2016年12月22日 10:22 弁護士ドットコム
政府は12月20日、働き方改革実現会議を開き、「同一労働同一賃金」の実現に向けたガイドライン案を示した。基本給について、支給基準を職業経験・能力・業績・成果・勤続年数などの観点から同一に判断し、正規・非正規で不合理な差が生じないよう求めている。
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賞与については、会社への貢献度が同じなら正規・非正規にかかわらず同一の支給をすべきだと明記。昇給についても、本人の能力が上がれば非正規にも実施するよう求めた。一方、退職金や住宅手当の扱いには触れていない。
今回のガイドライン案について、労働問題に取り組む弁護士はどう考えているのか。倉重公太朗弁護士に聞いた。
一言で言えば、日本型雇用の「終わりの始まり」だと感じました。特に、年功序列制度の破壊を強く意識させる内容となっています。
これまでの年功序列の日本型雇用制度のもとでは、「年次が重なれば職務遂行能力が高まる」という考え方が基礎にありました。
しかし、今回のガイドラインは、「年次が高まることによって、どのような職業能力が身につくのか」という点を具体的に提示しなければならないとしています。
ガイドライン中の次の部分です。
「『無期雇用フルタイム労働者と有期雇用労働者又はパートタイム労働者は将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる』という主観的・抽象的説明では足りず、賃金の決定基準・ルールの違いについて、職務内容 、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして不合理なものであってはならない」
要は、単に「年次を積み重ねている」のではなく、「どのようなスキル・経験が身についているか」を具体的に提示する必要が出てくるということです。
これまでの、旧来的な日本型雇用においては、正社員の給与が非正規の給与よりも高いのは当たり前だと考えられてきました。
基幹的なメンバーシップか、雇用調整のための臨時的雇用かーー。『正社員だから』という理由だけで、給与が高いことが当然とされてきたのです。
しかし、今後は「なぜ高いのか」という点について、その労働者の能力や経験などの合理的な理由を具体的に説明できなければなりません。
こうした変化は、賃金体系について、スキルや具体的経験により説明することが求められるグローバル化を見据えればむしろ当然ですが、中小零細企業にとっては対応に苦慮するところもあるでしょう。
また、ガイドラインそれ自体は欧州のそれにならっていますが、そうであれば解雇の金銭解決など、雇用関係を終了する場面についても、欧州と同様の制度を検討する必要があると思います。
日本では、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない解雇は、権利を濫用したものとして無効とする「解雇権濫用法理」があり、労働者を解雇するハードルが欧州に比べて高いのです。
雇用の終了場面が現状の制度のままで、賃金の面のみ欧州の考え方をとりいれることは、日本企業にのみ過重な負担を課すことになりはしないかと危惧しています。現在の働き方改革に代表される、非正規雇用の処遇改善と日本企業の成長戦略、これらは相反するものではなく、この両者のバランスを取った政策こそが求められると考えています。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
倉重 公太朗(くらしげ・こうたろう)弁護士
慶應義塾大学経済学部卒業。第一東京弁護士会所属、第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会( JSHRM)執行役員、経営法曹会議会員、日本CSR普及協会労働専門委員。労働法専門弁護士。労働審判・仮処分・労働訴訟の係争案件対応、団体交渉(組合・労働委員会対応)、労災対応(行政・被災者対応)を得意分野とする。企業内セミナー、経営者向けセミナー、社会保険労務士向けセミナーを多数開催し、著作は20冊を超える。代表作は「企業労働法実務入門」(日本リーダーズ協会)
事務所名:安西法律事務所