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「ポッピンQ」宮原直樹監督インタビュー 青春にダンスにアクション、多角的に楽しめる成長物語

2016年12月22日 13:22  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「ポッピンQ」宮原直樹監督インタビュー 青春にダンスにアクション、多角的に楽しめる成長物語
東映アニメーション60周年記念作品『ポッピンQ』が12月23日より全国公開される。
中学3年生の伊純をはじめとした少女5人が“時の谷”に迷い込み、様々な世界の時間を司るポッピン族と出会う。謎の敵 キグルミのせいで危機に瀕しているという彼ら。“時の谷”を守り元の世界に戻るには、伊純たちが心をひとつにしてダンスを踊ることが必要らしいが……。
思春期の少女の葛藤、日常と異世界が織りなす成長物語を届けるのは、これまで『デジモンアドベンチャー』『ドラゴンボールZ』のほか『プリキュア』シリーズのダンス映像などを制作してきた宮原直樹監督。初のオリジナル作品への意気込みや制作の裏側について聞いた。
【取材・構成:川俣綾加】

『ポッピンQ』
12月23日(金・祝)全国ロードショー
http://www.popin-q.com


■ダンスは言葉より先に生まれた想いを伝えるツール
──『ポッピンQ』で描かれているテーマのひとつに「卒業」があると思います。なぜ今「卒業」を描こうと考えたのでしょうか。

宮原直樹監督(以下、宮原)
5年前に企画が立ち上がった時から「『卒業』を描こう」と決めていました。東映アニメーションが常に作っている「子どもに楽しんでもらえるアニメーション」の中でも少し大人寄りの作品にしようという意図です。『成長』を描く上で、色々な経験を経てひとつの節目を迎えるようなものにしようかと。勿論プリキュアを見ている子供達に楽しんでもらえるような仕掛けもたくさん盛り込みました。

──同位体のポッピン族などプリキュアの遺伝子はすごく感じました。

宮原
そうですね、色々と共通した要素は見出せると思います。ストーリー面でのプリキュアには深くは携わっていないので両者の差は提示できませんが今作のポッピン族は、迷い込んだ異世界でのガイド役。伊純たちと心が繋がっていて、思っていることが伝わってしまうのでストーリー上は都合よく動かせるけれど伊純たちにとっては嬉しくないですよね(笑)。そこもお互いの関係性に良いスパイスになるのではと、このような形にしました。

──黒星紅白さんがキャラクターデザインを担当したことも注目を集めたと思います。

宮原
僕がもう大好きで。プロデューサーに提案してお願いしました。

──黒星さんを知ったのは何がきっかけだったんですか?

宮原
『プリキュアオールスターズDX 3Dシアター』のイベント映像を作った時に、黒星さんがプリキュアのファンアートを描かれていて、それをネットで公開していたのを見かけたんです。なんて魅力ある絵を描く方なのだろうと思って調べたのがきっかけです。

──どんなところが魅力だと感じたのかもお聞きしたいです。

宮原
今時の絵でありながらクラシカルでもある。女性の体のラインを描いても嫌な絵にならない。絶対的な清潔感があるのでこの作品に合致していると思いました。


──東京国際映画祭で今年初めて開催された「TIFFアニ!!」にも宮原監督は出演していましたね。「まずはダンスを見せたい。そこからお話を考え始めた」とおっしゃっていましたが、ダンスを中心に据えたのはなぜですか?

宮原
女の子たちが色んなことで悩んで、それを乗り越えて心を通わすための存在としてダンスがあります。ダンスの授業必修化に伴い「ダンスを初めて教える指導者向け講習会」が開かれていて見学させて頂いたのですが、その時の「ダンスは言葉よりも先に生まれた。想いを伝えるために体を使って表現したことをルーツだとする説がある」という講師の言葉がすごく印象に残っていて。気持ちを伝えるツールとしてのダンス。まさにこれだなって感じました。バラバラだった伊純たちがダンスを通して結束していく姿をドラマチックに描けるかなと。

(次ページ:ダンサーによるキャラクターへの理解が不可欠)

■ダンサーによるキャラクターへの理解が不可欠
──これまでにも『映画 プリキュアオールスターズDX2 希望の光☆レインボージュエルを守れ!』など、プリキュア作品でCGアニメーションによるダンスシーンを手掛けてきたと思います。改めて、アニメーションでダンスをやる面白さを宮原監督はどう感じていますか。

宮原
アニメーターをやっていたのでひしひしと感じるのは、手描きの作画でダンスを描くのってすごく大変なんですよね。もちろん凄腕の方が時間をかけて描けばいいものができるとは思うんですけど。

