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アニソン超越するELISAのポテンシャル 新作『GENETICA』とドラマ性ある歌声から分析

2016年12月27日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ELISA

 数々のアニメ・ゲームのテーマソングで多くのヒットを放ちつつ、アニソンというカテゴリーを超越した圧倒的な歌唱力で、日本のみならず海外でも高い評価を得ているELISAが、約2年半ぶりとなるオリジナル・アルバム『GENETICA』をリリースした。彼女の作品がアニメやゲームと結びつくことが多いのは、その歌声があるドラマ性を持っているからだ。


 ファンタジックな世界に入り込むとき、人はどう作品に自分を重ね、何を主人公に求めるのだろう。私自身を振り返れば、作品によってだが、求める像がふたつあるような気がする。ひとつは、現実世界の厳しさと同じような境遇にあってなお飽くなき闘いを続ける、どこか悲劇性を帯びた勇者像。もうひとつは、現実世界の歪みや汚れをすべて包んで浄化してくれるような、ピュアさと健気さにあふれた天使像だ。ELISAの歌声が持つドラマ性は楽曲ごとに様々な局面を見せるが、中でも前者の像に合致した時の爆発力は特筆すべき点。いや、そういう像を求める人の気持ちを、躊躇なく背負う覚悟とパワーを持った歌声ということなのかもしれない。


 悲劇性を帯びた映像と親和性が高い音楽といえば、『地獄の黙示録』におけるワーグナーの「ワルキューレの騎行」や、『インディージョーンズ/魔宮の伝説』におけるカール・オルフの「おお運命の女神よ」といった例のごとく、壮大かつ華麗なクラシック曲。という意味で、映画『楽園追放-Expelle from Paradise-』の主題歌「EONIAN-イオニアン- / ELISA connect EFP」や、ゲームソフト『Fate/EXTELLA』の主題歌「ex:tella」が、そういうクラシック要素を含んだ曲であることには深く納得できた。当然、音域的にも技術的にも簡単なメロディではない。それを表情豊かに歌いこなせるのは、幼い頃からクラシックのトレーニングを受け、オペラにも親しんできたELISAだからこそだろう。ボーナス・トラックに収録されているサラ・ブライトマンのカバー「Time to Say Goodbye」を聴くと、その歌唱力の根っこの深さがよくわかるはずだ。多くのナンバーにどこかミステリアスでエキゾチックな雰囲気が漂うのも、ELISAがまとうある意味妖気的な魅力に、作家陣がインスパイアーされるからではないだろうか。


 個人的にいちばん惹かれたのは「グラン・シャリオ」。作曲は、藍井エイルや中川翔子などで知られる黒須克彦。アレンジは、同じく藍井の多くの作品でクレジットされている元serial TV dramaの新井弘毅。そのふたりが作詞も手がけている。歌謡性のあるメランコリックなメロディがまずいい。さらに、ストーリー性を持たせながら最終的にスラッシュメタルへと到達する、アレンジのぶっちぎり感も新鮮だ。最近新井は、元SURFACEの椎名慶治のソロ作品やそのライブでも活躍している。その姿を何度か目撃した際、彼自身のポップ性やギタリストとしてのスタンスに、バンドにいるときとは違う境地が垣間見られた。そのあたりが遺憾なく発揮されていて面白い。クラシカルなフレーズの取り入れ方も粋。メタル好きにはクラシック好きも多いことを考えると、この方向性がELISAの声のドラマ性と相性がいいのも当然なのかもしれない。


 憂いが似合うという意味では、TVアニメ『91Days』(MBSほか)のEDテーマ「Rain or Shine」や、本人が作詞作曲した「優しい嘘」で見られるフィルム・ノワール的な世界や、「the amber moon」のケルティックな感じもまた素敵。ブレスをたっぷり使った声の色っぽさにはドキリとした。つまり、楽曲の持つメンタリティに憑依する力が抜群なのだ。シンガーとしての底知れない可能性を感じる1枚。アニメに特に思い入れのないポップ/ロック・ファンにも、ELISAの存在が広く届くきっかけとなることだろう。(文=藤井美保)