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4台のGT3チームが挑んだセパン12時間。日本勢がつかんだ『世界と戦える実感』と課題

2016年12月12日 09:51  AUTOSPORT web

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夜間走行を含む多くの走行時間が設けられたセパン12時間。日本チームにとっては良い刺激を受けたレースとなった。
12月10日に決勝レースが行われた、インターコンチネンタルGTチャレンジ第3戦『モチュール・セパン12時間レース』。このレースには日本から4チームがGT3クラスに参戦したが、どんな戦いを過ごし、何を得たのか。それぞれのチームの事情と戦いぶりを追った。

■ヨーロッパの強豪と、日本チームが揃ったセパン12時間
 今回のセパン12時間は、ヨーロッパで多くのエントリーを集めるブランパンGTシリーズのオーガナイザー、SROモータースポーツグループがバサースト12時間、スパ24時間という耐久イベントともに『インターコンチネンタルGTチャレンジ』の冠をかけ開催したもの。SROは近年メーカーワークスチームの参戦が多いセパン12時間を最終戦とした。

 さらに、バランス・オブ・パフォーマンスで提携関係にあるスーパーGTとの協力により、G3ホモロゲーション(地域ホモロゲーション)としてスーパーGT300クラスに参戦するJAF-GT300車両(GT300マザーシャシー含む)、スーパー耐久ST-X車両の参加が実現した。これにより、日本とヨーロッパの強豪がともにレースを戦うことになったのだ。

 日本からは、スーパーGT300クラスに参戦するaprのJAF-GT車両30号車トヨタ・プリウスGT(永井宏明/佐々木孝太/嵯峨宏紀)、JLOCの88号車ランボルギーニ・ウラカンGT3(織戸学/平峰一貴/エイドリアン・ザウグ)が、スーパー耐久チームはハブオート・レーシングの35号車フェラーリ488 GT3(モーリス・チェン/吉本大樹/細川慎弥/吉田広樹)と、埼玉トヨペット・グリーンブレイブの52号車メルセデスベンツSLS AMG GT3(平沼貴之/服部尚貴/密山祥吾/番場琢)が参戦した。

 一方、ドイツからは名門アウディスポーツ・チーム・フェニックス、マンタイ・レーシングが参戦。その他にも実質的なAFコルセと言えるスピリット・オブ・レースSAの50号車フェラーリ、ワークスドライバーが駆るフライングリザード/K-PAXレーシングの9号車マクラーレン650S GT3が参戦した。GT3カテゴリーの台数としては14台と、12時間耐久としてはやや寂しいが、それでも“少数精鋭”が揃ったと言えるレースだった。

■日本チームのそれぞれの“思惑”
 今回参戦した4チームは、それぞれ参戦した理由と目的があった。まず、aprの30号車トヨタ・プリウスは、今季スーパーGTに初参戦した永井宏明の“スキルアップ”が主な目的だった。永井はトヨタカローラ三重やネッツトヨタノヴェル三重の社長を務めるジェントルマンドライバーだが、永井自ら出場を決断。レギュラーの佐々木がそれをサポートし、嵯峨はさらに第3ドライバーとしてサポートする形をとった。

 また、同様に“スキルアップ”が目的だったのが、埼玉トヨペット・グリーンブレイブだ。これまでスーパー耐久に参戦を続けてきたチームは、主にディーラーメカニックたちが携わっていたが、将来のステップアップに向けてのスキルアップを目指していた。今まで、メカニックたちはセンターロックのレーシングカーを扱ったことがなかったのだ。オーナードライバーでもある平沼のスキルアップも兼ねていた。

 一方、“世界への挑戦”を掲げていたのはハブオート・レーシング。「いつも何かチャレンジしていたい」という吉本がモーリスとともに立ち上げたチームは、マカオでのFIA GTワールドカップに出場したあと、マシンをセパンに送り、世界との戦いを続けてきた。

 JLOCのランボルギーニ・ウラカンは、また少々事情が異なる。チームの則竹功雄代表によれば、イタリアのランボルギーニから出場の要請が来たための参戦だったようで、織戸、平峰に加えランボルギーニのファクトリードライバーであるザウグを起用。そのため、他の3チームのようなプロ-アマクラスでの参戦ではなく、ワークスと同様のプロクラスでの参戦となっていた。

■たっぷり走り込み。スキルアップは大収穫
 迎えたレースでは、JLOCのランボルギーニ・ウラカンがその実力を発揮し、ワークスのアウディ勢を追い回す展開となったが、終盤電気系のトラブルに見舞われてしまった。一方、ハブオート・レーシングのフェラーリは終盤ポジションを上げて6位フィニッシュ。プロ-アマ・クラスの優勝を果たしてみせた。

 埼玉トヨペット・グリーンブレイブもきっちり走りきり完走。目標のプロ-アマ表彰台こそならなかったが、「速いクルマに慣れること、メカニックたちに慣れてもらうという目標はしっかり果たせた。貴重な経験を積めて、来年に繋がると思います」と平沼は満足げな表情を浮かべた。

