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「また、生きて会いましょう」 Suck a Stew Dry、“完全燃焼”の現体制ラストライブを観た

2016年12月15日 17:51  リアルサウンド

リアルサウンド

Suck a Stew Dry(撮影=白石達也)

 Suck a Stew Dryが12月7日に東京・渋谷CLUB QUATTROでワンマンライブ『遺失物取扱所:Another End』を行った。これは、11月から12月にかけて行われた東名阪対バンツアーの追加公演として開催されたもので、この日をもって、フセタツアキ(G)がバンドを脱退。現体制でのラストライブとなった。


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 オーディエンスでぎっしりと埋め尽くされたフロア。独特の緊張感が漂う中現れたメンバー5人は、それぞれ深く頭を下げてから所定の位置についた。オープニングナンバーは「ユーズドクロージング」。篠山コウセイ(Vo・G)のどこか淡々とした歌声が、バンドのグルーブに乗ることで、だんだんと熱を帯びていく。続く「カラフル」では、リズミカルなギターと、フセとハジオキクチ(G)によるコーラスが、フロアを心地よい横揺れに誘っていく。


 最初のMCでは、篠山が「今日でこの5人で自己紹介、意志表示をするのは最後だなと思って、そういうつもりで最後まで演奏します。僕たち5人が、Suck a Stew Dryです」と挨拶。これまでのポップなメロディ主体の楽曲から一転、「エヴリ」「並行世界のエデン」にかけては、このバンドの一段と深い世界を見せていくような展開だった。イタバシヒロチカ(Dr)の重みのあるキックが存在感を発揮するロックチューン「エヴリ」で、篠山はギターを置き、両手でマイクを掴んで激しく歌う。また「並行世界のエデン」では、細かなギターフレーズと、激しいストロークを聴かせるフセ&ハジオのテクニカルなギターの掛け合いによって、幻想的な空間が広がっていった。


 中盤の「二時二分」でも三拍子のリズムに乗せ、静と動を行き来するアグレッシプな演奏で、会場をぐっと引き込む。また「大嫌いな人に愛を込めて」(篠山)と紹介された「レフストアンブルフィ」でも、焦燥感や苛立ちを体現するかのようなフィジカルで生々しいバンドのアンサンブルを披露。ハンドマイクで、感情をむき出しにして歌う篠山の姿には気迫が漲っており、曲が終わるとオーディエンスはひときわ大きな拍手と歓声で応えた。続く「冷たいリグレ」では、フセのリバーブの効いた単音のリフが、サイケデリックなムードを作り出した。


 メランコリックな轟音を響かせた「SaSD[eve]」、スケールの大きなサウンドで会場を包み込んだ「傘」を挟み、後半のMCでは、篠山が「Suck a Stew Dryというバンドがどうして組まれたかというと……」と、大学のサークルの部室で出会ったというバンドの成り立ちや、当時のメンバーの印象などを話す。フセやハジオが篠山の話に突っ込み、笑いを巻き起こしながら、5人の仲のよさを感じさせるバンド紹介が行われた。そこから、バンド初期の曲「人間遊び」と「Normalism」を披露した。


 本編最後のMCで、「本日付けで、偉大なる素晴らしいバンドSuck a Stew Dryを脱退します」とオーディエンスに向かって話し始めたフセ。フセの脱退の理由は「Suck a Stew Dryと並行して活動してきたバンドに専念したい」というものだと事前に発表されていたが、この日集まったファンに向けて、あらためて脱退の経緯を明かした。「本当にありがとうございました」というフセの言葉には、長い時間にわたって、あたたかい拍手が送られた。そして本編最後の曲は「トロイメライ」。この5人での最後の作品となったアルバム『N/A』に収録されたこの曲は、みずみずしいメロディが印象的な曲。未来に向かって一歩踏み出すようなポジティブなパワーをオーディエンスにしっかりと届け、本編は幕を閉じた。


 アンコールを望む手拍子の中ステージに戻ってきたメンバー。「Suck a Stew Dryで初めて合わせた曲をやります」と紹介して始まったのは「アパシー」。続けて、「もうひとつの終わり」では、疾走感のあるグルーブに、フセのコーラスが彩りを与える。その後のMCでは、「今日フセくんが脱退して、僕たちのこの先のことはまだ何もお知らせてできていないんだけど、ちゃんと言わないとなと思っています」「残ったメンバーは一度お休みをさせていただきます。でも、生きてたらまたどこかで絶対会えると思うので。生きてたらいいので、また、生きて会いましょう。ありがとうございます。Suck a Stew Dryでした」と、篠山の口から告げられた。


 Suck a stew dry現体制でのラストナンバーは「遺失物取扱所」だった。最後の時が刻一刻と迫りながらも感傷的なムードになることを避けるように、アグレッシブなステージを見せた5人。それにつられるように、オーディエンスからも手拍子が沸き起こり、サビ部分では手が挙がる。そんな光景を目にしたメンバーも笑顔を見せ、篠山、フセ、ハジオ、スダユウキ(B)は、ステージの上を縦横無尽に動き回る。スリリングでありながらバンド一丸となった頼もしさを感じさせるアンサンブルを響かせて、5人はステージを去っていった。そしてその後も、オーデイエンスの拍手はしばらく鳴り止むことなく続いていた。


 この日のライブは、5人がベストを尽くした完全燃焼のステージだった。篠山が書く歌詞は、不器用で複雑で、孤独な人間の心模様がありありと伝わってくるものだ。だが、それがSuck a Stew Dryというバンドの音楽になった時、聴く者の心に普遍的に届く強さを持つ。そんなSuck a Stew Dryというバンドの音楽にあらためて向き合うことができ、バンドの核心をかつてなく深く刻み付けられたライブであった。翌日12月8日には、あらためて今後の活動休止が発表されたが、またいつか、新曲を携えてステージに帰ってきてくれるだろう。今はこのライブの余韻を胸に、再会の時を心待ちにしたい。(取材・文=若田悠希)


■セットリスト
Suck a Stew Dry
『遺失物取扱所:Another End』
2016年12月7日(水)渋谷CLUB QUATTRO


1.ユーズドクロージング
2.カラフル
3.Thursday's youth
4.エヴリ
5.並行世界のエデン
6.ないものねだり
7.水曜日の出来事
8.二時二分
9.レフストアンブルフィ
10.冷たいリグレ
11.SaSD[eve]
12.傘
13.人間遊び
14.Normalism
15.トロイメライ


EN1.アパシー
EN2.もうひとつの終わり
EN3.遺失物取扱所