセクション内の選曲が変わる趣向なのだという(この新木場公演のときはそうであるが、常に進化・変更を繰り返すバンドだけあって、ツアー後半はどうなっているか分からない)。東京スカパラダイスオーケストラは、25公演にも及ぶツアーでそれを行なっているのだ。


 たとえば2番目のセクションでは、ギターの加藤隆志が中心になっていた。特に、加藤隆志がBOØWYの「BAD FEELING」に合わせギターを弾き、咆哮するかのような演奏を聴かせたのには驚いた。


 3番目のセクションは、テナー・サックスのGAMOが中心。そこで始まったのが、小沢健二の「ぼくらが旅に出る理由」だ。まさかこの日のライブで聴くことになるとは思わなかったが、原曲のホーン・アレンジにはトロンボーンの北原雅彦が参加していた。そして、ボーカルをとったのはドラムの茂木欣一……! 「ぼくらが旅に出る理由」を収録した小沢健二のアルバム『LIFE』がリリースされた1994年当時、茂木欣一がフィッシュマンズに在籍していたことを知る者には、なおさら胸に迫るものがあっただろう。


 誤解のないように書くが、BOØWYや小沢健二のカバーは、決して懐メロとして演奏されていたわけではない。東京スカパラダイスオーケストラというバンドは、「日本人によるスカバンド」としてスカに深く根差す一方で、大衆性も充分に持ちあわせている。そして、カバーされた楽曲のひとつひとつは、現在の彼らを作ってきた軌跡であったのだ。


 さらに、東京スカパラダイスオーケストラの歴代メンバーの写真が登場するシーンもあった。デビュー27年目に触れて、GAMOは語りだした。そのGAMOの語りは、27年の歴史を背負ってライブハウスツアーを行なっていることを痛切なほどに感じさせるものだった。


 セクションが変わり、あのアントニオ猪木でおなじみ『ALI-BOM-BA-YE』の曲に合わせて登場したのは、バリトン・サックスの谷中敦。最後の4番目のセクションは彼が中心だ。谷中敦は「元気があればセルフィーも撮れる!」とメンバーやファンとなんとステージ上で自撮りを始めた。


 さて、今回のライブハウスツアーでは、各会場でメンバーとコラボレーションをするパフォーマーを募集していた。課題曲であるナンバー「Paradise Has No Border」が始まり、東京公演に登場したのは、バケツドラマーのMASA。彼は見事なバケツドラムのソロを披露した後、茂木欣一とのスリリングな掛け合いまで聴かせた。


 本編ラストは「スキャラバン」。1989年のデビュー盤であり、私が東京スカパラダイスオーケストラと出会ったアナログ盤『TOKYO SKA PARADISE ORCHESTRA』の収録曲だ。「スキャラバン」は、デューク・エリントンの名曲「Caravan」のカバー。つまり、彼らは初期からスカとジャズをミクスチャーさせていたのだ。


 この日のライブは、メンバーそれぞれのキャラクターや、プレイヤーとしての資質を強烈に印象づける構成だったが、それが東京スカパラダイスオーケストラというバンドをさらに強化しているかのようだった。東京スカパラダイスオーケストラほど、J-POPシーンのメインストリームにいるスカバンドはいない。さまざまなアーティストとコラボレーションをしても、「日本人によるスカバンド」という軸がブレていないのは驚異的なことだ。スカというジャンルの中で、日本人としてのアイデンティティーを見事に貫き通しているのだ。


 かつてジャマイカやロンドンのライブハウスでスカが演奏されるとこんな光景が見られたのだろうか……と考えてしまうほど、「日本のスカシーン」を体感させてくれる東京スカパラダイスオーケストラ。ライブハウスツアー『Paradise Has No Border』が見せてくれるのは、そんな光景なのだ。(宗像明将)