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冬の名曲として再び脚光! ドリカム「雪のクリスマス — VERSION '16 —」の奥深い世界

2016年12月15日 18:02  リアルサウンド

リアルサウンド

DREAMS COME TRUE

 これまで数々の冬の名曲を世に放ってきたDREAMS COME TRUEだが、2016年、あるクリスマスソングが改めて脚光を浴びている。それが、「雪のクリスマス — VERSION '16 —」だ。


 もともとは今から26年前の1990年11月にリリースされた8thシングルの表題曲だったこの「雪のクリスマス」。彼らの楽曲としては珍しくオリジナルアルバムやベストアルバムに収録されず“隠れた名曲”となっていたが、今年7月発売の『DREAMS COME TRUE THE ウラBEST! 私だけのドリカム』に、新たにレコーディングしたバージョンを収録。これがスバル新型「インプレッサ」のCMソングに起用され、注目を集めている。

『「愛で選ぶクルマ」クリスマス特別篇』と題されたCMは、家族で過ごすクリスマスの模様を描いた内容。イルミネーションの光に包まれる街の情景とドリカムの楽曲がマッチした、心温まる映像だ。


 このスバル新型「インプレッサ」の売れ行きも好調だ。先行予約の開始から11月14日までの約1カ月半で、国内受注台数は月販目標の約4.4倍となる1万1050台を記録。12月9日に発表された「日本カー・オブ・ザ・イヤー2016-2017」も受賞した。

 そして、CMへの注目と共に楽曲の人気も高まっている。先日発表された12月14日付の「有線J-POPリクエストランキング」(12月2日~12月8日集計)では週間1位を獲得した。

 というわけで、再び脚光を浴びることとなった「雪のクリスマス — VERSION '16 —」。ただ、ファンならずともこの曲のメロディ一に耳馴染みのある人は多いだろう。というのも、94年に同曲の英語バージョンが「WINTER SONG」としてリリースされているから。こちらは映画の主題歌やCMソングとしてたびたび起用され、98年に再びマキシシングルとしてリリースされた際に、あわせてセールスは100万枚を突破。ベストアルバム『DREAMS COME TRUE THE BEST! 私のドリカム』にも収録され、キャリアを通じても屈指の人気曲となっている。

 つまり、姉妹曲とも言えるこの「雪のクリスマス」と「WINTER SONG」は、90年、94年、98年、そして2016年と繰り返しフィーチャーされた、とても稀有な曲と言えるわけなのである。ファンからの人気も高く、昨年に開催された「史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2015」のセットリストを決める際のリクエストでも「WINTER SONG」は16位、「雪のクリスマス」は29位にランクインしている。


 では、なぜ「雪のクリスマス」は息の長い支持を得ているのだろうか?

 その背景にはこの曲の持つ「クリスマス・ソングらしからぬ奥深さ」がある、と言える。

 もともとクリスマス・ソングは「定番化」への道筋が辿りやすいジャンルだ。欧米では毎年このシーズンになると、人気歌手が定番曲をカバーしたクリスマス・アルバムをリリースする。そのラインナップには、たとえば「きよしこの夜」や「ジングル・ベル」のような19世紀に出来た曲や、「赤鼻のトナカイ」や「サンタが街にやってくる」のような、1930~40年代のオールディーズ・ポップスも含まれる。

 もともとクリスマス・ソングは合唱曲でもあったゆえ、これらの曲が好まれた理由として、子供でも歌えるような簡単な節回し、一度聴けば覚えてしまうようなメロディの持つ力は大きかったはずだ。

 80年代以降のクリスマス・ソングのヒット曲の多くも、やはりそういう特徴を持っている。たとえばやはり定番曲として愛されているワム!の「ラスト・クリスマス」やマライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」も、ほとんどテンションノートのない三和音のコード進行を中心に用いた曲だ。メロディの動き方も、歌い出しの〈Last Christmas I gave you my heart〉という部分や〈I don’t want a lot for Christmas〉という部分を見ればわかるように、シンプルな上下の起伏を持ったものが多い。

 つまり、こうした多くクリスマス・ソングは、曲の構造がシンプルだからこそ定番となっているわけなのである。

 しかし、そうしたシンプルさ、おぼえやすさ、歌いやすさの、ある種の対極にあるのが「雪のクリスマス」という曲だ。

 曲中ではテンションコードが多用される。歌い出しも、オンコードではない音から始まる。サビのメロディの起伏も大きい。要は、子供でも歌えるような簡単な節回しでなく、吉田美和の歌唱力をもってして成立する楽曲なわけである。

 歌詩の描写力も、吉田美和の詩人としての冴え渡る才覚を示している。〈街灯が点る頃に 降る雪が少し 粒の大きさ増した〉〈瞬きをたくさんして 目に入る雪をはらう〉という言葉からは、大粒の雪がふりしきる北国の冬の情景がありありと浮かぶ。〈みるみるうちに 小さな雪原になる公園〉〈ジャングルジムに細く積もった ふちどりが揺れる〉という一節も街の風景のリアリティを醸し出す。

 こうして情景描写を積み重ねていくことで〈私が見えているもの すべて 大好きなあなたにも 見せたい〉というサビのフレーズが活きてくる。しかも、サビが一度終わり〈この夜を あなたにも見せたい〉と歌う大サビのクライマックスに向けて徐々にメロディが盛り上がっていくところで〈たとえあなたが 他の誰といても〉と歌われるのだ。

 つまり〈あなたと出会えたことが 今年の 最大の宝物〉というこの歌の主人公にとって、クリスマス・イブの大事な「この夜」に「あなた」は不在なのである。

 たとえば山下達郎「クリスマス・イブ」は、〈きっと君は来ない ひとりきりのクリスマス・イブ〉という言葉で、華やかな季節だからこそ感じる孤独をストレートに歌っている。日本のクリスマス・ソングの人気曲には、この曲や稲垣潤一「クリスマスキャロルの頃には」のように、伝えられない思いやすれ違う恋人同士、片思いの関係などをモチーフにした、切ない曲が多い。ドリカムの「雪のクリスマス」もそういう曲なのだが、ここでは「内から溢れる大きな愛しさ」が「会えない寂しさ」を包み込むような、独特の感情表現が成されている。

 楽曲のメロディやコード進行といった作曲技法においても、言葉の生み出す情景や感情においても、じっくりと噛みしめて味わうような奥深さを持っている。「雪のクリスマス」が長く愛され、今年になって「雪のクリスマス — VERSION '16 —」として改めて脚光を浴びている理由には、そういうものがあるのではないだろうか。(文=柴 那典)