──それでもすごい工数になってしまいます。

宮原
大変ですよね。それがCGを使うことで実際に踊った動きがそのままに画面に再現できることはとても強みです。以前はCGキャラクターモデルの再現度が低くて、一度モーションキャプチャーしたものを手描きで再度描いて……。そんな作業もありましたが、今はすさまじい進化を遂げているのでCGのまま最終映像まで持っていけます。仕事の道具ではありますが気持ち的には凄く贅沢で面白いオモチャですよ!(笑)

──オモチャ(笑)

宮原
ダンスを踊ってくださる役者さんにお願いすれば、それを画面に直接反映できますから楽しいです。音楽映画、僕らの世代でいうなら『サタデー・ナイト・フィーバー』や『フットルース』のような、画面と音楽がシンクロする楽しさを出せていたら嬉しいです。そのへんはみなさんの評価待ちです(笑)。ダンスの面では、『リトル・ダンサー』のビリー・エリオットくんの「踊りたい」と強い気持ちがダンスに表現されていて素晴らしかった。そこからも影響を受けています。


──素朴な疑問なのですが、モーション撮影で踊る方はどこで見つけてくるんですか? キャラクターの性格を理解した上でそれに合った踊りができる能力、ダンス以外の要素も求められる気がします。

宮原
今回はキャラクターごとにアクターさんがいて、例えば伊純だったら運動神経はいいけどダンス経験は無いからなかなか踊れず首のアイソレーションができないなどのシーンも。沙紀は一度みれば何でも覚えられるし、蒼は運動神経は悪いけど振りを覚えるのは早いとか。ダンスの下手さもいい形で表現してもらいました。

──そういった理解をした上で踊ってくださるんですね。

宮原
モーションを収録させて頂いたのは、プリキュアのショーをやっているスーツアクターさんたちなんですよ。日本でも屈指のスーツアクターの方々で、アクションもダンスもプロフェッショナル。彼らのプリキュアショーはキャラクターごとの踊り分けやアクション、芝居など、とにかく素晴らしいんです。

──スーツアクターならそうした理解もあって、動きもプロ。なるほど!

宮原
以前携わったプリキュアのEDはこれとはまた異なるアプローチで、スーツアクターではなくダンサーの方に依頼しています。キャラクター性の表現は勿論ですが、よりダンスの完成度を優先するイメージですね。

──『ポッピンQ』ではダンスに不慣れな様子も表現されていました。

宮原
踊りやアクションのプロの方達なので、やっぱり「敢えて下手に踊る」のは難しかったと言ってました。でも試写を観てもらったら、難しかった部分が画面できちんと表現されていたと言われて安心しました。


■「描ける」自信があるから道具を見直す
──伊純たちが“時の谷”でそれぞれ能力を手に入れます。伊純はストレートな力を手にしたなと思ったのですが、他の4人はもう少し違った面白い能力ですね。

宮原
これは伝わるかわからないですが、それぞれの能力がそれぞれの壁を打ち破るヒントとなるものなんですよ。ウジウジしてないで楽しめ、仲間と想いを共有しろ……など。


──言われてみれば確かに! それがCGと合わさって爽快な表現になっています。

宮原
ダンスとアクションを盛り込んだ、幕の内弁当にしています。どちらも絶対にやりたかったものです。

──映像表現として特にこだわった部分があれば教えてください。

宮原
アニメーターのみなさんが、この作品ではさらに上を目指そうと工夫してくださいました。たとえば原画の用紙サイズ。普段使っているものより少し大きいです、たぶん110%くらいかな。フレームを大きくして、紙質もこれまでより薄いものにすることで綺麗に下の絵が透けるように。鉛筆、消しゴム、紙など選定の段階から見直してスタートしました。そうやって描かれた原画をスキャンする時も解像度を上げ、仕上げデータも解像度を高く。アニメーターが描いた線や動きがダイレクトに画面に表れるようにしています。

──スタッフの気合いが伺えます。

宮原
ただこれは諸刃の剣で、上手く描けないとそれもストレートに出てしまう。きちんと描けるという自信の上でやったことです。その成果はみなさんの目で確かめて欲しいですね(笑)。撮影スタッフも作画の気合いに応えるべく光の入り方を工夫してくれたので、非常にリアルな画面になっています。音楽も画面をある程度完成させた上で作ったので、キャラクターの動きや心情にぴったりハマった素晴らしいものになっています。サウンドトラックが出たら絶対に買います、僕(笑)。画と音楽、両方に注目して欲しいです。

──最後に、読者にメッセージをお願いします。

宮原
『ポッピンQ』は青春映画、アクション映画、ダンス映画、音楽映画など色々な角度から楽しめる、多面性のある映画です。15歳の女の子たちが、昨日まで言えなかった「ありがとう、ごめんなさい」と勇気を振り絞ってようやく言えるようになる。本当は世界を救う大仕事をしたけれど、彼女たちにとっては小さな一歩を踏み出した、そういう物語です。多様な形をしていますがとてもシンプルなお話。気軽に楽しめるので、ぜひ劇場で観てください!