2016年12月17日 08:21 弁護士ドットコム
改正通信傍受法が12月1日、施行された。改正前の通信傍受法では、傍受が認められるのは4つの犯罪類型に限定されていたが、これに加え、新たに9つの犯罪についても証拠収集の手段が拡大することになる。
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通信傍受法は、2000年8月に施行。薬物犯罪、銃器犯罪、組織的殺人、集団密航の4つの犯罪について、複数人の共謀が疑われ、犯人の特定や犯行状況を明らかにすることが著しく困難な場合に限り、裁判官の令状を得て、傍受が認められてきた。
今回、新たに9つの犯罪類型が加わる。改正のポイントはどこにあるのか。また懸念される点はないのだろうか。元警察官僚出身で警視庁刑事の経験も有する澤井康生弁護士に話を聞いた。
「法改正がされた背景として、依然として深刻な『特殊詐欺』被害の実態があります。被害高齢者らに虚偽の電話をかけて現金をだまし取る、いわゆる『特殊詐欺』の被害額は、平成28年上半期だけで、約200億円にのぼります。
これに対する捜査として、通信傍受は効果的です。特殊詐欺の犯行グループは、それぞれ役割分担がなされており、メンバー間でも面識すらないことが多く、通常の捜査では組織の実態解明が困難という事情があります。特殊詐欺グループに対する通信傍受を行うことによって、グループの実態解明が期待できます。
そのほか、組織的な窃盗集団や暴力団による殺傷事件など、社会問題化している犯罪に対応するためという目的もあります」
改正法では、9つの犯罪(現住建造物等放火、殺人、傷害・傷害致死、逮捕監禁・逮捕等致死傷、略取・誘拐、窃盗・強盗・強盗致死傷、詐欺・恐喝、爆発物取締罰則違反、児童買春・ポルノ禁止法違反など)が加わった。
改正法について、澤井弁護士はどのような点を評価しているのか。
「第1に、改正前は4つの犯罪類型に限定されていたのに対し、新たに9つの犯罪類型が加わることにより、暴力団などの組織による犯罪に対して、効果的な捜査が可能になった点です。
第2に、改正前は立会人の監視が必要とされていたのに対して、改正後は立会人の監視なしで通信傍受できるようになりました。従前まで、通信傍受は通信事業者の施設で事業者の立会のもとにリアルタイムで行っており、捜査機関、事業者双方にとって大きな負担となっていました。
深夜を含め24時間体制で傍受を行うことは事実上不可能ですし、緊急に傍受を行うこともできません。
改正法では、通信内容を暗号化、復元化できる特定電子計算機を用いることが認められました。これにより、捜査機関がリアルタイムではなく、いったん保存された通信を事後的に再生して傍受する方法、通信事業者から通信を送信させ捜査機関の施設で傍受する方法が可能になります。いずれも裁判所の令状が必要ですが、立会人の監視なしで行うことができます」
乱用を懸念する声もあるようだが、懸念点はないのだろうか。
「懸念としては通信事業者による立会が不要とされたことにより、捜査機関による不適正な傍受がなされる危険があると言われています。
しかしながら、特定電子計算機を用いることにより、傍受した通信の全てと傍受の経過が自動的に、かつ改変されないように暗号化して記録できることから、捜査機関が行ったことは、全て事後的に検証可能といえます。
事後的に検証できる以上、捜査機関が違法行為を行えば当然に発覚することになります。立会人がいなくとも十分なチェック機能は働くのではないでしょうか」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
元警察官僚、警視庁刑事を経て旧司法試験合格。弁護士でありながらMBAも取得し現在は企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も兼任、公認不正検査士の資格も有し企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。東京、大阪に拠点を有する弁護士法人海星事務所のパートナー。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:弁護士法人海星事務所東京事務所
事務所URL:http://www.kaisei-gr.jp/about.html