「ビジネスの世界で一番になりたい」
「今の会社で終わらずに、もっと大きな舞台で勝負してみたい」
こんな人にとって、実際にトップクラスのキャリアを歩んできた人が若い時期にどのように働き、どのように周囲から突出していったのかを知ることは、自分の働き方を考えるヒントになるはずです。
『トップ1%に上り詰めたいなら、20代は“残業”するな』(大和出版刊)の著者、山口周氏は、ボストン・コンサルティング・グループやA.T.カーニーなどで目覚ましいキャリアを重ねてきたコンサルタント。
今回は山口さんにお話をうかがい、電通でスタートしたという自身のキャリア初期の仕事ぶりについて教えていただきました。
――山口さんの著書『トップ1%に上り詰めたいなら、20代は“残業”するな』には「トップになりたいのなら“残業”はするな」「仕事をむやみに効率化しない」など、20代の働き方について破天荒なアドバイスが溢れています。これらはどれも山口さんご自身が実践していたことなのでしょうか。
山口:「実践してきた」というよりも、私が他の人が働くようなやり方で働けなかったというのが本当のところです。
私がはじめに勤めたのは電通だったのですが、そこでは自他ともに認めるローパフォーマーで、ミスが多いし、残業もしないしで、最初の3年くらいは「あいつに任せると事故が起きる」くらいに思われていたはずです。
もちろん自分としては一生懸命働いているつもりでした。でも、任される仕事がどうにもやりがいを感じられないもので、そういう仕事を我慢してやる根性がなかったんです。
タイトルには「20代は“残業”するな」とありますが、私の場合は何か戦略的に仕事を切り上げていたわけではなくて、「もう限界だ」と思って帰る時間が夕方6時だったという感じですね。
――しかし、そこから徐々にパフォーマンスが上がっていったわけですよね。転機になった出来事はありますか?
山口:はじめは大きなチームで下働きをしていたのですが、今お話したようにとにかくミスが多いし、定時になるとさっさと帰ってしまうということで放出されてしまって、ある山っ気のある上司の下につけられたんです。
チームはその上司と私の二人だけで、新規のクライアントを取ってくるのがミッションでした。その頃になると、残業しないどころか週に2日くらいしか出社していなかったのですが、その上司はもっと会社にこない人で、ほとんど職場にいませんでした。
そんな上司ですから、仕事の方も「全部自由にやっていいから」と放り投げるわけです。そうなると、やったことがない仕事ですからこちらも慎重になるじゃないですか。すると、結果としてあれほど多かったミスがほとんどなくなるという。
――まさに「ケガの功名」です。
山口:そうですね。そうやって一人でなんとかやっているうちに、クライアントもついてきて、売り上げが立って、利益率が上がってきて、と結果が伴うようになってきた感じです。
――どんな上司と出会うかで後のキャリアが変わってしまうことがよくわかるエピソードです。本の中でも「いい上司とダメ上司がいる」と書かれていましたが、社会経験の少ない20代のうちは、上司の性質を見抜く判断力がない場合が多いはずです。いい上司かそうでない上司かを見分けるポイントは何でしょうか?
山口:上司の良し悪しを判断するというのはそんなに難しい話ではなくて、自分が仕事をしていてすごく辛かったり、理不尽だと感じてやる気が出ないのであれば、それはやはり上司がおかしいんですよ。
経験が少ないと、どうしても自分に問題があるのではないかと考えがちなのですが、極論すると部下のやる気を引き出すのは上司の仕事ですから、やる気が出ないというのであれば、原因は本人ではなく上司を含めた環境にあると考えたほうがいい。
私もその上司の下についてから成果が出始めたわけですが、私自身が何か変わったわけではありません。会社の中での位置づけが変わっただけです。
でもそれによって、それまで箸の上げ下ろしまで指示されて仕事をしていたのが、自由を与えられ、その代わりに自分の責任で全てやらなくてはいけなくなりました。もちろん、それはそれで辛いこともありましたが、どちらがやりがいと楽しさを感じられたかといったら断然後者です。
――「マネジメントしないというマネジメント」という言葉がありますが、山口さんのやる気を引き出した上司の方はまさにこのタイプですね。
山口:かたや夜遅くまで残って事細かに指示出しするのが仕事だと思っている上司、かたや「とにかく売上を10億から30億に上げろ」とだけ言って本人はまったく会社に来ない上司ですから両極端ですよね。
ただ、マネジメントは結果としてその人の能力なりモチベーションを引き出すことができれば、どんなやり方でもいいんですよ。
裏を返せば、それは部下がモチベーションを持てないなら、100%ではないにしても上司が自分の仕事をうまくできていないということですから、「私のやる気が起きないのは管理職であるあなたの責任だと思います。どうやったらやる気がでるのか改善策を提案してください」くらいのことを言ってもいいのではないかと思います。
(後編につづく)