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『太陽を掴め』吉村界人×中村祐太郎監督が語り合う、映画新世代が感じていること

2016年12月24日 17:51  リアルサウンド

リアルサウンド

(左から)中村祐太郎、吉村界人

 吉村界人、浅香航大、岸井ゆきのが共演する映画『太陽を掴め』が12月24日に公開される。本作は、ミュージシャンのヤット、フォトグラファーのタクマ、タクマの元恋人ユミカの3人を中心に、都会に生きる若者たちにスポットを当てた“音楽”がテーマの青春映画だ。リアルサウンド映画部では、インディーズシーンで活躍しながら本作で待望の劇場映画監督デビューを果たした26歳の新星・中村祐太郎監督と、主人公のヤット役を演じた23歳の注目若手俳優・吉村界人の対談をセッティング。2人の出会いからお互いの印象、そして本作に対する自信についてまで語り合ってもらった。(編集部)


参考:岸井ゆきの、自身の演技スタンスとマーベル映画への愛を語る「ミュータントになりたいのかも」


■吉村「ビートルズや尾崎豊さんのインタビュー映像を参考にした」


ーーお2人は以前から知り合いだったそうですが、きっかけは?


中村祐太郎(以下、中村):2015年に映画祭「MOOSIC LAB」で『雲の屑』という映画を上映した時に、吉村くんが観に来てくれたんです。そのときは挨拶程度だったんですが、次の日にお茶をしようということになって、そこでいろいろ話をしましたね。


吉村界人(以下、吉村):普通に趣味の話とかをしましたよね。仕事も含めた現状に対して、お互いが思っていることが割と近かったんです。熱いものがあるというか。それで意気投合しました。


中村:でもその時は仕事の話はあまりしなかったよね。もっとパーソナルな話だった。その後、交流を深めていく中で「一緒に映画を作りたいね」という感じになっていきました。僕は『雲の屑』の次に、名古屋で助成金をもらって『アーリーサマー』という中編映画を撮ったんですが、それが結構暗い話だったんですよ。『雲の屑』も割と暗い作品だったので、その反動じゃないですけど、もっと拓けた作品を作りたいなと思っていたんです。その時にちょうど20代前半の役者さんたちがすごくエネルギッシュでいいなと思っていて、吉村くんのこともよく聞いていたので、とても刺激的な出会いだった印象があります。


吉村:僕も「面白い人だな、こんな人がいるんだな」って思いましたよ。愛に溢れているというか……。中村監督は言葉にするのがもったいないぐらい、本当に大きな存在だと思います。


ーー今回の作品は“青春”と“音楽”がテーマになっていますが、吉村さんが主演を務めることが決まってからそのような方向性になっていったんでしょうか?


中村:もともと自分の作る映画において、音楽はすごく重要な意味を持っていたので、なんとなくそうなるだろうなと考えてはいましたが、最初から吉村くんに歌ってもらおうとは思っていなかったんです。でも、その初めてお茶をした時に尾崎豊の話ですごく盛り上がったんですよ。そこで吉村くんに尾崎豊のようなイメージがわいたのがきっかけでした。


吉村:一緒にカラオケにもよく行っていましたね。監督はすごく歌が上手いんですよ。だから一緒にカラオケに行った時も「こうやって歌うんだよ」って教えてくれるんですけど、結局全然マイクを渡してくれないし、ほとんど自分で唄っちゃって(笑)。


中村:ははは(笑)。吉村くんの歌は上手いとか下手とかじゃなくて、説得力があるんですよ。彼がビートルズの曲とかを唄っているのを聴いて、すごくスクリーン映えするんじゃないかと思ったんですよね。実際、ライブパフォーマンスのシーンも「自分でやりたいようにやるのが1番カッコいいから、恥じらいなく胸を張ってやってくれ」って言ったら、本当にスターのようになりました。観客として来てくれたエキストラの方たちもすごく満足してくれたし、撮ってるこっちも感動してしまうほどで。


吉村:いや、必死だっただけですよ(笑)。今回演じさせてもらったヤットは、感情を爆発させることが多い人間だったので、まずはそこをきちんと作品の中で繋がるようにしないといけないなと思っていたんです。僕自身にはないものが多い役柄だったので。


ーー演じるにあたって参考にした作品や人物は?


