2017年は車体に関するレギュレーションが大きく変わるが、パワーユニットに関するレギュレーションにもさまざまな変更が加えられている。その中で、もっとも大きな変更は「トークン制度」の廃止である。
トークン制度とは、パワーユニットを42のエリアに分け、その重要性に応じて「1」、「2」、「3」のトークン数が割り当てられている。42のすべてのエリアを変更すると66トークンとなる。
この制度は15年から導入され、年を追うごとにトークン数が減っていくシステムとなっていた。もちろん、開発を凍結させることでコストを削減するのが狙いで、15年は32トークンを使用できたが、16年は25トークンとなるはずだった。
しかし、このトークン制度はマニュファクチャラーの首を絞める結果となった。というのも、新しいパワーユニット制度が蓋を開けてみれば、メルセデスの独走状態となり、ライバルメーカーはそのギャップを埋めたくても、トークンシステムによって、アップデートが制限されたからである。
そのため、マニュファクチャラーたちはコスト削減よりもより競争を促そうと、17年からはトークン制度を完全撤廃することで合意した。つまり、17年からは66あるトークンをすべて使用して、パワーユニットを完全に新しくすることも可能になった。ちなみに当初の予定では17年に使用できるトークン数は20となるはずだった。
ホンダの長谷川祐介総責任者も「17年はチャンスだと思っているが、トークン制度の廃止に関しては、あまり意識はしていない」という。なぜなら、16年に使用可能だった32トークンですら、ホンダはすべてを使用したわけではないからだ。
最終的にホンダが使用しなかったトークンは「1」だったが、それは鈴鹿に向けたICE(エンジン本体)のアップデートが満足いく結果が得られずに投入を断念し、信頼性を向上させるために残っていた3つのトークンのうち2つを使用したもの。長谷川総責任者がこのアップデートエンジンを「スペック4ではなく、スペック3.5」と呼んでいるのはそのためである。
つまり、16年のホンダは事実上29トークンしか使用していなかったわけである。したがって、トークン制度が撤廃されたからといって、これまでアップデートできなかったものを自由にアップデートできるというような感覚は、ホンダのスタッフにはない。
その理由のひとつに、17年に使用できるパワーユニットの各コンポーネントが、16年よりも1基減ってそれぞれ4基となることも関係している。
「開幕前にトークンを使った後、シーズン中にトークンを使用できるタイミングは残りの3基を投入するタイミングしかないわけです。したがって、トークン制度が撤廃されたからといって開発の自由度がものすごく広かったかというと、決してそんなことはありません。時間やテクノロジーの制約のほうが大きいと認識しています」
そうなってくると重要なのは、17年のウインターテストまでにいかにパワーユニットを進化させておくかである。
ホンダの開発は、最後のトークンを使用したマレーシアGP以降、17年に完全に移行。すでに3カ月が経過している。17年のパワーユニットは、果たしてどんなものなのか。
「15年から16年にかけてターボなどの一部のパーツは大きくなったものもありますが、パッケージ全体のボリュームで比較すると16年のほうが、さらにコンパクトになっています。さらに17年のパワーユニットは、その16年のものよりはるかにコンパクトになっています」
これはサイズゼロのコンセプトを継続するということなのか。
「そもそもパワーユニットをコンパクトにするという発想は、マクラーレンに言われたからではなく、ホンダにもありました。エンジンのパフォーマンスを最大限に生かした上で、できる限りコンパクトなエンジンを作ろうというのが我々のスタンスです」と長谷川総責任者は語る。
もうひとつ17年のパワーユニットで気になるのは、ホンダだけが採用していないTJI(タービュラントジェットイグニション)を投入するのかだ。この件に関して、長谷川総責任者は「あらゆる可能性をトライしている」と言うにとどまったが、「ライバルと同じことをやっても、追いつくことはできても追い越せない」と興味深い発言もしている。
長谷川総責任者は17年のエンジンは「すでにエンジンはベンチで相当回っていますが、問題もかなり出ています」とも語っている。それだけ、17年のホンダRA617Hはチャレンジングな設計となっているのではないか。それは、長谷川総責任者のこんな言葉にも表れている。
「17年に優勝できればいいですが、まずは表彰台に絡みたい。これは現実的な目標というより、狙わなければならないポジションです。でも、まだそこまでのレベルには達していない」
参戦するだけで精一杯だった15年。ようやくライバルたちと戦える位置でスタートを切った16年。果たして17年はどんな一年がホンダを待っているのだろうか。