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ペンタトニックス、なぜ『パズドラ』CMに抜擢? 先進的なアカペラの魅力をキャリアから追う

2016年12月05日 18:11  リアルサウンド

リアルサウンド

ペンタトニックス

 「パズドラの曲が外国の人たちに歌われてる!」「でもこれ、歌詞なんてないのに?」「しかも全部、アカペラで!?」CMを見て、こんなふうに思った人も多いことだろう。


 今回、スマホゲーム『パズル&ドラゴンズ』のCMにおいて、このゲーム内でおなじみの曲「Departure」を歌っているのはアメリカのアカペラ・グループ、ペンタトニックス。この5人は、本来はインストゥルメンタルであるこの曲をあえてアカペラ、つまり歌声だけで解釈しているわけだが、その仕上がりのカッコ良さには驚くばかりだ。


 しかしこのペンタトニックスのキャリアを思えば、「Departure」が今回のように生まれ変わったのはまったく不思議なことではない。それではペンタトニックスとは、いったいどんなグループなのか? と言うと、「TVに出てるの見たことある」とか「Perfumeを歌ってた人たち?」みたいな声が聞こえてきそうだが、ここでは5人のこれまでについてたどってみようと思う。


 まずペンタトニックスの存在が広く知られることになったのは1本の動画が発端だった。2013年にYouTubeにアップされた「ダフト・パンク・メドレー」という曲がアッという間に注目を集め、世界中の音楽ファンの間で一斉に拡散されたのである。


 この曲はその名のとおり、ダフト・パンクの「ワン・モア・タイム」や「ゲット・ラッキー」といったヒット曲をメドレーでカバーしたもの。YouTube上へのポストから3年以上が経過した現在、総再生回数は2億回を優に超えている。


 僕自身も当時、SNSを介した海外からの音楽ニュースでこの動画に出会ったのだが、最初に見た時に「何だこれは!?」と圧倒され、すっかり見入ってしまった覚えがある。何がすごいかというと、まず先ほどの楽曲たちをサウンドまで込みでアカペラでアレンジしてカバーしていること。さらにそれをマッシュアップによる解釈で、一気に聴かせてしまうという斬新さ。そしてアカペラ……5つの声自体の組み合わせで生まれる歌の躍動感とクオリティの高さである。


 歌の単なるカバーであれば、言わばそれは「歌ってみた」だったり、あるいはTVのオーディション番組だったりで触れる機会は多い。しかしこの「ダフト・パンク・メドレー」で表現されている領域は、そうしたものとまるで別の次元にあった。いきなり超ハイレベルのものがYouTubeで発見され、それに世界中がビックリして食いついた!というわけだ。


 このほかにもペンタトニックスは他のアーティストのカバーやマッシュアップを動画として発表し、そのいずれもが「こんなふうに歌っちゃうの?」「それ、やるか?」と思ってしまうような超人的なものばかりで、おかげでグループは世界レベルで認知されるようになっていった。つまりこの一連の流れは、そこに至る導火線として引かれていたわけだ。こうしてペンタトニックスのメジャー・デビューは全世界が待望する中で迎えることとなった。


 その前に、グループのそのものの成り立ちを簡単に確認しておこう。ペンタトニックスの結成は「ダフト・パンク・メドレー」を翻ること、さらに数年。もともとはアメリカのテキサス州アーリントンに住むスコット・ホーイング、カースティン・マルドナード、ミッチ・グラッチという現在もリード・ボーカルを務める3人が幼なじみで、高校時代にボーカル・トリオを結成していたのが始まりだった。形態はその頃からアカペラで、まだ10代だった3人はレディー・ガガの「テレフォン」の動画を発表している(ちなみに下の動画がアップされたのは2010年4月となっている)。


 その後3人は主にこうしたネット上での活動を通じてアヴィ・カプラン(ボーカル・ベース)とケヴィン・オルソラ(ビートボクサー)と知り合い、遠距離にも関わらず、お互いにコンタクトをとりながら、5人組のアカペラ・グループへと発展していく。ちなみにグループ名はペンタトニック・スケール(五音音階)からとったもの。やがて5人はアカペラのオーディション番組『ザ・シング・オフ』に出場することになり、その大会の直前に初めて顔を合わせたばかりなのに、見事に優勝を飾ってしまったのだ。


