2016年12月21日 12:52 弁護士ドットコム
フジテレビは12月19日、同局の社会部記者だった社員が、取材対象者から接待を受けて、自動車の購入のために名義を貸していたと発表した。この取材対象者は「暴力団関係者」とみられる。
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フジテレビ企業広報部によると、社員は2014年春ごろ、取材の過程で「暴力団の事情にくわしい人物」として、この取材対象者と知り合った。それ以降、東京都内の高級飲食店で、20回以上「過剰な接待」を受けた。この人物から依頼を受けて、高級車の購入のために名義を貸していたという。
すでに記者職から外された社員は「反社会的勢力(暴力団関係者)であると認識していなかった」と説明したということだが、同局は「記者と取材対象者の関係として不適切なものだった」と謝罪した。今回のケースは法的に問題なのだろうか。民事介入暴力の問題にくわしい村田純一弁護士に聞いた。
「各都道府県の暴力団排除条例(暴排条例)には、暴力団に対する利益供与を禁止する規定があります。
この禁止規定の一つに『事業者は、事業に関し、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなることの情を知って、暴力団員に利益供与をしてはならない』というものがあります。
ただし、この規定に反した場合の制裁は、東京都を含め多くの条例では、公安委員会からの勧告と、勧告があったにも関わらず利益供与をした場合の公表等に留まります。つまり、刑事罰はありません」
今回は利益供与にあたるのか?
「利益供与となるのは、あくまでも『暴力団の活動を助長したり、その運営に資するもの』です。
たとえば、暴力団員が日常生活に使う軽自動車の名義貸しくらいでは、暴力団の活動を助長するとまではいえないでしょう。
一方、暴力団同士の会合に高級車に乗った組長が集まってくるというシーンが、現実にもヤクザ映画にもあります。このような使われ方をされる自動車であれば、確実に暴力団の活動を助長するといえるでしょう。
今回がどちらのケースに近いかは即断できませんが、問題の自動車が高級車とされているので、後者のケースに近いといえるかもしれません。
なお、問題の元記者は、陸運局の自動車登録ファイルに虚偽の所有者名義を申告もしくはこれに協力したことになりますから、理屈のうえでは、電磁的公正証書原本不実記録罪など、刑法上の犯罪をおこなったことにはなります。もっとも、捜査機関がこのようなケースで元記者を立件することは考えにくいです」
報道機関にとって、暴力団関係者を取材対象とすることはありうることだ。どういう関係を保つべきだろうか。
「今回の記者への非難は避けられないでしょう。一方で、報道機関の『取材の自由』は極めて重要な権利であり、暴力団関係者に積極的に接触して取材をすることも、あながち否定されるべきではありません。
したがって、暴排条例の利益供与規定によって、報道機関がおこなう暴力団に対する取材などに委縮効果が生じるのは好ましくないと思います。
仮に、報道機関側に利益供与を理由とする制裁がなされた場合、憲法上保障された『表現の自由』『取材の自由』を侵害しているという議論が生じる可能性もあると思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
村田 純一(むらた・じゅんいち)弁護士
関東弁護士連合会民事介入暴力対策委員会委員・千葉県弁護士会民事介入暴力被害者救済センター委員。一般民事事件、家事事件、刑事事件等を取扱う。
事務所名:誠法律事務所
事務所URL:http://www.law-makoto.com/