トップへ

“宇宙最強の男”ドニー・イェンは『ローグ・ワン』でも強すぎた! 棒切れ一本で敵を薙ぎ倒すロマン

2016年12月18日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2016 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

 「ドニーさん強すぎじゃないですかね?」これから『ローグ・ワン』を観る方、あるいは既に観た方。そのどちらもが、恐らくこの疑問を抱くのではないかと思います。既に予告で公開されている通り、ドニーさんこと香港で今一番輝くアクションスター、ドニー・イェン演じるチアルートは棒で戦います。ブラスター(ビーム銃)を持った人たちが銃撃戦をする中、このチアルートは棒切れ一本で敵を薙ぎ倒していくのです。さらには一瞬で立ち関節を極め、なんならビームも避けます。おまけにそんな人にブラスターを持たせた日には……更にとんでもないことをアッサリとやっちゃいます(この「とんでもないこと」が起きたとき、僕は劇場で目を疑いました)。


参考:“宇宙最強”のアクション俳優、ドニー・イェンの魅力と凄み そのサクセス・ストーリーとは? 


 香港では「宇宙最強」という身も蓋もない異名を持つドニーさんですが、この映画でのドニーさんはまさにその異名通り、飛びぬけた強さを持っています。『ローグ・ワン』は、冒険! 小粋! 活劇! と言った「スペースオペラ」ではなく、誰もが泥だらけで地べたを這いずり回り、ときに主人公らもダーティーな行為にも手を染め、人がガンガン死んでいく「戦争映画」に近いトーンの映画です。ですから本作のドニーさんは、いうなれば『プライベート・ライアン(98年)』や『フューリー('14)』の中に「座頭市」が紛れ込んでいるような、不思議な雰囲気を醸し出しています。


 しかし、では浮いてしまっているのかと言うと……僕はそうは思いませんでした。むしろ、このチアルートこそ、本作を「スターウォーズ」たらしめるために必要な要素だったと思います。先にも書いたように、この映画は限りなく「戦争映画」に近い映画ですが、間違いなく「スターウォーズ」でもあります。本作を「SF戦争映画」ではなく、「スターウォーズ」にしているのは、見慣れたギミックや旧作からのオマージュだけでなく、『フォース』という概念の存在です。フォースとは、ざっくり言うなら超能力なわけですが、どれだけリアルに寄せようが、この超自然的な力が存在することが、本作を「スターウォーズ」たらしめているのです。


 そして、チアルートはあくまで格闘技の達人であって、フォースは使えません。どれだけ強くても生身の人なわけです。だからブラスターを避けることは出来ても、シリーズを通して登場しているフォースを使う者たちのように、手をクイっとするだけで人が吹っ飛ばしたりはできません。そもそも棒で殴らないと敵を倒せないのです(フォースを使う人たちは、相手に触れずに殺すことができる)。ここがミソだと思うのです。つまり、あくまでフォースを使う者より、チアルートは戦闘力的に一段階落ちるわけです。超えられない壁があると言ってもいい。彼が生身の強さを発揮すればするほど、そんなチアルートと別次元の強さを持ったフォースを使える者たちの脅威と、フォース自体の凄さも際立つわけです。いわばフォースの凄さを引き立てる装置としても、チアルートというキャラは大きな効果を発揮していたと思います。そしてチアルートを演じているのは、宇宙最強のアクション俳優ドニー・イェンです。そんなドニーさんの超えられない壁の向こうに、ジェダイやシスはいる……人知を超えた力を表現するために、これ以上ないキャスティングだと言っていいでしょう。


 正直に申しますと、「スターウォーズ」にドニーさんが出ると聞いたとき、「嬉しいけど大丈夫か?」と思いました。ドニーさんだけ浮いてしまうのではないか……そんな不安があったのです。そして若干浮いている感は正直あったと思いますが、ドニーさん演じるチアルートはきちんとスターウォーズの住人になり、映画的にもシリーズ的にも、見事な貢献を見せたと思います。


 ただ、そういう理屈はさておき、少なくともドニーさんファンとしては、ドニーさんがストームトルーパーの腕をねじ上げ、棒で叩き伏せていくシーンを観るだけでも、本作を観る価値はあります。90年代、どこかの森の中で走り回っていた人が、今や遠い昔、はるか彼方の銀河系へ……思えば遠くへ来たものです。ここには確かに、熱いロマンがあります。(加藤ヨシキ)