トップへ

中卒の私が「高卒」と偽り金融機関に転職、罪悪感の日々…学歴詐称は犯罪?

2016年12月21日 10:32  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

中卒の私が「高卒」と偽って金融機関に就職したものの、罪悪感から退職。学歴詐称は罪になるのでしょうかーー。弁護士ドットコムライフの体験談募集ページにそんな相談が、届きました。


【関連記事:不倫で「慰謝料600万円」請求された29歳女性、「5回も堕胎したから減額して!」】


相談を寄せた女性によれば、転職活動を検討していたところ、知人に声をかけられて金融機関の採用面接を受けることになりました。問題は「高卒が条件」だったこと。女性は中卒だったのです。しかし、その知人や配属先となる部署の人たちから「適当に学校名を書けば良い」と言われ、ためらいながらも「生活の為にも転職が必要な環境下だったので履歴書に卒業していない学校名を書きました」。


面接にも合格し、仕事をする上でも何ら問題はなかったそうです。むしろ、罪悪感をバネに仕事に取り組み、実績をあげていったそうです。ところが次第に「嘘をついている」という罪悪感に苦しめられることになります。自分がしたことは詐欺ではないかと疑い、「精神的に崩壊し、最終的には離職しました」。離職した今も、履歴書を書くのが怖いといいます。


そこで女性は、弁護士に次のような質問をします。「学歴条件つきの会社に詐称して就労して、実績を残したとしても、罪に問われるのでしょうか」。もし罪には問われないとしても、他に法的な問題はあるのでしょうか。また、会社が募集条件に学歴を設けること自体に法的な問題はないのでしょうか。森田梨沙弁護士に聞きました。


 ●「詐欺罪」「私文書偽造罪」は成立するのか?


今回のケースでは、刑法上の犯罪が成立する可能性は低いと思われます。


詐欺罪や私文書偽造罪が成立すると思われる方もいるかもしれませんが、詐欺罪は単に人を騙しただけでは成立せず、「人を欺いて財物を交付させた」ことが必要です。今回のケースでは、給与を受け取っていたとはいってもそれは労働の対価であって、会社を欺いてこれをだまし取ったとは言えません。


また、私文書偽造罪が成立する「偽造」とは、他人の名義を偽って文書を作成することを言います。履歴書に偽りの学歴を書いていたとしても、単に、真実に反する文書を作成しただけでは、ここでいう「偽造」にはあたりませんので、私文書偽造罪もやはり成立しません。


 ●「懲戒解雇」の可能性は?


もっとも、今回のケースで、会社の就業規則に「重要な経歴を詐称して雇用されたときは懲戒解雇とする」という条項が定められている場合には、これによって懲戒解雇とされる可能性はあります。


ここでいう「重要な経歴」とは、社員の採否の決定や採用後の労働条件の決定に影響を及ぼすような経歴であり、偽られた経歴について、通常の会社が正しい認識を有していたならば雇用契約を締結しなかったであろうといえるような経歴を意味します。


一般に、学歴はこれに該当すると考えられますが、職種や、採用の学歴条件が明確にされていたか等の事情によって、懲戒解雇が可能かどうかの判断は変わってくることになるでしょう。


 ●募集条件に「学歴」を定めることは?


会社側が採用の条件として学歴を設けること自体に法的な問題はありません。


裁判所は「(企業は)いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができる」として、採用の自由を原則的に認めています。


また、別の裁判例では、学歴について「経歴の中でも最終学歴が、労働者の資質、能力を判断するための重要なる要素であることは一般に承認されているところである」と判示したものもあります。




【取材協力弁護士】
森田 梨沙(もりた・りさ)弁護士
中小企業法務、労働案件、一般民事(交通事故、不動産、離婚事件他)など幅広く手掛ける。事案の早期解決及び予防法務の観点から、依頼者と密なコミュニケーションをとることを常に心がけている。趣味はゴルフと漫画。
事務所名:共進総合法律事務所
事務所URL:http://www.kyoshin-law.com/index.html