日本のモータースポーツファンは、スーパーGTで、すっかり見慣れた感もありそうな新型ホンダNSX(2代目)だが、実は日本での発売はまだ先の2017年2月。しかも国内の年間販売数は100台だから、これからも一般公道でお目にかかれる機会は極端に少ないかもしれない。
今回その貴重な新型NSXに試乗する機会を得たので、その速さ、乗り味、ハイテク満載の機能などをお伝えしていこう。
■スペック上の印象とは正反対の乗り心地
初代NSXは1990年に発売開始となった、ホンダ初のスーパースポーツ。当時アイルトン・セナらを擁して参戦していたF1マシンを性能曲線のピークに据え、市販スポーツカーの枠のなかで、そこにもっとも近い位置にコンセプトを置いて開発された。
その基本的な考え方は、27年後のこの2代目にも受け継がれている。複数のアルミ素材と高張力鋼管で構成された超軽量高剛性のスペースフレーム・シャシー、ミッドシップ搭載の3.5リッターV6ツインターボに3機のモーターを組み合わせたパワーユニットは最大581馬力を発揮する。
フロント42パーセント・リヤ58パーセントの前後重量配分と、フロント18インチ、リヤ19インチのややリヤヘビーなプロポーション、そしてマイナスリフト=ダウンフォースを発生させるボディエアロデザイン、カスタムオーダーながらカーボンセラミックローターが設定されたブレーキシステムなど、本格的なレーシングカーのような骨格構成を持つのがNSXなのだ。
こうしてスペックだけを見ていくと、とても尖った性格のじゃじゃ馬的なスポーツカーを連想するかもしれないが、実際に乗り込み走り出すと、まったく正反対の印象を受ける。とにかく低速でも扱いやすく、視界も全方位的に良好。キャビンも広々として圧迫感はない。高価で高性能なスポーツカーを発進させる緊張感は、すぐに薄れていく。
車高が低いので路面の段差や駐車場の車輪止めには注意が必要だが、それさえなければ街乗りも楽々。4つある走行モードのうち、QUIETモードを選択すると、EV(電気)走行を優先し、エンジン駆動時も低回転に保つため非常に静かで滑らかで、深夜の帰宅なども近所に気を遣わずにすむ。
■高速道路、峠道でも圧倒的な余裕を感じる
モードをSPORTS、そしてSPORTS+に切り替えて走り出すと、V6ユニットの力強い唸りを感じながら、シームレスに加速していく。アクセルにリニアに反応するレスポンスの良さは、ターボエンジン/3モーター/9速DCTトランスミッションを軸としたスポーツハイブリッドSH-AWDによるもの。
3つのモーターの駆動でターボラグを埋めながら、路面をしっかり掴んでトラクションを発揮する。だが、このSH-AWDの真骨頂は、こうした加速性能よりも旋回性能にある。
フロントのツインモーターがそれぞれ加速側でも減速側でも制御されるトルクベクタリングによって、右コーナーでは左前輪のモーターが加速、逆に右前輪は減速トルクを発生させることにより、驚異的な旋回性能を実現しているのだ。
加速しながら後輪荷重でターンインしても、逆に下りのハードブレーキングから前輪荷重でターンインしようとしても、いずれもアンダーステアの気配すら感じられない。
高速道路での巡行や、峠道ドライブでも、どんな速度域でも圧倒的な余裕を感じさせる。ゆっくり走らせていても楽しめるし、今回は公道試乗ゆえ試せなかったTRACKモード(サーキット走行を想定)では、そのスペックをフルに発揮した走る楽しみを味あわせてくれるに違いない。
■性能とエクステリアは納得の完成度。インテリアには物足りなさも
こうして走らせる楽しみを高次元に引き上げたNSX。オハイオの専用工場で作られたとしても日本の魂がこもったスーパーカーであり、値段も2370万円からと、それなりにスーパー。しかし、動的性能、パッケージング、制御、エクステリアデザインは納得のいくものだろう。
一方でインテリアの素材に高級感、特別感があまり感じられないことは残念な点。さらに、現在では多くの車種にラインアップされ、標準装備化も進んでいる運転支援システムが搭載されていないことも、価格なりの価値という意味では物足りなさを感じた。
たとえスポーツカーであっても、安全にも関わるこうした機能は実装して欲しいところ。一般乗用車よりも低い位置に設置されるセンサーやカメラの開発が追いつかなかったことが理由のようなので、仕様変更などでいずれ対応されることを期待したい。
2016年シーズンのスーパーGTでは2位が最上位と、優勝には一歩届かなかったNSX。来季はその車名から『CONCEPT』の文字が消され、日本でNSXを購入した幸運な100人分の夢も乗せて戦うことになる。この市販の年に、巻き返しを期待しよう。