2016年12月25日 08:42 弁護士ドットコム
北海道積丹(しゃこたん)町の積丹岳(1255メートル)で2009年、遭難者の男性が道警による救助活動中に滑落し死亡する事故が起きた。最高裁判所第3小法廷(大谷剛彦裁判長)は11月29日、道側の上告を退け、計約1800万円の賠償を命じた2審判決が確定した。
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1審、2審判決などによると、男性は2009年1月31日、スノーボードをするために入山して遭難した。道警の山岳遭難救助隊によって、2月1日にいったん発見・保護された。ところが、下山を始めてすぐ、救助隊が雪庇(地面から張り出した雪の塊)を踏み抜いて、男性は乗せられた搬送器具ごと滑落。翌2日、凍死による死亡が確認された。
男性の遺族は2009年、道に対して約8600万円の損害賠償を求めて提訴した。1審、2審ともに、救助活動に過失があったことを認めていた。最高裁の決定はどんな意義があるのだろうか。また、今後の山岳救助活動にどのような影響をあたえるのだろうか。遺族の代理人をつとめた市川守弘弁護士に聞いた。
――最高裁の決定の意義は何か?
警察側があらそった争点は、(1)救助隊に遭難者を救助すべき義務があるのか、(2)義務があるとして本件ではどのような過失が認められるのか、という点でした。
(1)については、「救助隊員も命がけだから」というのが理由でしたが、1審札幌地裁、2審札幌高裁ともにこの主張を認めませんでした。
(2)については、札幌地裁は、要救助者を連れたまま雪庇を踏み抜いた点を過失としました。一方、札幌高裁は、雪庇を踏み抜いたあとの救助の最中に、ストレッチャーに乗せたまま40度近い斜面に要救助者を放置した点を過失としました。
いずれにしても、救助方法における注意義務の内容が詳細に検討され、認定されました。本件は「警察の山岳救助隊であっても、注意義務違反があれば責任を負う」という初めての判例として大いに参考になる事件です。
――今後の救助活動にどんな影響があるか?
警察の救助隊といえども、救助方法をはじめ、山岳登山技術などに習熟していなければならないという「当たり前」の判決といえます。日ごろの訓練や知識の習得、雪山では雪崩の知識など、「山岳救助隊としての態勢をとらなければならない」という常識的影響を与えるものと思われます。
――救助活動を萎縮させる可能性はないか?
それはまったくありません。山岳救助の一番の注意点は、二次遭難を防止することです。的確な知識・経験があれば、二次遭難の危険は察知できますし、その場合には救助を断念しても良いのです。
今回は二次遭難の危険がなかったのに、救助隊自らが雪庇を踏み抜いたり、ストレッチャーに乗せた要救助者を斜面に放置したりというおよそ信じがたい救助方法でした。
――今後、整えるべき制度はあるか?
日本には、魅力的な山岳地域がたくさんあり、一年中を通して登山者が絶えません。本件のような救助隊の実態を知ったら、登山者も減るのではないかと危惧します。やはり警察内に専門の山岳救助隊を創設し、日ごろから救助隊員の知識、経験を豊かにする制度が必要に思います。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
市川 守弘(いちかわ・もりひろ)弁護士
1988年札幌弁護士会登録、1999年から2002年までコロラド大学ロースクールの自然資源法センターに留学。これまで関わった訴訟は、えりもの森訴訟、やんばる訴訟、サホロスキー場造成訴訟(森林問題)、北見道路訴訟(道路問題)、沙流川水害訴訟、只見川水害訴訟(水害問題)、路木ダム訴訟、成瀬ダム訴訟(ダム問題)など。
事務所名:弁護士法人市川守弘法律事務所
事務所URL:http://www.mori-ichikawa.com/index.html