「国内でこのSLS AMG GT3を走らせたことはありましたが、レースは初めてですし、スピードがふだん乗っているS耐車両とは全然違う。怖い思いもいっぱいしましたが、早めに経験できて良かったです。雨のなかでのスリックや大雨でのリスタートなど、お金を払ってもできないことをできた。フルコースで楽しめましたね(笑)」

 また、自身のスキルアップという目標を立てていた永井も「夜間走行も初めてでしたし、本当にいい経験になりました。この歳(永井は今年48歳)になって言うのもなんですが(笑)、新しい経験はいいですね」と言う。

「セパンを走るのも初めてですが、高速コーナーや中速コーナーの繋がりもあり、スピードを落とさず攻めるのが難しいコースです。この時季の日本では、気温がシーズン中に比べて下がりすぎていて、コンディションがかけ離れている。ここはデータも取れますし、すごくたくさん走り込めます。しっかりとしたセットアップにも取り組めますし、いいと思いますよ」

 実際、埼玉トヨペットとaprは平沼と永井に走行時間をかなり多くもたせており、走行初日から決勝までの4日間合計で21時間もある走行時間のなかで、たっぷりと走り込んだ。「永井さんは4日で1000kmくらい乗っている(apr金曽裕人代表)」というほどだけに、ジェントルマンドライバーにとっては最高のスキルアップになっただろう。

■ドライバーたちの手ごたえ
 一方で、ふだんトップクラスのレースを戦っているトップドライバーたちにとっても貴重な経験になったようだ。

「マンタイ・レーシングとか、遠征に来ているのにあそこまでのピット設備を持ってきて、プロフェッショナルらしさをみせている。ああいうのを含めて、日本でやっているのと比べていろんなものが見える。チームにしてもドライバーにしても、ああいうのを見て勉強できるのはいいと思う」というのはハブオート・レーシングの吉本大樹。

 また、「30号車と(ふだん乗っている)31号車でクルマの大きな違いはないんですが、タイヤが同じ条件になったときに、今のプリウスGTは遅いなと。日本のGTで速いのはタイヤの差やハイブリッドの部分が大きい。素で走ると、ストレートが繋がるセクター1や4で合わせて1秒くらい遅れている。それでコーナーが速いかというと、そこまでじゃない。そういうのが見えただけで収穫はあった」というのは、30号車をドライブした嵯峨宏紀だ。

「それと、このレースで勝とうと思ったら、やはりワークス勢は耐久用にきちんとクルマができている。ヘッドライトの光量だけでも向こうはすごい。アウディの後ろを走っているだけで前が良く見えるんですから。こちらに耐久のノウハウがないのもちろんですし、そもそもそういうレースをいま、日本ではやっていないですからね」

 また、これまで数多くのレースを戦ってきた織戸学も「世界で戦っているチームの戦い方を見ることができるので、JLOCにとっては収穫なんじゃないかな。すごく時間を有意義に使えているし、いろいろなことを勉強できると思う」という。

「タイヤワンメイクというのも面白いよね。ひとつの同じタイヤをどれほど使いこなせるかという勝負だから。スーパーGTのようにマルチメイクも、それはそれで面白いけど、タイヤの差によって勝負が決まってしまう。いいチャンスを則竹会長に作ってもらったと思う」

■世界の強豪と戦い、実感した差
 そんな織戸とチームメイトの平峰一貴は、レース序盤戦で優勝したアウディ勢と互角以上の勝負を展開。スーパーGTチームの実力を存分に発揮し、織戸も「楽しいね!」とレース途中までは笑顔をみせていた。平峰も予選後は「彼らがものすごく速いのかと思いきや、全然勝負できる。これは日本だけで戦っているのではない魅力ですね」と手ごたえを得ていた。

 レース後、ふたたび平峰に話を聞くと「S耐で9時間は体験しているのでそれほど長いとは思いませんが、S耐はある程度セーブして走るのに対して、こちらは体力を使いますね。良い経験になりました」と改めて感想を語った。

「序盤は良かったんですが、雨が降ってから海外勢との差がついてしまいました。日本ではダメだけど、こっちではやっていいことが少しずつあったんです。ブリーフィングではダメとは言われていましたが、ここではエスケープゾーンをたくさん使ってもペナルティも出ないですし、そこで1~2秒ずつ差がついていたと思います」

「ドライでは僕たちは海外勢に負けていなかったと思いますが、ウエットとの差と、チームの力の差が少しずつあったと思います。ピットストップでもわずかに遅かったです。僕たちももっと力をつけなければいけないと、本当にいい勉強になりました」

 このウエット時のヨーロッパのドライバーたちの走りは、他の日本人ドライバーも認めていた。「海外勢が『12時間もあるのにそんな走りをするの!?』というレースをするのが勉強になりました。1周も無駄にしないし、四輪脱輪なんか関係ない!みたいな」というのは、埼玉トヨペット・グリーンブレイブの密山祥吾。

