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SMAP、でんぱ、OKAMOTO'S、雨パレ、金爆……聴くと“何か”を思い出す作品たち

2016年12月20日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

SMAP

 「I Guess Everything Reminds You of Something」(何を見ても何かを思い出す)はアーネスト・ヘミングウェイの短編集のタイトルだが、音楽を聴いているときに別の音楽(アーティスト)を思い出すことも多いのではないだろうか。その楽曲の元ネタに気付いたり、楽曲の作詞作曲を手がけたアーティスト、演奏しているミュージシャンのことを考えたり、そのバンドのルーツに思いを馳せたり。まるで葉脈のようにつながる要素が多ければ多いほど、その音楽の豊かさを実感できるのもまた事実。今回は“曲を聴けば、何かを思い出す”という作用が強い新作をピックアップします。


(関連:『SMAP×SMAP』放送終了に寄せて アイドルとバラエティの可能性広げた開拓史


 年内で解散する(と報道されている)SMAPのベストアルバム『SMAP 25 YEARS』の収録曲には、ファンのリクエストが反映されている。投票結果の上位10曲にシングルが2曲しか入っていないのは(ちなみに上位3曲は「STAY」「オレンジ」「BEST FRIEND」)ファンのみなさんがSMAPの音楽を隅々まで愛していたことの証左だと思うし、ベストアルバムのスペシャルサイトに紹介されているファンの方々のエピソードを読むと「彼らの歌はリスナーひとりひとりの人生に深く関わっていたんだな」ということが改めて実感できる。SMAPのもうひとつの功績は、楽曲制作に個性的なアーティストを積極的に採用してきたこと。特に「華麗なる逆襲」(作詞作曲/椎名林檎)、「Amazing Disocvoery」(作詞作曲/中田ヤスタカ)、「Joy!!」(作詞作曲/津野米咲)などのコラボレーションは、アイドルとアーティストをつなぐうえできわめて重要な意味を持っていたと思う。


 アイドル、ゲーム、アニメ、コスプレなどのファクターを背負い、自らが媒体となって最先端のジャパンカルチャーを発信し続けているでんぱ組.inc。2011年12月25日の初ワンマンライブからジャスト5年の節目のタイミングで発売されるベストセレクションアルバム『WWWDBEST ~電波良好!~』は、あらゆるオタク文化とつながりながら予想不能の変化を続けてきた彼女たちの最初の集大成と言えるだろう。CDジャケットのビジュアルは、初期の作品を手掛けきたファンタジスタ歌麿呂が担当。さらに特筆すべきは、前山田健一、畑亜貴、meg rock、かせきさいだぁ、只野菜摘、NOBEが作詞、玉屋2060%、浅野尚志、釣俊輔、Tom-H@ck、小池雅也が作曲を共作した新曲「WWDBEST」が収録されていること。クリエイターの才能を集約、増幅させるハブとしての機能を備えているのもまた、でんぱ組.incの魅力だ。


 OKAMOTO'Sの完全生産限定盤『BL-EP』はTシャツ付きアナログ盤と配信によるリリース。「Burning Love」(映画『にがくてあまい』主題歌)、「Border Line」は全世界的トレンドとなっている80sブラックミュージックのテイストを全面的に押し出したファンキー&ソウルフルなダンスチューン。レコーディングエンジニアの渡辺省二郎氏とOKAMOTO'Sのタッグによる高品質のバンドサウンド、80年代のプリンス、デヴィッド・ボウイを想起させるオカモトショウの中性的なボーカルにもニヤリとさせられる。さらに「NEKO(Remix) feat.呂布/MUD」には、OKAMOTO’Sと同世代のヒップホップクルー・KANDYTOWNの呂布、MUDが参加。世界のシーンと重なる音楽を地元(東京・世田谷)の仲間とセッションしながら生み出す彼らの在り方はとんでもなくカッコいい。


 Asgeir、SOHN、How To Dress Wellといった海外のアーティストに対するシンパシー、日本のシーンを変えて新しい時代を切り開くんだというモチベーションとともに登場した雨のパレードは、メジャー2ndシングル『stage』で(おそらく初めて)楽曲を通してオーディエンスと正面から向き合った。ライブにかける思い、「そこで自分は何を残せるんだろう?」という葛藤、そして、「会場に足を運んだ人たちに自分たちの音楽が響けば、必ず世界は変わる」という決意。この曲によってリスナーとつながることが出来れば、このバンドの存在は間違いなく、さらに大きなフィールドに浸透していくはず。表現の本質がコミュニケーション(またはディス・コミュニケーション)であることを改めて突きつけられる素晴らしいシングルだと思う。


 ゴールデンボンバーの新作『フェスベスト』は“フェスの帰りに聴く専用CD”。「女々しくて」「元カレ殺ス」「†ザ・V系っぽい曲†」などフェスでよく披露している楽曲を集めているのだが単なるベストではなく、わざわざ“フェスベスト”と名付けるところが目から鱗というか、本当に秀逸。フェスに来る人たちはフェスで盛り上がれる曲が好きなんだから“フェスでよくやる曲を集めましたから帰り道に聴いてくださいね”と言えば手に取ってくれるのでは……ということだと思うが、そこにはどうにかしてリスナーとつながりたい。少しでも多く自分たちの曲を聴いてほしいという鬼龍院翔の執念にも似た思いを感じてしまう。『ローラの傷だらけ』(2014年)は通常盤のみ、特典なし。『死 ん だ 妻 に 似 て い る』(2015年)は各メンバーの歌唱/体臭付きカード入りであくまで雑貨として発売するなど、斬新なリリース方法を編み出し続けているゴールデンボンバー。その根底にあるのは音楽とは何か、もっともふさわしいリリース形態とは何かという追求なのだ、いやマジで。(森朋之)