2016年12月19日 11:22 弁護士ドットコム
無断欠勤したスタッフが心配で自宅を訪問。反応がないので、窓ガラスを割って部屋に入ったところ意識不明で倒れていたーー。弁護士ドットコムの法律相談コーナーに、こんな体験談が寄せられた。
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投稿者によると、救出されたスタッフには遅刻・欠勤歴がなかったそうだ。投稿者は「身体に何かあった」と考え、スタッフの自宅へ急行。消防に連絡し、窓ガラスを割って中に入ってもらったところ、意識不明で倒れていたスタッフが見つかった。
早期発見のおかげで、スタッフは快復に向かっているという。しかし、投稿者にはある悩みが…。窓ガラスを破損させたことについて、会社が責任を負うことはないのか、というのだ。
安否確認のためとはいえ、状況がよく分からない中、住宅の窓ガラスを割って中に入っても良いのだろうか。松岡義久弁護士に聞いた。
「窓ガラスを割って部屋に入ることは、形式的には、刑事上は『住居侵入罪』や『器物損壊罪』、民事上は『不法行為』に当たりうる行為です。
もっとも、人を救護する必要がある場合にまで法的責任を問われるのは、妥当性を欠きますから、一定の場合には責任を免れることになります」
松岡弁護士はこのように説明する。では、今回のケースはどのように考えられるだろうか。
「今回のように、消防が救急業務として行う場合、行為をしたのはあくまでも消防ですから、会社や投稿者が責任を問われることは基本的にはありません」
では、消防などを呼ばずに、自分の判断で家に入った場合は?
「この場合、意識不明など救護が必要であった場合は違法性がないため、刑事罰を科されることはありません。
刑事上は、『正当行為』(刑法35条「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」)や『緊急避難』(刑法37条「自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない」)にあたるためです。
また、民事上も、賠償義務を負うことはありません。こちらは『緊急事務管理』(民法698条「本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない」)に該当します」
では、急病などの緊急事態でなかった場合はどうか?
「この場合、先ほど述べた規定の適用範囲になるのか、他の法的構成で免責されるのかについては、微妙な事実認定の問題や法解釈の問題になります。状況次第では、法的責任を問われる可能性があるでしょう。
なお、消防に尋ねてみたところ、トラブルにならないように親族の了解を取る、管理人、管理組合に協力を求める、警察官に立ち合いを求めるなどの対応も取っているようです」
どうやら自分の判断で中に入る前に、消防などに相談するのがベターなようだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
松岡 義久(まつおか・よしひさ)弁護士
横須賀市内(京急横須賀中央駅徒歩5分、裁判所徒歩2分)で事務所を共同経営するパートナー弁護士。京都大学法学部卒、警察庁(国家Ⅰ種)を退職後、2回目で司法試験合格。相続、交通事故、債務、離婚、中小企業、行政のトラブル、顧問など幅広い分野を専門に扱う。
事務所名:宮島綜合法律事務所
事務所URL:http://www.miyajimasougou.com/