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『映画 妖怪ウォッチ』アニメ×実写のハイブリッドで娯楽大作に! 自虐ネタ満載の作風を読む

2016年12月20日 06:21  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)LEVEL-5/映画『妖怪ウォッチ』プロジェクト 2016

 2014年の暮れに、鳴り物入りで登場した第1作目『映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』は、随所に織り交ぜた『スター・ウォーズ』ネタの数々で、テレビシリーズと比べて実にスケールの大きい物語になった。しかし、初の劇場版で97分の尺を持たせるだけのパワーに欠け、少々冗長な出来栄えにしまったのである。とはいえ、興行的には申し分ない。入場者特典の効果もあり、初週末で東宝映画の歴代記録を更新し、最終的には興行収入は78億円を記録。まさに新たな子供向けアニメ映画シリーズの到来を予感させた。


 そして昨年、第1作目で散々オマージュ(パロディ?)を捧げた『スター・ウォーズ』の最新作に真っ向から対決を挑んだ『エンマ大王と5つの物語だニャン!』は、前作の反省点を生かし、幾つかの物語のオムニバスに構成面を変更。すべての物語が最後の1エピソードで一気に集約されるスタイルで、映画らしいスケール感も維持した。


 結果的に興収は1作目の3分の2程度に収まったものの、初週の観客動員数ではライバル『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を上回ることに成功。それだけでも、狙い通りの結果となっただろう。そして今年『空飛ぶクジラとW世界の大冒険だニャン!』で、今度はまたしても『スター・ウォーズ』のスピンオフ作品と直接対決となったのだ。


 さて、今回の『映画 妖怪ウォッチ』の最大の注目点は、実写とアニメを融合させるという、『メリーポピンズ』か『ルーニー・チューンズ/バック・イン・アクション』かよ、と思わず言いたくなる一大プロジェクトに挑んだことである。どんな出来栄えになっているのか、恐る恐る劇場に足を運んでみれば、これが実にエキサイティングで面白い。劇場版3作目にして、ついに正真正銘最高の『妖怪ウォッチ』映画が誕生したのである。


 普通で何の取り柄もない主人公ケータが部屋で執事妖怪のウィスパーを茶化して遊んでいるいつもの「さくらニュータウン」の光景。ところが、空に大きなクジラが突然現れ、瞬く間にその世界がアニメから実写へと変わっていくのである。もちろんストーリーはいたってシンプル。突然実写世界になった謎をケータと友達の妖怪たちで解き明かし、敵妖怪と戦うというものである。


 非常に単純明快のストーリーに華を添えるように、実写に移り変わってからの画面内の再現度の高さが実に緻密。最初に実写になるケータの部屋に飾られた習字の曲がり具合から、家の作りまで事細かに再現されるのだ。さらに、キャラクターがアニメーションから実写に変わったことで生じる微妙な差異を、ギャグとして自ら突っ込みを入れて笑い飛ばす。ケータの両親の登場にカウントダウンを入れたり、走ってきたジバニャンが舗道のわずかな凹みに躓いてうつ伏せに倒れこんだりと、芸が細かい。


 さらに、実に簡単に実写とアニメの世界を行ったり来たりし、スラップスティック性を増すだけでなく、アニメではお約束の「ご都合主義展開」が、実写では機能しないという自虐ネタを最後まで引っ張り続けるのである。これもまた珍妙な場面の数々を生み出す。アニメ世界でジバニャンがトラックの前に立ちはだかった途端に実写に切り変わると、トラックがゴツゴツのデコトラになって慌てる場面や、USAピョンが付録の戦車をチマチマと組み立てなければならなくなったりと、何ともシュールな場面が繰り返される。


 もちろん友情物語や、今回の大騒動の原因となる浜辺美波演じる少女の葛藤など、ドラマ要素は込められているが、とにかくギャグアニメであることにプライドを持って堂々と観客を笑わせにきているではないか。前2作と比べて圧倒的にギャグのセンスをブラッシュアップし、完膚なきまでに娯楽に徹した本作は、『妖怪ウォッチ』に求めていた姿そのものだ。


 来年も第4作目の公開が決定しており、今後も東宝のアニメ映画シリーズの一角として堂々と君臨し続けるに違いない。今年の春に『名探偵コナン/純黒の悪夢』を取り上げた際に、『ドラえもん』と『クレヨンしんちゃん』、そして『名探偵コナン』という毎年春にルーチン公開されるシリーズが、近年大きくテコ入れされて上昇気流に乗っていることを紹介した。(参照:映画『名探偵コナン』シリーズ、なぜ人気上昇? コアな映画ファンの立場から読み解く


 一方で、『妖怪ウォッチ』の登場により、公開時期は違えども夏休みの定番アニメとなっていた『ポケモン』が近年不調を迎えていることにも触れた。(参照:『ポケモン』『デジモン』『妖怪ウォッチ』……映画作品から読み解く、それぞれの戦略)そこで予期した通り、来年夏に公開される劇場版20作目は、長年に渡るファンに向けた作品になりそうだ。「金・銀」から登場している伝説のポケモン・ホウオウが描かれたポスターがこのほどお目見えし、今年の夏に社会現象を巻き起こした「ポケモンGO」(ちょうど先日から「金・銀」のポケモンの一部が追加されはじめた)との連携も期待される。来年もまた、東宝のアニメ映画の勢いを目の当たりにすることだろう。(久保田和馬)