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2016年は欅坂46の年だった 彼女たちがアイドル・シーンを席巻した理由

2016年12月10日 17:01  リアルサウンド

リアルサウンド

欅坂46『二人セゾン』(初回限定盤A)

■宗像明将のチャート一刀両断!


【参考:2016年11月28日~2016年12月4日のCDシングル週間ランキング(2016年12月12日付・ORICON STYLE)】(http://www.oricon.co.jp/rank/js/w/2016-12-12/)


 2016年12月12日付の週間CDシングルランキングの1位は、欅坂46の『二人セゾン』。今年デビューしたグループですが、初登場1位を獲得することにもはや何の違和感も抱かない存在です。デビュー・シングル『サイレントマジョリティー』、セカンド・シングル『世界には愛しかない』に続く3作連続の初登場1位。しかも、『サイレントマジョリティー』の推定初回売上枚数が約26万枚、『世界には愛しかない』の推定初回売上枚数が約32万枚だったのに対して、『二人セゾン』の推定初回売上枚数は約44万枚と、さらに枚数を増やしました。


(関連:欅坂46、デビュー8カ月で紅白初出場を果たした理由 グループの一貫したコンセプトを紐解く


 「二人セゾン」は、作曲はSoichiroK/Nozomu.S、編曲はSoulifeの名義になっていますが、作編曲はともに河田総一郎と佐々木望によるSoulifeによるものです。Soulifeは、これまでも乃木坂46や欅坂46に楽曲提供をしてきました。その一方、Soulifeは2010年につばさレコーズからデビューしているので、いわばBiSの先輩格であると考えると思わず「人に歴史あり」と感じてしまいます。Soulifeは井上苑子にも楽曲提供をしていますが、これもつばさエンタテインメントとの関係によるものでしょう。アイドル方面では、岡山のアイドルグループ・S-Qtyにもかつて楽曲提供をしていました。


 Soulifeによる「二人セゾン」は、Bメロの凛としたメロディーが印象的です。そして、譜割りが細かいBメロから、サビへの開放感が大きな魅力になっています。サウンドはアコースティックな感触で、その中でもストリングスやコーラスワークが大きなアクセントに。メロディーもサウンドも「品格」を感じさせます。


 「二人セゾン」のMVやテレビでのパフォーマンスも見ましたが、一糸乱れぬ動きを強調する要素は薄くなり、これまで以上に躍動感を押しだしているのが印象的でした。さらに、今回は平手友梨奈のソロ・ダンスがあり、狂おしいほどに踊る姿が鮮烈です。そして、グループとしてもっとも視覚的な快楽があったのは、その平手友梨奈のソロ・ダンス後に、全員が前方に直進してくる光景でした。その動きだけでも美しいのです。


 カップリングの「大人は信じてくれない」は、アコースティック・ギターとともにエレキ・ギターも響き、ロック色が強いサウンド。盤種ごとのカップリングを聴いていくと、TYPE-A収録の「制服と太陽」は、楽曲もサウンドも「二人セゾン」に近い爽やかでアコースティックな感触です。TYPE-B収録の「誰よりも高く跳べ!」は、ブラスセクションやストリングスに彩られたブラック・ミュージック色が濃いサウンド。ファンキーになりすぎないギリギリのラインを攻めているのですが、終盤のキーボードはかなりディスコな感覚です。TYPE-C収録の「僕たちの戦争」は、緊張感のあるメロディーに貫かれており、特にAメロはラップが始まったのかと思ったほど細かい譜割り。通常盤収録の「夕陽1/3」は、冒頭のエレキ・ギターから歌謡曲テイストで、ノスタルジックな感覚に包まれています。


 さて、私がこのチャート連載を担当するのも、2016年は今回が最後になりました。その今回、欅坂46を取りあげていることには、ある種運命的なものも感じます。なぜなら、2016年のアイドル・シーンを振り返ると、「2016年は欅坂46の年だった」と言えるほどだからです。


 私個人はアイドルに関してインディーズ志向ですが、そんな人間のところまで欅坂46の「サイレントマジョリティー」の衝撃波は届いてきました。8月に開催された『TOKYO IDOL FESTIVAL 2016』で初めて欅坂46のライブを見たときの圧倒的な視覚的快楽は忘れられません。それは、AKB48グループ、そして乃木坂46の成功を踏まえたうえで、入念にコンセプトが練られ、欅坂46のメンバーがそれをフィジカルに表現していたからでした。


 歌詞の面では、「サイレントマジョリティー」のリリース時から、「大人たちに支配されるな」といった歌詞がアイロニーの対象になることもありました。欅坂46は大人にプロデュースされているわけですから、確かに皮肉ではあります。しかし、大人たちからすると「人を食っている」と感じるほどのメッセージのストレートさが、欅坂46を若者たちにリーチさせた事実もまた直視すべきでしょう。「二人セゾン」とそのカップリングも、どの歌詞も驚くほどテーマ設定が明確です。


 「サイレントマジョリティー」に象徴されるように、秋元康はときにポリティカルな要素も意識させますが、それはあくまでひとつの「素材」に過ぎません。そこに、衣装が社会問題化したような「危うさ」も内在しているように見受けられます。欅坂46という存在の本質は、いわばノンポリ(政治的無関心層)の極致であることでしょう。しかし、歌詞は一貫してシンプルにしてストレートなメッセージを発しています。このアンビバレンツこそが、2016年において若年層に対してもっとも有効な表現であったことは記憶しておきたいです。


 それでは皆さん、良いお年を。まだ12月前半ですが。(宗像明将)