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中村蒼、正統派イケメンならではの笑い 『刑事ダンス』独自のアプローチを読む

2016年12月14日 06:11  リアルサウンド

リアルサウンド

テレビ東京

 島崎遥香が主演を務める『警視庁 ナシゴレン課』や、柄本佑が主演を務める『コック警部の晩餐会』など、一風変わった刑事ドラマが数多く放送された今期。その中でも『土曜ドラマ24 潜入捜査アイドル・刑事ダンス』は、芸能界のお約束とタブーを面白おかしく描く、今一番“攻めている”刑事ドラマだと言えるだろう。その面白さは、ドラマ内でアイドルグループを演じる、中村蒼を含む5人のメンバーの相性の良さに依るところが大きい。最終回目前にして急展開を見せているこのドラマを、改めて考察したい。


参考:中村蒼が語る、『刑事ダンス』でコメディに挑戦した理由 「イメージを壊していくのも、俳優の仕事」


■テレ東だからできる異色のドラマ


 『潜入捜査アイドル・刑事ダンス』は、警視庁特殊芸能課に配属された刑事・辰屋すみれ(中村蒼)が、芸能界で起きる様々な事件の潜入捜査をするため、上司の指令により嫌々ながらアイドル・タツヤとして活躍する物語。吉光全(片岡鶴太郎)主演のドラマ「漢!刑事泣き虫」に感銘を受けて刑事になったという辰屋は、元詐欺師のユーヤ(大東駿介)、コミュ障で元引きこもりのネット民ショウ(横浜流星)、元子役のテル(森永悠希)、明るく能天気なD(立花裕大)の5人で、潜入捜査アイドルグループ「デカダンス」を結成。最初は芸能界のしきたりと衝突しながらも、数々の事件を解決するごとになぜか人気が急上昇し、アイドルとしての自覚も芽生えてくる。


 実際の番組やタレントをパロディとして登場させているところは、本作の見どころのひとつだ。例えば、"内容変えてもタイトル変えるな"というテレビの鉄則を紹介しつつ、原型を留めていない番組として、限りなく「某相談所」に近い番組を登場させたり、某タレントの不倫騒動を思わせるシーンがあったりと、かなり大胆な演出も見られる。素人同然のタツヤらをひな段芸人がフォローしたり、それを大物司会者がうまく料理したりと、バラエティ番組そのものがリアルに再現されているのが面白い。ドッキリ番組では、元子役のテルならではの過剰なリアクションがつまらなく空回りし、ダイジェストで放送されてしまったりと、バラエティ番組の“あるある”を鋭く捉えている印象だ。


 一方、本作ではテレビ番組のダークな一面も描かれる。清純派だったアイドルが不倫騒動でネットが炎上、復活したもの再び悪い噂が流れる様子や、ニュースをズバッと解説してくれるような番組が編集によって盗撮騒動を過剰に演出したり、芸能界の大物を敵に回して圧力をかけられたりと、普通のテレビ番組ではなかなか描かれない“裏側”も垣間見せてくれる。


 こうした作風は、テレビ東京のドラマ班とバラエティ班の混成チームが手がけていているからこそ生まれたものだろう。特に、バラエティ番組の名手として知られる佐久間宣行プロデューサーの手腕に依るところが大きいはずだ。彼が手がける『ゴッドタン』は、バラエティ番組の“お約束”の向こう側を見せてくれる番組として人気を博した。劇団ひとりらが美女にキスを迫られ、即興の演技で対応する「キス我慢選手権」は、映画になるほどファンが多く、バラエティとドラマの垣根を越えた作品としても知られる。その手法は、今作でも十分に活かされているといえるだろう。


■中村蒼&デカダンスメンバーのコンビネーション


 このドラマの主人公が、いまをときめくイケメン俳優・中村蒼というのも面白い。中村蒼は『花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス~2011』や『せいせいするほど、愛してる』などで、主演俳優に迫るほどの人気を誇るイケメンを演じてきた。しかしながら、脇でこそ光るタイプという印象も、同時に抱かせてきた。ところが今回は、正統派イケメンとして頑張れば頑張るほど、滑稽さが際立つという絶妙な立ち位置で、初コメディ主演作をものにしている。リアルサウンドのインタビューでは、「脚本を読んでみたらすごく面白くて、僕が演技で笑いを狙う必要はないと感じたので、普段の調子を崩さずに演技ができました」と語っていたが、まさに普段通りの演技で真剣に熱血刑事を演じているからこそ、タツヤは周囲から浮き、天然アイドルとしての魅力が浮き彫りになるのだ。


 タツヤは格好をつけて「考える前にやっちまえ」と言うが、考える間もなく流されているのが実際のところ。2話で元芸人の放送作家(梶原善)が「指示や計算だけで跳ねられるんだったら俺はこの仕事をしていない。どんなに努力したって、ああいう奴が飛び越えて行くんだよ、芸能界ってのはよ……」と説明していたが、タツヤの面白さは、演じる中村の計算をも越えたところにあるのだろう。笑わせるのではなく、笑われるというアプローチの仕方は、中村の役者としての引き出しを増やしたはずだ。


 また、彼を支える4人のメンバーの存在も見逃せない。中村が「みんな役そのもの」と言うように、実際の性格とキャラが被っているそうで、しかも役割分担もしっかりできているようだ。役を離れても5人は仲が良いらしく、そのコンビネーションが回を追うごとに磨かれていくのも、このドラマの魅力となっていた。5人は5人とも、今後はドラマとバラエティの両方で活躍できるはずだ。


 ドラマも終盤に近づき、だんだんとシリアスな刑事物としての色も濃くなってきた『刑事ダンス』。これまでのストーリーがすべて伏線となり、回収されていくのも見事な展開である。果たしてデカダンスは、某グループのように本当に解散してしまうのか? その行く末を最後まで見届けたい。(本 手)