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乃木坂46のクリスマスライブが提示した、選抜・アンダーそれぞれの「広がり」

2016年12月21日 18:12  リアルサウンド

リアルサウンド

(写真=(C)乃木坂46LLC)

 乃木坂46が12月6日から9日までの4日間にわたって、日本武道館で『Merry Xmas Show 2016』を開催した。昨年にもまして、女性アイドルシーンの中心的な存在としての立場を築いた2016年を締めくくるこのライブで、乃木坂46は過去にない趣向を試みた。それが“選抜単独公演”だ。選抜/アンダーという視点で見るとき、この数年の乃木坂46のライブに関してまず挙がるのは、アンダーメンバーの活躍だった。さまざまなマスメディアでグループの顔として立ち回る選抜メンバーとは異なる強みとして、2014年春から始まったアンダーライブは、アンダーメンバーの大きな武器になってきた。すでに一昨年、昨年と年末の大会場ライブでは、グループ全体のライブに先んじてアンダーメンバーのみの公演が組まれている。翻って、選抜メンバーのみの公演の実現までには、意外なほどの時間をかけていることになる。


 満を持しての選抜単独公演は4日間の公演のうち、1日目と3日目に組まれた。この2公演で選抜メンバーがまず見せつけたのは、デビューから4年半以上の歳月で蓄積してきた、タレントとして、個々のパフォーマーとしての強さである。それを示すのが各日のセットリスト前半に行なわれた「一人一曲プロデュース」企画だった。


 これは各メンバーが乃木坂46の楽曲を一曲ずつ主導し、オリジナルの演出で披露するものだが、ここで楽曲に施された演出の方向性はそれぞれ大きく違っている。ストイックなソロダンスを見せた伊藤万理華(「不等号」)や、アルバム曲を自身の色に塗り替えた桜井玲香(「欲望のリインカーネーション」)のように、ストレートに格好良さを志向するパフォーマンスもあれば、白石麻衣・松村沙友理とともに、メンバー構成の妙を見せた橋本奈々未(「Threefold choice」)のような趣向もある。あるいはあえて拙さを強調した振る舞いを見せ、それを楽曲終盤の展開への振りにつなげた秋元真夏(「オフショアガール」)、さらには本人の歌唱よりも、楽曲を用いつつメンバーたちによるバラエティ的な競争企画を仕立て、そこに本人の飄々としたパーソナリティをフィットさせた齋藤飛鳥(「人はなぜ走るのか?」)などのアクトを見ると、ここでは単に一人一人が中心に立つばかりでなく、各メンバーと楽曲を起点にして、いかにその時間を演出してみせるかが鍵になっていることがわかる。


 それは何より、キャリアを重ねながら、数多くの場で乃木坂46のアイコンとして活動し、知名度と存在感の強さを高めてきた各メンバーの力があってこそ成り立つ時間だっただろう。今年もまた、楽曲でも映像作品でも高水準のコンテンツを送り出してきた乃木坂46だが、その一方で昨年以上に世間に広く浸透するなかで、各人がジャンルにかかわらず「タレント」としての実力もつけてきた。だからこそ、「一人一曲プロデュース」という企画は贅沢さをたたえたものになった。もちろん、「今、話したい誰かがいる」から始まるライブ冒頭や、「君の名は希望」から展開する終盤のシングル表題曲パートで見せる絵面は強く、選抜単独公演は2016年現在の彼女たちのメジャー感をあらためて確認するライブだった。


 今年は4日間の公演が、選抜とアンダーそれぞれ2本の公演に割り振られている。例年であればアンダー公演が行なわれたのちに、乃木坂46全体でのライブを組んで年を締めくくっていた。つまり、今年については年末ライブでグループ全体の姿を見せる機会を作らない選択をしたということになる。年末のアンダーの単独公演は2014年から行なわれ、以降も続くライブによって「アンダー」の意味や価値を確実に変えてきた。しかし、そのアンダーライブを単に選抜への「対抗」として位置づける段階もすでに過ぎ、乃木坂46総体としての厚みを増してきた今、あえてライブに関して選抜/アンダーをはっきり分けて提示することでどのような景色が見えるのか、事前には予測しにくい部分もあった。


 それを好転させたのが、今回のアンダーライブの2公演でセンターを務めた寺田蘭世だった。2016年のアンダーライブはここまで、東北・中国地方への進出によって新展開を迎え、またライブ一本を通して演劇性を高めた演出によって世界観を作る、昨年までとは異なったフェーズに入っていた。寺田はそれらのライブでフロントとして活躍してきたが、センターとして公演を担うのはこの『Merry Xmas Show 2016』が初めてになる。タイミングとしては直近の16枚目シングルにおけるフォーメーションに基づいたものだ。しかし、アンダー公演が4日間のうち2日目および4日目にあたるため、日本武道館で行なわれる乃木坂46の今年のライブの締めを、彼女をセンターに据えて迎えるということでもある。それが見事に彼女のポテンシャルを一段上に引き上げた。センターに立ち、スクリーンに大写しになる寺田の表情は、すでに次代の顔になる準備ができているように感じられる。16枚目のアンダーセンターとしてばかりではない、次代へ向けた一歩としてここで誕生したセンターの意味は大きい。


 次代を担う軸が見出されたことは、彼女一人だけではなく、メンバー全体へと波及する。中心が明確に定まることは、そこを基点にしながらそれぞれのメンバーの立ち位置や色合いを再構成する機会になる。寺田の抜擢に引っぱられるように、他の2期生メンバーたちも線の太さを身につけて力強さを見せた。ただしまた、年末のアンダー公演の恒例となり、今回は全員が表題曲をパフォーマンスした「全員センター」企画では、一期生メンバーたちの表現力の確かさを再確認することにもなった。もともと高評価を受けるアンダーライブだが、アンダーメンバーのイメージを固定化させないこともまた、継続のためには重要である。寺田という新たなセンターの起用をきっかけに期待するのは、寺田自身はもちろんのこと、アンダー各メンバーが充実度を維持しながら、新しい顔を見せることだろう。


 選抜、アンダーの公演が見せた「現在」は、それぞれに違う姿をしている。過去最高の充実度を見せる乃木坂46の顔としての選抜メンバーは、タレントとしての強さを見せながら、同時にここしばらくの表題曲を通じて作り上げてきた「作品」としての水準の高さをステージで成立させてみせる。それがグループの、対世間に向けての最も「成熟」した部分だとするならば、アンダー公演は寺田を軸にして、次のスタイルを見せる準備ができていることを示した。また寺田の存在は、選抜とアンダー、1期生と2期生、2016年と2017年など、いくつもの要素を接続させて考えるためのポイントになるだろう。今年の武道館ライブは、ラストに歌われる楽曲「乃木坂の詩」も、グループ全員でのパフォーマンスを見ることはなかった。しかし、それでもなお、選抜公演とアンダー公演を重ねた4日間の道程は乃木坂46が現在持っている広がりを総体として一覧させるものになっていた。(香月孝史)