2016年12月10日 09:12 弁護士ドットコム
雨の日の帰り道、どこかに傘を置き忘れてしまうことは珍しくない。JR西日本によると、同社に届けられる落し物の傘は年間およそ22万本。しかし、返却率は14%ほどしかないそうだ(2015年度)。
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誰も取りに来ないのであれば、事業者やお店が勝手に処分しても良いのだろうか。吉田要介弁護士に聞いた。
ーー落し物の傘を勝手に処分したり、ほかの人にあげたりしてもいい?
「刑法上は『占有離脱物横領罪』ないし『窃盗罪』に問われることになります。実際に罪に問われることは少ないと思いますが、やめた方が無難でしょう」
ーーでは、法律上どう扱うべきなのか?
「傘の処分は、遺失物法に従う必要があります。かつては、忘れ物の傘もほかの落し物と同じ期間、保管することが義務付けられていました。しかし、保管コストがかかることなどから、2007年の法改正により短期間で処分できるようになりました。
処分の方法は、特例施設占有者(JR西日本など一部の公共交通機関や百貨店など)かどうかで扱い方が変わってきます。たとえば、落し物は原則、警察に届けなくてはなりませんが、特例施設占有者であれば、警察(署長)に届出を提出することで、施設自ら保管できます。
そして、落とし物の公告後、2週間以内に持ち主が見つからなければ、傘を売っても良いことになりました。傘の代わりに、その売却代金を保管するのです。財布などと同じで、保管期間は3カ月たっても持ち主が見つからなければ、代金は特例施設占有者のものになります。
なお、かかった費用は、売却代金から支出できますし、買い手がいないときや、売上見込が費用に満たないと認められるときは、廃棄もできます」
ーー保管先がそれ以外の場合は?
「多くの店はこちらに該当するでしょう。特例施設占有者でない場合、1週間以内に傘を警察(署長)に提出しなければなりません。違反すると、法律上は『占有離脱物横領罪』などに問われ得ます。
なお、提出を受けた警察も2週間保管すれば、売却することができます。その場合、公告から3カ月たっても持ち主が見つからなければ、売却益は店舗のものになります。
ただし、これらはあくまで法律上できるというだけで、実際に活用するかどうかは特例施設占有者や警察次第です」
実際の運用はどうなっているのだろう。弁護士ドットコムニュースは、特例施設占有者のJR西日本と、一般店舗から落し物の傘が届けられる警視庁に取材した。
JR西日本によると、同社ではこれまで傘を3カ月間保管し、所有権が移ってから処分していた。しかし、今年4月、警察庁から公告後2週間保管したら処理するよう要請があったという。そこで、12月1日から博多駅(福岡市)と天王寺駅(大阪市)で「2週間方式」を採用した。今後、対象の駅を増やす方針だ。
ただし、費用の方がかかるため、廃棄・売却しても赤字とのこと。そのため、売却後に持ち主が見つかっても、売却代金は支払っていない(20条5項)。
警察の場合も運用方法は統一されていない。遺失物法では、警察も「2週間方式」(9条2項1号)を使えるが、東京都を管轄する警視庁では、所有権が放棄された傘について、3カ月が経過し、東京都のものになるまで処分を待つという(37条)。
遺失物法の改正で、公告後2週間以内に持ち主が見つからなければ処分が可能になったが、実際は十分に活用されてはいなかったようだ。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
吉田 要介(よしだ・ようすけ)弁護士
千葉県弁護士会所属。日弁連子どもの権利委員会事務局次長,千葉県弁護士会刑事弁護センター委員。法律を「知らないこと」で不利益を被る人を少しでも減らすべく、刑事事件、少年事件、家事事件、一般民事事件等幅広く手がけ、活動している。
事務所名:ときわ綜合法律事務所
事務所URL:http://www.tokiwa-lawoffice.com