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Underworld、「音量」で生んだダンスミュージックの高揚感 日本武道館公演を振り返る

2016年12月25日 13:02  リアルサウンド

リアルサウンド

Underworld(photo by Masanori Naruse)

 イギリスのエレクトロニックユニット・Underworldが11月9日、日本武道館にて来日単独公演を行なった。今年の8月に行われたサマーソニック東京ではヘッドライナーを務め、冷静と情熱がせめぎ合うエレクトロサウンドを披露して3万人強のフェス客を熱く踊らせた。それから3カ月しか経っていないにも関わらず再来日したUnderworldは、セットリストからステージパフォーマンスまで新たなものを用意して臨んでくれた。


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 幅広い客層が訪れたサマソニに対し、今回の武道館単独公演では、九段下駅二番出口を出たところから、二十歳過ぎの自分と同じ世代らしき人々はほとんど目にしないほど、三十代半ば以降の来場者が多い様子だった。96年公開の映画『トレインスポッティング』の劇中曲「Born Slippy」によるブレイクから、幕張メッセに何万人もの人々を集めてオールナイトイベントを開催した2000年代半ば頃までが、この国におけるUnderworldのピークタイムである。その時期に10~20代で、リアルタイムで彼らの音楽に大きな影響を受けた人々が、今回の初武道館単独公演に集まっているのだろう。そんな客層を意識してか、また武道館というおごそかで椅子席がメインの会場だったからか、今回の単独公演は基本的に盛り上がり方にとても落ち着きがあったのが印象的だった。


 開始予定時刻からすでにUnderworldらしいアシッドハウスのSEが流れ始め、会場も温まり始めた19時20分頃、カール・ハイドとリック・スミスは登場した。曲のタイトルが巨大LED映像に映し出されて演奏が始まったとき、その音質の良さに心が一瞬で奪われた感覚は今でも忘れられない。トラック内の一音一音が拾えてしまうほど鮮明に聴こえてくるサウンドは、何だか「見えちゃてる」感じがするのだ。まるでお風呂上がりのイケメンの裸を見てしまったような、ウブな興奮を覚えてしまった。


 過剰な煽りのない自然なスタートを切った1曲目「I Exhale」からマスター音量は低めで、冷徹かつ深みのある世界が繰り広げられていた。前半は今年3月にリリースされたアルバム『バーバラ・バーバラ・ウィ・フェイス・ア・シャイニング・フューチャー』から、ほとんど収録順に披露されていった。


 6曲目には早くも「仕事をするよ(笑)」というカールのMCとともに、日本でも代表的なアンセムである「Two Months Off」が演奏された。この辺りからアリーナの多くの人たちがゆっくりと、しかしとても嬉しそうに両手を広げ始めると、響き渡るマスター音量が少しずつ上げられていく。音量や音質でフロアをコントロールしていく様は、世界を回り続ける「チーム」の気概を感じさせる。


 そして「Jumbo」や「Push Upstairs」など往年のヒット曲が連発されるとアリーナ席、そして椅子席ともに、天井の日本国旗を震わせる勢いで熱量が上がっていった。それまでこちらの様子を伺う様だったカールのダンスも「Push Upstairs」のオーディエンスのノリに影響を受けたのかどんどん激しくなり、「King Of Snake」で両手をクロスさせるあのダンスでさらに武道館はピークへと導かれ始める。


 その後も中毒性のある深き四つ打ちの嵐が続き、その先にはグランドフィナーレとして「Born Slippy」が、八分音符とともにフラッシュする白い照明でキマりまくっている中、今までで一番の大音量で鳴り響いた。すべての人々がこの曲の中から自らの思い出と、ともに走って来た自らの人生を振り返り、またこれからも走り出そうと希望の力を放出しているような、感動的なライブのラストシーンだった。



 光るボールを大量に出現させ、スクリーンを駆使したサマソニの演出に比べ、ごくシンプルだった武道館での演出は、音響の仕事がとても映えていた。「音量」ひとつで、ここまで観客を操るのかと、PAエンジニアによる見事な仕事ぶりには感嘆するばかりである。リアルタイムのライブ感や、ダンスミュージックの高揚感の真髄を堪能できた。


 同期するビートを主軸として、演奏のほとんどをプリセットにしているエレクトロ・ミュージックのライブで、生々しさを醸し出したり、細やかなこだわりを高いクオリティーで表現するのは至難の技だ。そんな中、スマートに美しいライブパフォーマンスをやってのけるUnderworldは、やはり別格である。本場のダンスミュージックの凄まじさに、彼らが作ってきた神話の数々へ、想いを馳せずにはいられなかった。(クリオネ)