MotoGPでは、負傷し欠場を余儀なくされたライダーの代役を確保するため、F1のようなリザーブドライバー制度を導入するのは簡単ではないと各チームの代表は考えている。
大半のF1チームには、レギュラードライバーの代役を務めることが可能なリザーブドライバーが控えているが、MotoGPではライダーが怪我で欠場する確率がF1と比べ高いにも関わらず、そのような制度が存在しない。
2016年シーズンのF1で欠場したのは開幕戦で大クラッシュを喫したマクラーレンのフェルナンド・アロンソひとりで、リザーブドライバーのストフェル・バンドーンが第2戦のバーレーンGPで代役を務めた。一方MotoGPクラスでは、ダニ・ペドロサ、アンドレア・イアンノーネ、ジャック・ミラー、ブラッドリー・スミス、ダニロ・ペトルッチ、ロリス・バズらが欠場の憂き目にあっている。
ステファン・ブラドルとジャック・ミラーがそれぞれドイツGPとオーストリアGPの日曜午前のウォームアップ走行で転倒し、代役ライダーの召集が間に合わなかった件を除いて、上記のグループのなかで、のべ21回のレース欠場があったことになる。
ドゥカティのテストライダーであるミケーレ・ピロは、2016年シーズンにペトルッチ、バズ、イアンノーネの代役を務めた。しかし、他のマニュファクチャラーには代役を立てる既存の解決策がない。
ホンダはテストライダーの青山博一と、2006年のMotoGP世界チャンピオンのニッキー・ヘイデンをペドロサの代役に起用。また、ヘイデンはマークVDSでミラーの代役も務めた。
HRC代表のリビオ・スッポは、MotoGP参戦にふさわしい実力があり、リザーブという立場を受け入れてくれるライダーと契約するのは「非常に困難」だと述べた。
「ドゥカティには非常に良いチャンスがあったが、我々にとっては大変難しいことだ」とスッポ。
「過去に我々はF1のように、若いライダーたちにテストライダーになるようオファーを試みたが、若いライダーたちは、自分がレースに参加したいと考えるものだ」
「テストライダーのプロジェクトを作り上げようとしても、Moto2クラスでレース参戦できるチャンスがあれば、リザーブライダーになるのはほぼ不可能だ。なぜなら速いライダーは自分でチャンピオンシップをフルシーズン戦うからだ」
「とても難しい問題だ。たとえばオーストラリアGPでのニッキー(・ヘイデン)は完璧だった。彼はとても良い仕事をしてくれたが、その1週間後は(ヘイデンが通常参戦している)スーパーバイク世界選手権と日程が重なってしまった。リザーブライダーのシステムを作り上げるのは本当に難しいんだ」
ホンダのように、スズキにはチームのテストライダー、津田拓也がいるが、GPに帯同し待機できるライダーとの契約はない。
スズキの代表ダビデ・ブリビオは「我々は必要な時に代役になれるライダーを確保することについては、あまり考えていない」と次のように述べた。
「このスポーツでは、優秀なライダーはレースをしたいんだ。だから優秀なライダーに万が一の時のために待機していてくれと頼むのは難しい。優秀で速く、レースに出たいライダーにそのようなことを頼むのは、このスポーツの精神に反することだ」
「日本のマニュファクチャラーには、テストライダーがいる。たいていは日本人だが、我々のエンジニアたちと情報交換をする。もてぎでテストをする時、彼らを呼ぶことは簡単だ」
「スズキの場合、2人のテストライダーがいて、彼らは日本の国内選手権に参戦し、MotoGPクラスのためにテストを行う。ヤマハも同様だろう」
「目的は良いテストライダーを確保することであって、代役ライダーを検討することではない。F1とは違う」
2016年MotoGPクラスの主要代役参戦ライダー
■ミケーレ・ピロ
今季は9戦に参戦し、そのうち3戦は予定されていたドゥカティのファクトリーバイクによるワイルドカード、プラマック(ペトルッチの代役)そしてアビンティアレーシング(バズの代役)からの参戦だった。その後は、フライアウェイ・レースでのイアンノーネの代役よりも、2017年テストプロブラムに集中することになった。
■エクトル・バルベラ
アビンティアレーシング所属だが、もてぎとフィリップ・アイランドでイアンノーネの代役を務めるため、ファクトリーチームのドゥカティに昇格した。
■マイク・ジョーンズ
バルベラの代役としてアビンティアレーシングからMotoGPに初参戦。もてぎとフィリップ・アイランドの2戦で走行した。
■シャビ・フォレス
バズがシルバーストンで負傷したため、その代役でアビンティアレーシングよりミサノで参戦。ミサノではピロもドゥカティのワイルドカードで参戦していた。
■ニッキー・ヘイデン
2006年のMotoGP世界チャンピオン。アラゴンでミラーの代役に、その後フィリップ・アイランドにペドロサの代役として召集された。
■青山博一
ペドロサの転倒により、ファクトリーチームのホンダから代役参戦。その後、ヘイデンが参加できなかったセパンで、ふたたびペドロサの代役を務めた。
■アレックス・ロウズ
スーパーバイク世界選手権(SBK)に参戦しており、ヤマハから参戦した鈴鹿8時間耐久ロードレースで優勝を飾った。その報償として行われたテック3でのテストにおいて、膝の怪我で3レースを欠場していたスミスの代役となれる実力を証明した。