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ジョン・フルシアンテのような存在感を放つ、林宏敏(ex.踊ってばかりの国)のギタープレイ

2016年12月12日 18:12  リアルサウンド

リアルサウンド

カネコアヤノ『さよーならあなた』

 11月19日に行われた東京キネマ倶楽部でのワンマンライブをもって、踊ってばかりの国からギタリストの林宏敏が脱退した。林は結成当初からのオリジナルメンバーであり、ブルースやラグタイムに造詣が深く、ロックンロールナンバーでの軽快なカッティングやサイケナンバーでの轟音、あるいはスライドバーを用いたプレイなどでバンドの音楽生の軸を担っていただけに、この脱退には非常に驚かされた。

 しかも、昨年11月に元THE★米騒動の坂本タイキを新ドラマーに迎えて以降、バンドは素晴らしい新曲を生み出し続けていて、林もまた何かが覚醒したかのように、ステージ上での存在感を増していたのだ。現在YouTubeには今年のライブ映像が数本アップされているのだが、中でも素晴らしいのが10月3日の下北沢シェルターでのライブにおける新曲「Boy」の演奏シーン。林のミニマルな反復フレーズと解放感のあるサビの対比が印象的な「Boy」はバンド史上でもトップクラスの名曲で、後半にはエモーショナルなソロを披露し、さらにはもう一度メインフレーズに戻って下津光史(Vo,G)とのハモりを聴かせたりと、8分に及ぶ長尺の中に林のギターの魅力が詰まっている。


 かつての林と言えば、背の高い帽子を目深に被り、ヒッピーのような印象だったが、いつからか帽子を被らなくなり、シャツを着込むようになった。また、ソロではステージの前方に出て行ったりと、長髪を振り乱しての激しいアクションをするようになり、その姿はまるでジョン・フルシアンテ(ギターはストラトじゃなくてテレキャスだけど)。もともと背が高く、雰囲気は持っていたが、ここ最近は本当にステージ映えのするギタリストになっていただけに、もうその姿を踊ってばかりの国のライブで見ることができないのは、とても残念だ。

 林はバンドの脱退に寄せて、「これからは自分が楽しめ、自分を成長させてくれるフィールドでギターを弾き続けます」とコメントしていて、ギタリストとしての覚醒が、結果としてバンドと袂を分かつという決断に向かわせたのかもしれない。もちろん、彼の意志を最大限に尊重したいが、せめて「Boy」をはじめとした素晴らしい新曲たちをバンドと共にレコーディングしてほしいというのが、一ファンとしての本音ではある。

 しかし、林はすでに「次」へと向かっている。その最初のアクションとなるのが、12月7日に発売されたカネコアヤノのファーストEP『さよーならあなた』への参加だ。ノスタルジーを喚起するフォーキーなメロディーや歌声が持ち味のカネコは、今年内村イタルとのスプリットや弾き語りCDをリリースした他、舞台『光の光の光の愛の光の』に役者として出演し、映画『退屈な日々にさようならを』では出演だけでなく、主題歌や挿入歌(いずれもEPに収録)も手掛けるなど、活躍の幅を広げている。


 EPの表題曲「さよーならあなた」には、林以外に、キネマ倶楽部でのライブにオープニングアクトとして出演していたGateballersからベースの本村拓磨、さらにドラムの濱野泰政が参加。Aメロとサビのテンポチェンジが印象的な楽曲において、林は「Boy」にも通じるリズミカルな反復フレーズで曲をリードし、サビでは一転深いディレイのかかったサイケなギターでカネコの歌にゆったりと寄り添うことで、楽曲の世界観に大きく貢献している。カネコはもともと踊ってばかりの国のファンで、音楽性も通じるものがあっただけに、相性はばっちりだ。


 キネマ倶楽部でのライブからわずか3日後の11月22日、カネコは林をメンバーに迎えた4人編成での初ライブを下北沢シェルターで開催。2人は今後ともコラボレーションを続けていくのだろう。そしておそらく、ときにダイナミックで、ときにいぶし銀な林のプレイは、今後より多くの人から必要とされるに違いない。(金子厚武)