2016年12月19日 22:42 弁護士ドットコム
覚せい剤を使用した疑いで逮捕された歌手のASKAさん(58)が12月19日、嫌疑不十分で不起訴となり、同日夜に釈放された。
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ASKAさんは11月28日、覚せい剤を使った疑いで警視庁に逮捕された。逮捕前、本人から警視庁に尿として任意提出された液体から、覚せい剤の陽性反応が出ていた。ところが、報道によると、東京地検は「提出された液体がASKAさん本人の尿と立証するのは難しい」と判断したという。
ASKAさんはこの液体について「あらかじめ用意したお茶を尿の代わりに入れた」と説明するなど、容疑を一貫して否認していた。採尿のとき、警察官は近くにいたが、手元がはっきり見えず、液体が少量だったため再鑑定はできなかったそうだ。ASKAさんの不起訴について、元検察官の落合洋司弁護士に聞いた。
「覚せい剤使用事件では、『尿』が使用事実を立証するうえで、極めて重要な根幹をなす証拠になります。そこで、警察が採尿をおこなう際は、後日の紛争を生じないように、厳格な手続きでおこなうことになっています」
どのような手続きなのだろうか。
「たとえば、尿を入れる容器は容疑者本人が水で洗い、『もともと覚せい剤成分が混入されていた』といった主張や疑いが生じないようにします。
トイレでの排尿にも、警察官が立ち会って、不審な行動がないかどうか確認します。排尿して容器に入れた尿は、被疑者本人が封をして、封をした紙に氏名を書いて指印をします。さらに、こういった一連の手続きは、証拠化するため警察官により写真撮影されるものです。
採尿の手続きに問題があったことが不起訴につながったと報じられています。今回のケースでは、採尿手続きに十分な慎重さが欠けていた可能性が高いでしょう」
覚せい剤事件の場合、どういう証拠で起訴されるのか。
「(1)尿から覚せい剤成分が検出されて、(2)自己の意思にもとづいて覚せい剤を摂取したことが立証される必要があります。
もし、尿の鑑定に問題があれば立証が困難になります。犯行が否認されて、しかも、たとえば何者かに飲み物に覚せい剤を混入されるなど、自己の意思にもとづかずに覚せい剤が体内に入ったという合理的な疑いが払拭できなければ不起訴、あるいは無罪になることがあります。
一見、単純そうに見える覚せい剤使用事件ですが、争われるとなかなか立証が難しい面があります。それだけに、慎重な捜査が必要になるので、今回のケースから導かれる教訓があれば今後の参考とされるべきでしょう」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
落合 洋司(おちあい・ようじ)弁護士
1989年、検事に任官、東京地検公安部等に勤務し2000年退官・弁護士登録。IT企業勤務を経て現在に至る。
事務所名:泉岳寺前法律事務所
事務所URL:http://d.hatena.ne.jp/yjochi/