吉村:作品はないですが、ボブ・ディランやビートルズ、それこそ尾崎豊さんのインタビュー映像はめちゃくちゃ見ていました。あと甲本ヒロトさん。ヤットのセリフには普段自分が言わないような、かなりしっかりしたものが多かったので、言葉に重みを持たせるためにそのような偉大な方々のインタビューは参考にしましたね。


中村:なるほど! やっぱりそういうミュージシャンって、いい感じの自信があるじゃないですか。見ているこっちが奮起させられたり勇気づけられたりする。ヤットの発する言葉は、観客の方たちが日ごろ感じている、少しうだうだした気持ちを代弁してくれるような部分もあるので、それはすごく効果的だったと思います。


■中村「映画はある程度のファンタジーを届けるもの」


ーー完成した作品をご覧になっていかがでしたか?


吉村:僕は映画が大好きなので、大きいものから小さいものまで結構いろいろな映画を観るんですけど、『太陽を掴め』はジャンルレスな、かなり異質な映画だなと。鑑賞後、決して晴れやかな気持ちにはならないんですけど、中村監督にしか生み出せない独特の雰囲気がある。僕自身すごく好きな作品ですね。いまや大スターのトム・クルーズやブラッド・ピットが若い頃に出演していた映画って、同じように独特の雰囲気があるんですよね。中でもフランシス・フォード・コッポラ監督の『アウトサイダー』みたいに、「これはこの時にしかできなかった映画だ!」と思えるような作品って本当にたまにしかない。そういう意味で、『太陽を掴め』は、まさに“記録する”、“その瞬間を収める”ような、刹那のある映画だと思うんです。それってめちゃくちゃ芸術として大事だなって。


中村:僕は、映画ってある程度ファンタジーを届けるものだと思うんです。だから映画を作る上で、いろいろな要素を混ぜていきながらひとつのファンタジーにすることを目指しています。でも今回は、吉村界人、浅香航大、岸井ゆきのという3人の力が大きかった。僕は陰ながら3人のことを“恐るべき子供たち”って呼んでいたんですけど、この3人だったからこそ、決められた尺度を突き破ることができたんじゃないかなと。僕自身も嫉妬してしまうぐらいに、3人のエネルギーによってこの映画の方向性が決定づけられたと思います。


吉村:中村監督と同じように、僕ら3人はそれぞれキャラが全然違うんですけど、映画に対する気持ちとかいまの自分に対する歯がゆさとか、割と考えていることが同じだったんです。そういうことが共有できたので、一緒に仕事ができて本当に良かったなと思いますし、尊敬しています。僕は、“塗り替えるのは僕らの世代”という言葉を座右の銘にしているので、そういう意味でも同世代の彼らとの仕事はとても刺激的でした。いろいろな先輩方を見てきて、「昔は良かったな」と思うことももちろんあります。でも、僕としては過去も未来も欲しくないんですよ。欲しいのは“いま”。だから僕らが塗り替えるしかないというのは本当に思っていて。世代で分けるのもどうかとは思うんですが、正直「昔はよかった」なんて言いたくないし、来年にはよくなっているとも言いたくないんです。


中村:そういう意味では、この『太陽を掴め』という作品は日本映画の枠組みで考えるとすごくノイズだなと思います。もちろんいい意味ですけどね。若者たちを中心に1本の映画を作って、ずっと“イエス”だと思っていたことに対して、ひとつ“ノー”を提示した。まだ公開前(※取材日は11月中旬)でこの映画の影響は何も感じ取れていないんですけど、僕の中では「揺さぶってやったぞ!」という気持ちは強く持っています。(宮川翔)