 思えばここには、動画サイトを主軸にしたインターネット、さらにオーディション番組と、まさに現代の音楽文化を反映しながらの出会いとサクセスストーリーがある。次の動画はその4年後、『ザ・シング・オフ』出場時の思い出を5人が振り返っている様子で、投稿主はメンバーの自主アカウントのSUPERFRUITになっている。


 この番組での優勝が2011年で、翌2012年にはインディーでの初作品をリリース。先ほどの「ダフト・パンク・メドレー」が2013年の後半のことで、2014年に入ってからメジャー・デビューを果たしたというわけだ。


 5人が日本に来るようになったのも、この2014年からだった。その時点までのミニアルバム2枚をバンドルした日本初アルバムがソニーから出たのが同年の夏。このアルバムには日本盤のみ映画『アナと雪の女王』でおなじみの「レット・イット・ゴー」のカバーを収録している。そして、サマーソニックへの出演で初来日が実現。この頃から日本のメディアで取り上げられることが増えはじめ、僕もTV番組に出てパフォーマンスしている5人を見かけ、イキイキと歌う姿とそのアカペラの魅力を楽しんだものだ。


 この年には初のクリスマス・アルバム『ザッツ・クリスマス・トゥー・ミー』もリリース。「きよしこの夜」「サンタが街にやってくる」などのスタンダードなクリスマスソングを中心にしながらチャイコフスキーの「くるみ割り人形」なども収めたもので、ムーディーな仕上がりが評判となった。ちなみにこの日本盤の最後には、山下達郎の名曲「クリスマス・イブ」の英語によるカバーバージョンが特別に収録されている。


 2015年は6月に日本で初となる単独公演として4都市6公演をまわるツアーを開催。また本国では「ダフト・パンク・メドレー」でグラミー賞の「最優秀インストゥルメンタル/アカペラ・アレンジメント」部門を獲得、さらにアメリカン・ミュージック・アワードでは「スター・ウォーズ・メドレー」を披露するなど、カバーをアカペラで歌うグループとしてのイメージがいっそう定着していった。しかし、その方向性は徐々に変わっていく。この年の10月にリリースしたフルアルバム『ペンタトニックス』では、それまでにも少しずつ発表していたオリジナル楽曲を全面にフィーチャーしたのだ。この作品はポップ・アルバムとしても優秀で、5人のチャレンジは見事に成功を収めることとなり、アカペラ・グループとしては史上初めて全米アルバム・チャートの首位に立ったのである。さらにこのアルバムのリード・シングル「キャント・スリープ・ラブ」では渡辺直美がフィーチャリング参加した日本版ミュージック・ビデオも作成され、話題となった。


 快進撃は2016年に入っても続き、「くるみ割り人形」によって2年連続のグラミーを受賞。ペンタトニックスは名実ともに世界トップクラスのアカペラ・グループとなった。そうした中で5人は世界ツアーを敢行、その間にも2度の来日を果たし、再びサマーソニックへの出演も実現させる。この時期には「チョコレイト・ディスコ」「ポリリズム」といった曲を含む「Perfumeメドレー」を発表。この曲では初めて日本語で歌う歌詞もあり、そうした話題性も相まって、日本でさらに幅広い層のリスナーにアピールすることとなった。


 そしてこの11月には、クリスマス・アルバム第2弾の『ペンタトニックス・クリスマス』がリリースされたばかり。今作ももちろんクリスマスソングのカバーが中心だが、そこにオリジナルの2曲を入れたり、先頃惜しくも亡くなったレナード・コーエンの名曲「ハレルヤ」を歌ったり、あるいは名門ボーカル・グループのマンハッタン・トランスファーをフィーチャーしたりと、今の5人の創意工夫が感じられる仕上がりだ。


 と、ここまで駆け足でペンタトニックスについて書いてきたが、僕が3年前に初めて耳に、いや、目にもして以来、もはや世界屈指の有名なアカペラ・グループになった今でも、その存在感はかなり個性的なものに映っている。


