2016年12月27日 10:42 弁護士ドットコム
福岡県飯塚市の市長と副市長が、平日の市役所の開庁時間に、賭けマージャンを繰り返していたとして、物議を醸している。
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地元紙の西日本新聞によると、斉藤守史市長(68)は2006年の就任以降、田中秀哲副市長(69)も数年前から市内のマージャン店で、知人の業者らと現金を賭けてマージャンをしていたという。金額は、1日で1人1万円ほど。2人は業者に対する利益供与を否定している。
市長と副市長は法律上、勤務時間は決まっていない。とはいえ、倫理上の問題は残る。何より、「賭けマージャン」をしたことは法律上、賭博罪に当たらないのだろうか。神尾尊礼弁護士に聞いた。
ーー「賭けマージャン」は賭博罪にならない?
「賭博罪と判断される可能性はあります。『賭博』(刑法185条本文)とは、偶然の事柄に財産を賭け、その結果、お金などを得たり失ったりする行為です。マージャンは技術的な部分があるとはいえ、偶然性に左右されるゲームですから賭博の定義にあてはまります。
ただし、『一時の娯楽に供するものをかけた』場合は成立しません(刑法185条但書)。たとえば、勝った人に『缶コーヒーをおごる』など、わずかな価値のものを賭けたのであれば、日常で行われる娯楽だとみることができます」
ーー1日に1万円という金額はどうか?
「判例上は、金額の多寡にかかわらず、金銭を賭ければ、賭博罪が成立するとされています。ただし、かなり古い判例(大判大正13年2月9日など)です。先の例のように、日常の娯楽に含まれるといえるほど金額が小さければ、賭博罪は成立しないと考えることができるでしょう。
報道が事実だとして、1万円という金額は、決して安いとは思えません。1万円余分にあれば、十分に贅沢な生活ができると思う方も多いでしょう。少なくとも、『日常の娯楽』に当たるとは思えません。したがって、いうなれば『神様の目』からみれば、賭博罪が成立していると言える場合が多そうです」
ーーマージャン店では、賭けが行われていることが多そうだが?
「マージャン店でも、お金をかけたら賭博罪に当たります。店側は、そうした場を提供したということで『賭博開張罪』に問われます。
ただし、実際に摘発されることは多くありません。レートが高ければ目をつけられやすく、警察が特定の地域を一斉に摘発するといったケースもありますが、その場合でも客まで罪に問われることは少ないです」
ーー今回、市長・副市長が起訴される可能性はどのくらい?
「マージャン店の客と市長等を同列に考えるのは不適切だろうと思います。そこには公的な立場があり、より罪に問うべき要素が強いでしょう。
ただ、実際には賭博罪で起訴されることはほとんどないと考えます。先ほど『神様の目』という表現をしましたが、刑事裁判は人間が行うものです。検察が曇りのない立証をしなければ、有罪にはできません。密室で行われるマージャンをどこまで立証できるかの問題は残るだろうと思います。
もっとも、先ほど述べたとおり公的な地位がある以上、法的な責任とは別に道義的、政治的責任は残ります。私は法律家なのでこれ以上のコメントは差し控えますが、報道通りであれば責任が生じ得るのではないかと思います」
本件については、年明けにも識者らでつくる市の「政治倫理審査会(政倫審)」が開かれる予定。市長と副市長は12月26日の定例記者会見で、政倫審が辞職を勧告した場合は従う考えを示している。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」事務所を目指している。
事務所名:彩の街法律事務所
事務所URL:http://www.sainomachi-lo.com