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「年金制度改革法」が成立、支給額減額も…制度の安定のために何が必要か?

2016年12月15日 10:32  弁護士ドットコム

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国民の年金制度に対する信頼感が増すことになるのだろうか。現役世代の負担をおさえる「年金制度改革法」が12月14日午後、参議院本会議で自民、公明両党などによる賛成多数で可決、成立した。公的年金の給付額改定ルールを見直すことで、将来の年金水準を確保する狙いだ。2021年度から新ルールが導入される。


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しかし、現役世代の賃金が減れば、受給額は減るため、野党は批判をしてきた。法改正により、年金制度の安定につながるのだろうか。ポイントはどこにあるのか。蝦名和広税理士に聞いた。



●「マクロ経済スライド」の強化


蝦名税理士によれば、この法律のポイントは2点ある。



「ポイントの1つ目は『マクロ経済スライド』の強化です。



マクロ経済スライドとは、社会情勢(現役人口の減少や平均寿命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。少子高齢化が進めば、現役世代の負担は増します。その負担が過大にならないようにするために、物価・賃金が上昇しても、年金を増やさず、伸び幅を抑制するための制度です。



これまでは物価・賃金が下がった場合、マクロ経済スライドによる調整(支給の抑制)は行われませんでした。今回の改正で、2018年度からは、支給を抑制していた複数年分を物価上昇の際にまとめて調整を行うこととしました」



●年金支給額改定の新ルールの導入



もう1点ある。



「2つ目は『年金支給額改定の新ルールの導入』です。賃金・物価に合わせてスライドさせる毎年の年金額改定について、2021年度から新ルールを導入するというものです。現行は物価が上昇し賃金が下がった場合、年金支給額は据え置きでしたが、新ルールでは賃金の下げ幅に合わせて年金支給額も下がります。



また、物価と賃金がどちらも下がり、賃金の下げ幅が大きい場合、現行では物価の下げ幅に連動しますが、新ルールでは賃金の下げ幅に連動します」



2つの制度を導入する目的はどこにあるのか。



「どちらも年金支給額の抑制が目的であり、野党は反対しているのです」



●評価できる点、懸念される点は?


蝦名税理士が評価する点、懸念する点はどこにあるのか。



「2004年以降、1度しか実施されなかったマクロ経済スライドをより機能的にしたという点は評価できます。



しかし、景気低迷が続けば給付抑制が進まないことに変わりはなく、年金制度の維持という点では疑問符が残ります。さらに年金支給額改定の新ルールについて、政府・与党はアベノミクスにより賃金が上がり続けるようにすると理解を求めています。



一方で、賃金が上がれば、企業側の負担は増しますし、そもそも賃金が上がり続けることが現実的なのかどうか疑問もあります」



年金制度の安定のために、何が必要なのか。



「将来的に安定した年金制度構築のためには、より抜本的な見直しが必要ではないでしょうか。今後ますます高齢化社会が進み、2060年には1人に対し、1.2人で支えていかなければならないとのシミュレーションもあります。



高齢化社会の進展は、年金制度にとって由々しき問題です。これを改善するには、定年の引き上げや出生率の上昇を促進することなどが考えられ、人口ピラミッドの現役世代比率が減少していかないようにしてくことが大切です。そのためには年金制度そのものの改善に加え、より多角な方向からの手当てが必要でしょう」



【取材協力税理士】


蝦名 和広(えびな・かずひろ)税理士


特定社会保険労務士・海事代理士・行政書士。北海学園大学経済学部卒業。札幌市西区で開業、税務、労務、新設法人支援まで、幅広くクライアントをサポート。趣味はクレー射撃、一児のパパ。


事務所名 : 税理士・社会保険労務士・海事代理士・行政書士 蝦名事務所


事務所URL:http://office-ebina.com


(弁護士ドットコムニュース)