2016年12月26日 11:32 弁護士ドットコム
高い濃度の水素が含まれるなどとして販売されている水素水や、その生成器の一部の商品について、国民生活センターは12月15日、健康増進法や景品表示法などに抵触する恐れがあるとして、業者に文言の改善を要望したと発表した。
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国民生活センターの報告書によると、特に多く流通している水素水10商品と生成器9商品について、パッケージの表示やホームページの商品説明、パンフレットなどを調査したところ、体に効能があると受け取れる表現が12商品に見つかったという。
「水素水には公的な定義等がなく溶存水素濃度も様々です。また、特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品として許可、届出されたものは、現在のところありません」「必ずしも表示どおりの(水素)濃度になるわけではありません」と消費者に向けて注意を呼びかけている。
国民生活センターが問題視した表現には、「悪玉活性酸素を無害化」「血液サラサラ」などがあったという。こうした文言をつかうことは、法的にどんな問題があるのか。景表法の問題に詳しい籔内俊輔弁護士に聞いた。
国民生活センターの報告書では、「事業者への要望」として次の3点を問題視しているようです。
まず1つ目は、「様々な病気の原因といわれる悪玉活性酸素を無害化する」、「アトピーに 痒い部分に水素水をつけて下さい」など、人の体に健康維持や症状の緩和の上でよい効果等があると受け取れる表示がされている製品もあるという点です。
事業者がこうした表示をするためには、医薬品医療機器等法や健康増進法といった法律により承認等の手続を経なければならないと考えられるのに、そのような手続を経ておらず、これらの法令に違反するおそれがあるのです。
また、こうした表示を行うと、一般消費者は「法律上必要な手続を経ている商品である」と理解すると思われますが、実際にはそうでないならば誤解を生じることになります。
さらに、表示されている水素水の効果を客観的に実証する裏付けが不十分だとすれば、表示通りの効果が実証されているのだろうという一般消費者の認識や期待にも反することにもなります。このような場合には、景品表示法が禁止している不当表示(優良誤認表示等)に当たる可能性もあります。
国民生活センターは、こうした表示について、法令違反のおそれがあるため改善を事業者に要望しています。
2つ目は、容器入りの水素水の中に溶け込んでいる水素の濃度について、充填時や出荷時の濃度のみが書かれているものはあるが、飲用時の濃度が不明である点や、国民生活センターの調査結果では、充填時や出荷時の濃度として表示されている濃度よりも低い測定値のものがあった点です。
これらの点は、濃度の測定時点を明記しているのであれば、賞味期限までの間に水素濃度が低下したとしても、直ちに景品表示法違反の不当表示というのは難しいかもしれません。しかし、一般消費者としては飲用時の濃度を重視するでしょうから、賞味期限まで保証できる濃度を記載するように事業者には要望しています。
3つ目は、水素水の生成器で生成した時点での水素濃度の表示について、国民生活センターの調査結果では、調査時に生成した水素水の水素濃度は、表示より低い測定値のものがあった点。また、これらの表示には、「使用される水質や水量によって濃度が変わる」旨の記載が付されているものもありますが、具体的にどのような場合にどう変わるか一般消費者に不明確という点です。
これらの点も、直ちに景品表示法違反とまではいえないのかもしれませんが、実際の濃度の目安として活用できるような記載を事業者に要望しています。
今回の国民生活センターの報告書の指摘としては、健康保持増進効果等に関する表示(1つ目の点)と、水素濃度に関する表示(2つ目と3つ目の点)に大別できます。
その中でも、国民生活センターは、1つ目の点を重視しているようです。疾患の治療や、健康保持増進効果を示す表示は、仮に水素水にそのような効果が本当にあるとしても、医薬品医療機器等法や健康増進法に基づく承認等の手続を経ていなければ、法律違反になります。
また、健康保持増進効果等が表示されているが、実際にはそのような効果が得られないのであれば、その点でも、前記の法律での虚偽誇大表示や景品表示法上の不当表示等として問題になります。
水素水に関しては、今回の報告書で、健康保持増進効果等に関して強い訴求をしている製品が多数存在することが明らかになりました。消費者庁は、2016年3月に特定商取引法による行政処分の中で、水素水の効果に関する不実告知を理由に業務停止命令をしたりしていますが、今後も、こうした表示が続くようであれば、行政機関による調査や処分等がさらに行われることになる可能性もあります。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
籔内 俊輔(やぶうち・しゅんすけ)弁護士
2001年神戸大学法学部卒業。02年神戸大学大学院法学政治学研究科博士課程前期課程修了。03年弁護士登録。06~09年公正取引委員会事務総局審査局勤務(独禁法違反事件等の審査・審判対応業務を担当)。16年~神戸大学大学院法学研究科法曹実務教授。
事務所名:弁護士法人北浜法律事務所東京事務所
事務所URL:http://www.kitahama.or.jp