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空想委員会、「色恋狂詩曲」で見せた美学と意思 話題の恋愛シミュレーションゲーム型MVから分析

2016年12月23日 15:01  リアルサウンド

リアルサウンド

空想委員会

 自身の体験や空想をもとに音楽を創作。ときに儚く、ときに毒々しい、リアルな歌詞が高い共感を呼んでいる3人組ギターロックバンド、空想委員会。彼らが12月21日にリリースするEP『色恋沙汰の音沙汰』のリード曲、「色恋狂詩曲」のミュージックビデオがYouTubeで公開され話題となっている。パソコンで視聴することにより、“恋愛シミュレーションゲーム”として遊ぶこともできる、インタラクティブ動画となった本作は、公開1週間でなんと40万再生を突破。『新曲再生回数ランキング』の12/7付けチャート(http://music-pv.com/day_ranking_new/142212)では、NMB48、ONE OK ROCKを抑え、1位を獲得している。


 この作品は、キングレコード株式会社、株式会社エルブリード、Movie Creatorの太田タイキ氏からなる共同プロジェクト。YouTubeの動画上に設置することができるリンク機能“アノテーション”を利用しており、冒頭に登場する3人の女の子の中から好きなキャラクターを選択し、実際にゲームを楽しむことができる仕組みになっている。


 途中、ストーリー展開に合わせて選択肢が複数出現。例えば、デートコースを「海辺を散歩」か「横浜中華街を散策」かで選んだり、待ち合わせの場所になかなか来ない彼女に「電話をする」か、「そのまま辛抱強く待つ」かで選んだり(そのために制作した動画は合計47本)。どちらの選択肢を選ぶかによって、ストーリーは分岐していくため、最終的には20通り以上のエンディングが用意されているという。


 見事ハッピーエンドになると、EP『色恋沙汰の音沙汰』収録曲が流れるエンドロールが観られるのだが、キャラクターごとに訪れるハッピーエンドの確率は、わずか12パーセント。筆者も実際にチャレンジしてみたところ、3回トライして3回とも見事に撃沈してしまった……。シミュレーションとはいえ、女の子にフラれる画面を見るのはなかなかキツく、思わずムキになって何度もチャレンジしたくなる。そういえば、一時期ハマった『ときめきメモリアル』も、そんな要素のあるゲームだったなあと、懐かしい気持ちにもなった。


 ストーリーの各所には、恋愛あるあるシチュエーションはもちろん、空想委員会ファンなら思わずニヤリとしてしまうような仕掛けも散りばめられているという。女の子を典型的なキャラクター3種類に「分類」し、様々なシチュエーションを設定しながら「攻略」していく。「そんなバーチャルなゲームで上手くいったからって、実際にモテるわけでもないのに」などというツッコミも“込み込み”で、“非モテのエンターテイメント”に仕立て上げる。こんなことが出来るバンドは、空想委員会の他にいないだろう。


 さて、本EP『色恋沙汰の音沙汰』には、「色恋狂詩曲」をはじめ新曲3曲に加え、アマチュア時代の人気楽曲「上書き保存ガール」(収録されていた自主制作盤は既に生産終了)をリアレンジして収録。初回限定盤と通常盤の2仕様で、通常盤にはインディーズ時代に発表し、彼らのアンセムとして高い人気を誇る「波動砲ガールフレンド」が、アコースティック・アレンジで収められている。


 リード曲「色恋狂詩曲」は、印象的なファルセット・ボイスから始まるファンキーなイントロが、唐突にテンポチェンジし歌へとなだれ込むという予想外の展開。これが、聴けば聴くほどクセになる。歌詞は、〈去り際を潔く〉しようとした結果、〈「あなたは 一度も 本音を言わない」〉と彼女に言われ、〈僕の美学〉が〈打ち砕〉かれてしまうという三浦隆一(Vo、Gu)らしい世界観。恋愛の正解を自問自答し過ぎて裏目にでるという、まさに恋愛シミュレーション仕立てのミュージックビデオとリンクするものだ。が、この曲はそこで終わらないところがポイント。〈最初で最後のわがまま 嫌われても構わない〉〈その手を掴みたい〉と、自問自答からその先の一歩へ踏み出す意思が書かれているのだ。


 続く「ロマンス・トランス」は、シンセベースをフィーチャーしたEDM風のハードなナンバー。片思いの妄想が爆発した歌詞だが、「妄想だって、ときには圧倒的なモチベーションになり得る」という、非常に前向きな内容となっている。意中の女性が別の誰かに恋をし、綺麗になっていくのを歯噛みしながら見守りつつ、〈いつか全てを振り向かせるよ まだまだ足りないけど〉と控えめながらも宣言する「見返り美人」にも、「色恋狂詩曲」と同様に“一歩を踏み出す意思”を感じさせる。この辺り、過去曲である「上書き保存ガール」の歌詞と比較してみても面白い。


 「叶わぬ恋・失恋」の美学を歌いつつ、そこから脱しようと足掻く姿の切なさ、滑稽さまで描いた『色恋沙汰の音沙汰』。だからこそ本作は、これまでの彼らの作品よりいっそう心を打ち、深い感銘を覚えるのかもしれない。(文=黒田隆憲)