 たとえばアカペラと言って多くの人が思い浮かべるのは、複数の人間がキレイな声を重ねることで作り上げていく歌だろう。とくに日本では2000年代の初頭にTV番組内の企画「ハモネプ」でアカペラの人気が盛り上がった時期があり、覚えている人も多いはず。これと前後してゴスペラーズやRAG FAIRが世に現れ、アカペラは日本の一般の音楽ファンにも通りやすい言葉となった。彼ら以外にもTRY-TONE、INSPi、Baby Boo、SMOOTH ACEといったグループの名が思い浮かぶし、鈴木雅之が在籍したシャネルズにもアカペラの要素はあった。そして何よりもペンタトニックスもカバーした山下達郎は自分ひとりの多重コーラスでアカペラ・アルバムを作ったりしている。ちなみにアカペラというよりボーカル・グループというほうが的確だが、もうすぐ武道館公演に臨むLittle Glee Monsterは、実はペンタトニックスとは初来日時に共演済みだったりする。


 アカペラを音楽性の重要な要素としている海外なグループとしては、今回のクリスマス・アルバムの「ホワイト・クリスマス」のカバーでもコラボレーションしているアカペラ界の大御所マンハッタン・トランスファーや、アメリカのTAKE 6やロッカペラ、ボーイズ・Ⅱ・メン、14カラット・ソウル、ナチュラリー7、イギリスのキングズ・シンガーズ、スウェーデンのリアル・グループなどが有名どころ。またK-POPの東方神起も5人でアカペラを歌っていた時期もあった。ここまで書くと、アカペラをグッと身近に感じてもらえるのではないだろうか。


 ただ、ペンタトニックスはこうした先例をいくつも考えても、他に類を見ないアカペラ・グループだ。全員がまだ20代である5人は、結成に至る出会いの過程もじつに今風であるし、何と言っても大きいのは音楽性が非常に先進的で、しかも雑食的であること。音楽ファンとしては、そここそがこのグループの最大の魅力であると感じるほどだ。


 まずメンバーの歌と発声の技量の高さ、そしてボイスの響きの個性の違いも含めたコンビネーションの秀逸さは大前提として……その上に大きくあるのは、楽曲のアレンジ力とそれを実現させる技術の優秀さである。それに加えて、別の曲をつなぎ合わせてメドレーという形でマッシュアップし、ひとつの楽曲にまとめ上げる感覚には、エディット力とも表現したくなるほどの達者さがある。


 中でも特徴的なのは、ベース・ボーカルとビートボックスの存在だ。彼らのアカペラの基盤には、クラシカルなドゥーワップやコーラス・グループからの流れだけでなく、明らかにヒップホップなクラブ・ミュージック、エレクトロニカを当たり前のものとして聴いてきた世代特有の感性がかいま見える。


 それゆえにペンタトニックスは、クリスマスやトラディショナルな歌をまっとうないい曲として歌える能力もありながら、映画音楽から最新のポップス、ロック、EDMまで対応する幅の広さがキープできているのだ。5人の声にかかれば、『ニンジャ・タートルズ』もマイケルもフリート・フォクシーズも、みんな同じまな板の上に乗ってしまうのである。


 メンバーそれぞれのルーツが雑多であるのも現代的というか、今の世界の空気を反映していると思う。またYouTubeからブレイクする際に、ビジュアル面として5人の鮮やかなカラーリングやスタイリングも奏功しているのではないだろうか。重ねて言うが、そこもまたじつに今風だ。


 以上、ペンタトニックスの魅力について述べてきたが、ここまでミクスチャー的な感覚を持っているグループだとわかってもらえれば、5人がインストのゲーム音楽を歌うことにさほど違和感を覚えないのも理解していただけるだろう。それにここまでの経歴のエピソードを通じて、日本に対して特別な思いを持っているのも伝わっているはず。今回のパズドラの企画も日本サイドとの良好な関係性があってこそ実現したものと思われる。


 今回の「Departure」による大量のメディア露出をきっかけに、このユニークきわまりないアカペラ・グループの魅力に、今一度触れてみてほしい。(文=青木優)