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星野源はなぜ“踊る”のか? 逃げ恥「恋ダンス」で示した、新たなポップスター像

2016年12月20日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

星野 源『恋』(通常盤)

 最近の星野源は、よく踊る。


 ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)のエンディングの「恋ダンス」はもちろんのこと、自身が出演する「ウコンの力」のCM、『YELLOW DANCER』収録曲や「夢の外へ」「化物」のMV、そしてライブでも、星野源は踊っている。曲を作って歌って踊るーー今の星野源にとって、その3つの要素が音楽表現の軸となっている。


 「恋」をはじめ、星野源のほとんどのダンスの振付を担当しているのは、PerfumeやBABYMETAL、そして今年8月に行われたリオオリンピック閉会式の『トーキョーショー』総合演出も手がけたコリオグラファーMIKIKO。3人組であるPerfumeとBABYMETALは、それぞれの動きはもちろん、3人の一糸乱れぬフォーメーションが、パフォーマンスの見どころとなっている。


 ダンス・ユニットがアートフォームとしての美しさを追求する一方、星野源が踊るダンスには、また違った魅力がある。もちろん、彼の動きにはキレがあるし、MIKIKO率いるダンスカンパニー・ELEVENPLAYの女性ダンサーも、指の先まで神経が行き届き、大胆さと繊細さが行き来するようなメリハリの効いた動きは完璧だ。しかし、星野源のダンスを見て沸き上がってくるのは、見とれてしまうような圧倒感ではなく、むしろ「自分も踊りたくなる」という、親しみやすさではないだろうか。


 「恋ダンス」は、上半身のチャーミングな動きと足元の簡単なステップで成り立っている。星野源やガッキーの様子からは踊ることの楽しさが溢れていて、TVの前でつい手の動きを真似したくなるようなキャッチーさがあるのだ。<夫婦を超えてゆけ/二人を超えてゆけ/一人を超えてゆけ>という、「恋」において最重要フレーズと言える部分も、指の動きによってしっかりと可視化されている。そして、彼らが踊るのは、非日常の特別なシーンではなく、“部屋”という日々暮らしを営んでいる場所。「SUN」のMVも前半では同じく部屋が、「時よ」のMVは駅のホームがそれぞれダンスの舞台となっていて、どちらも生活の一部がダンスホールとして演出されているのだ。星野源は、ダンスを特別なものとしてではなく、「誰もが、どんな場所でもできるもの」として、自らも踊ってみせた。


 星野源はミュージシャン活動と同時に、2000年過ぎから松尾スズキ主宰の「大人計画」に所属し、演劇人としても活躍してきた。当時は舞台を中心に、今年に入ってからはNHK大河ドラマ『真田丸』に出演し、『逃げ恥』では主演を務めた。演者としてもキャリアが長く、その実力も高く評価されている。今回の『逃げ恥』の津崎平匡役は、星野源の飾り気のない自然体な容姿と、コミカルな仕草や表情とが相まって、この3カ月間にわたってお茶の間を騒がせてきた。「演じる」という身体表現をもともと持っていたからこそ、星野源が音楽と共に踊るようになったのは、自然な流れだったように思う。


 星野源が踊るときの基本スタイルは、セットアップのスーツだ。それは、彼がかねてから好きだったというクレイジーキャッツへの敬意も込めてのことだろう。クレイジーキャッツが1950~60年代にかけて音楽と演芸を同時に極めていたように、2016年の今、星野源はエンターテインメントの全方位において、その才能を発揮する存在となった。曲を作って、歌って、踊る。演じる。本を書く。バラエティ番組でトークをする。笑いをとる。こんなにもオールマイティにすべてをこなすアーティストは、これまでなかなかいなかった。


 昨年12月にリリースした『YELLOW DANCER』は、オリコンの週間アルバムランキングで1位をとり、売り上げは35万枚を超える大ヒットとなった。そしてその約1年後の今、「恋ダンス」の一大ブームが沸き起こっている。インタビューの中で、星野源は『YELLOW DANCER』の反響を受け、「自分の音楽趣味や自分が追求していたことを、ようやく受け入れてもらえたような感覚がある」と語っている(参考:星野源が語る“イエローミュージック”の新展開「自分が突き動かされる曲をつくりたい」)。自らが目指す理想像と、大衆が求める理想像が限りなく一致するという、とても健全な環境に身を置きながら、星野源は、2016年の終わりに新たなポップスター像を見せてくれた。(若田悠希)