「最後に僕もやってみたんですが、グリップするんですよ。コースの外側が。(アール)バンバーとか、(ローレンス)バンスールとか、一緒に走れて良かったです。できれば同じスペックのクルマで戦ってみたかったですね」

 実際、走行初日の走り出しから、コースサイドで写真を撮っていても、ヨーロッパのワークス勢は「なぜあんな無駄な走り方をするのだろう?」というほどコースを大きくはみ出しながら走っていた。一方で、日本勢はきっちりと白線を守るスムーズなドライブが見られていた。このあたりの週末の組み立て方も、大きな文化の違いを感じるレースとなった。

■「来季はGT300でヨーロッパ勢をやっつけたい!」
 また、今回JAF-GT車両として30号車トヨタ・プリウスGTが参戦したのは大きなトピックスだったと言えるだろう。当然GT300でしか走っていない車両であり、隣のピットだったマンタイ・レーシングのクルーをはじめ、海外チームのスタッフが数多くプリウスGTを見にピットを訪れていた。

「自分たちで作ったクルマを海外で走らせたのは、実質初めて。本当に面白かった。それにこっちのレギュレーションやレースのやり方とか、スーパーGTをやっているだけでは分からなかったことも持ち帰ることができると思う」というのはapr金曽代表。

 先述の嵯峨のコメントにもあるとおり、耐久向けの装備が足りなかったことや、今回ハイブリッド非搭載で挑んだ場合での戦闘力不足やトラブルなど、金曽代表はひさびさの耐久、そして海外での戦いで多くのことを学んだ様子。一方で、永井のスキルアップという目標こそ達したが、チームを率いる立場としては「やっぱり勝ちを狙いたい」という気持ちもムクムクと出てきたようだ。

「自分たちだけでは足りないので、(GT300の)みんなで『ヨーロッパ勢をやっつけようぜ!』って思った(笑)。あいつらなんであんな速いんだよって。日本ではポルシェもアウディもそこまで勝てないと思わないし、最高速でプリウスがフェラーリに負けたことないのに『なんか速くない?』って」

「今は海外と日本の交流ができていない分、日本にいるヨーロッパメーカーのGT3カーは、若干デチューンされているのではないかと思ってしまうくらい。日本ではニッサンGT-Rが速いって言われるけど、それはGT-Rが海外と仕様が同じなだけで、他のクルマが遅いんじゃないかって思う。全部データ取ったけど、やっぱりおかしい(苦笑)」

「来年またセパン12時間に出るなら、通関の問題とかいろいろあるけど、本気のハイブリッドを積んだプリウスGTで勝負したい。マザーシャシーも含めて他のJAF-GT勢も巻き込んで、ドッカーンとヨーロッパ勢をやっつけたいよね。このレースは本当に面白いし、セパンはクルマの面ではすごくいろんなテストができるから」

■「セパン12時間を世界一決定戦に」
 今回のセパン12時間は、プリウスGTの参戦をはじめSROとGTアソシエイションの協力により、スーパーGT車両の参戦が実現した。セパンにはGTアソシエイションのスタッフが訪れ、各チームの参戦をサポートしている。

 GTアソシエイションの一員としてSROとの協力関係を築き、自らはドライバーとして今回のレースに参戦した服部尚貴は、「SROとGTAが一緒に組んだ初年度として、GT3の参戦が4台というのは悪い数字ではないと思います」と振り返った。

「日本の窓口として、カテゴリーを問わずこのレースについてはサポートできたらと思っています。日本ではまだ馴染みのないレースだけど、ヨーロッパやオーストラリアからも参戦チームが来ているし、今後はこのセパン12時間を、GT3の世界一決定戦のようにできたらと思っています」

「セパンはある意味スーパーGTチームには馴染みのサーキットでもあるし、ヨコハマタイヤも知っているという意味では、日本勢も可能性があると思う。本気のワークスも参戦しているので、GT3でやっているチームは世界での実力を量るいいチャンスになると思います。当然、バジェットという意味ではスーパーGTの一戦と比べるとかなりかかってしまうけれど、世界一を獲って欲しいですよね」

 今回のレースでは、日本勢に足りないものも当然多く見られた。吉本のコメントにもあったとおり、ドイツのワークス勢は遠方のレースを感じさせないほどのピット設備を整え、スタッフの数も違う。また、日本チームは慣れないタイムスケジュールや走行時間に、チームスタッフたちの疲労の色が濃く見えた。ちなみに言えば、決勝日もスタンドに観衆はほとんどいなかった。

 ただ世界の強豪と戦いその位置を知ることができ、ジェントルマンドライバーにとっては集中した走り込みができたりと、来季以降のセパン12時間はスーパーGT300チームにとっては非常に魅力あふれるレースになるというのが筆者の実感だ。

 レース中に展開されたJLOCの88号車ウラカンがアウディを豪快にかわすシーンは、スーパーGTを長年追ってきた身としてはたまらなく心躍る瞬間だった。来季、セパン12時間では日本チームがどんな活躍をみせてくれるだろうか。さらなるスーパーGTチームの“殴りこみ”を強く期待したい。